RSS フィード

拝啓高浜虚子先生

Posted by a-kasahara on 14.05.26 13:43
上演校名:宮城県古川高等学校
人数  :女子3名
上演時間:約60分


「拝啓 高浜虚子先生」



生徒1 石田奈美(部長)
生徒2 秋元不二子(アキモト)
生徒3 高野素子(モトコ)

※三人以外のセリフは実際には語られない。

生徒4 水原桜子(サクラ)
居残り監督 山口誓司
英語部部長 加藤 秋




  放課後の教室である。

2 そんなに時間ないわけでしょ。
1 だから展開としてはさ、私がお題を出して、
2 モトコがその場で詠む。
1 そうそう。
2 私が言うのも何だけど、なんか天才的な所あるからね。うん。
1 早いからねえ。
2 ねづっちみたいだもんね。
1 整いました。
1 でもちょっとお題に偏りがねえ。
2 ああ、確かに。
1 で、基本的な進め方はそれでいいと思うんだけど。
2 ああ、うん。
1 たとえばさ、先輩たちのこととかは?
2 うーん、せっかくだからしゃべった方がいいんじゃないの?
1 でもなあ。
2 でも?
1 知ってるかなあ?
2 ああ、まあね。
1 しかもさあ。
2 しかも?
1 成績、微妙だしね。
2 ああ、確かに。
1 運動部で言う所のベスト8でしょ。
2 でも一応全国大会だからね。
1 うん、まあね。
2 甲子園だよ甲子園。
1 まあねえ。でもずいぶん前の話だからなあ。
2 でもやたら甲子園甲子園ってさ。
1 あんまり興味ないよね、甲子園。
2 昨日テレビでさ。
1 テレビで?
2 激闘、あれ激突だったかな。
1 まあどっちにしても激しいわけね。
2 うーんと、激烈?まあいいや。

  少しの間。

1 え、なんでそこでやめちゃうかな。自分で振っておいて放置するのやめてくれない。
2 あ、なんだっけ。
1 ちょっと、大丈夫?
2 ああごめん、最近なんかたまにね、ぼーっとしちゃうのよ。
1 で、激烈…何なの?
2 ああ、激闘カレー甲子園ね。
1 なによ、激闘だったの?結局。
2 うんうん激闘。
1 だから、何なのそれ。
2 なんかご当地カレーの一番を決めるみたいな。
1 ご当地カレー?、金沢カレーとか?
2 北海道スープカレーとか。
1 えっと、あと何かあったっけ。
2 でも結局カレーじゃんみたいな。
1 …お腹すいた。
2 食堂のカレー、いまいちだよね。
1 私ね、濃すぎると思うんだ。
2 あ、でもそれは好みじゃないの。
1 ねっとりしすぎ。
2 さらっとしたのがいいの?
1 性格と同じでね、さらっとしたのが好きなのよ。何でも。
2 なんかそう言われるとさ。
1 性格もこうどろっと、
2 関係ないし。
1 理想はキャンプのカレー。
2 キャンプ?
1 人参とかがちょっと生煮えで。
2 やだやだ。
1 明らかに水に対してルーの量が少なかったと思われる色の薄さ。
2 前から思ってたけど、食べ物の趣味おかしくない?
1 そんなことないけどなあ。
2 しけったおせんべいが好きとか言うし。
1 それねえ、なかなか理解してもらえない。
2 共感できません。あ、全然話し違うんだけどさ。あ、違うってほど違わないんだけど。あ、まあいいか。
1 だから、自分で言い出して自己完結するのやめなさいってば。
2 ごめんごめん、あのね、文化祭だけどさ。
1 ああ、話し戻ったのね。ま、新入部員入ったとしてね。
2 うん、入ったとして。
1 まだ4月だっていうのにさ。
2 早すぎだよね。
1 早すぎる。うちは何でも早すぎだよ。
2 そう?
1 それに行事少なすぎ。
2 まあね。
1 スキー教室もあったんだってよ。
2 あ、それはなくていいや。
1 あと、マラソン大会も。
2 あ、それもなくていいや。
1 ちょっと、あんたが減らしたんじゃないの?
2 芸術鑑賞とかもさ、もう少し考えてほしいよね。
1 1年生の時の出し物覚えてる?
2 去年が落語だから、その前は、何だっけ。
1 沖縄歌舞団。
2 あー、思い出した。
1 歌舞団っていうからさ、それなりの人数を想像するじゃない。
2 団だもんね。
1 総勢6名だよ。
2 …シンプルな歌舞団だね。
1 しかもさ。あの三味線。
2 サンシンっていうみたいだよ。
1 録音ってどういうこと。
2 ねえ。
1 6人なんだからさ、せめてあの「ペンペン」くらいは生でやるべきでしょう。
2 あれでいくらぐらいかかるんだろうね。
1 なんか百万円ぐらいの予算って先生言ってたけど。
2 えー、高。
1 時給にしたらかなりだよね。とにかくうちの学校はさ。物事の優先順位が間違ってるよ。
2 1に週末課題。
1 2に朝自習。
2 34がなくて、5に居残り。
二人 はー。
1 で、何?文化祭。
2 ああ、ちょっといつもとは違う感じでね、やってみたいなと。
1 どうしたの?いつになく積極的な態度は。
2 やっぱり最後の文化祭だと思うとさ。
1 まあね。
2 ライブでやったらどうかなと思って。
1 ライブか、面白いかもね。
2 ゲストも呼んだりしてさ。
1 え、誰呼ぼうっていうの?
2 村上先生。
1 えー?マジシャン?なんでマジシャン?
2 知らないの?よく新聞載ってるよ。
1 えー、知らないし、だいたい、イメージ違うし。

  監督の先生入ってくる。

先生 集合してるか。
1 先生、集合したかって言われても、私たち、ここに誰が来るのか知らないので。
先生 そうか、そういわれりゃそうだな。えーっと(名簿を見る)、まだ二人も来てないじゃないか。
2 え、あと二人しかいないんですか。
1 じゃあ、合計で四人。
2 それって、学年で四人だけってことですよね。
1 あらあらあら、私ったら。
2 先生。
先生 なんだ。
2 あの、私、あの、私は忘れただけなんです。
先生 だからここに呼ばれたんだろう。
2 いやそういう意味じゃなくて、あの、

  3、あわてた様子で入ってくる。

3 お、遅れました。
先生 遅刻だ、遅刻。何時に集合って言われたんだ。
3 4時10分です。あ、でも丁度(時計を見て)。
先生 普通5分前に来るだろ。
3 はい、すみませんでした。5分前ですよね。はい。
先生 クラスと名前。
3 はい?(聞き逃した)
先生 クラスと名前だよ。
3 あ、はい、3組の高野素子です。出席番号は21番です。
先生 出席番号は聞いてない。
3 あ、すみません。
先生 3組の森は来てないのか?
3 森さんは来ていません。
先生 お前同じクラスだろ。
3 あ、はい、一応同じクラスですけど、あの、初めて同じクラスになったので、あ、席も離れてるので、ちょっと、わかりません。
先生 ああ、わかったわかった。
1 よかったわねえ、うちの部員だけじゃなくて。
2 それでも4分の3だけど。75パーセント。
先生 それではまず、何でここに呼ばれたのかわかってるな。
全員 はーい。
先生 言ってみろ、お前。
1 え、私ですか。
先生 言ってみろ。
1 (つぶやくように)週末課題をやってこなかったからです。
先生 何?聞こえない、もっとはっきりしゃべれよ。
1 (大声で)週末課題をやってこなかったからです。
先生 みんなやってきてるんだよ。学年でたった三人、お前たちだけがやってきてないってどういうことなんだ。
2 先生、私、やってあるんです。ただ持ってくるのを忘れただけで、
先生 同じことだ。
2 でも、やったのに忘れたのと、やってないのとは、
先生 同じだって言ってるだろう。
2 はい、同じです。
1 何時までかかるんですか?
先生 それはお前たち次第だ。
2 終われば帰っていいんですよね。
先生 そういうもんじゃないだろう。
2 とおっしゃいますと。
先生 反省の意味もあるわけだから。
1 反省って言われても、先生、この後ちょっと予定が…、
先生 そもそも何でこういうことになったんだ。
1 …はい、週末課題をやってこなかったからです。
3 先生、明日クラブ紹介じゃないですか。
先生 それがどうかしたのか。
3 いろいろとですね、打ち合わせもあるんですよ。
先生 それとこれとは話が別だ。
3 はい、別なんですが、
先生 プリント配るぞ。

先生プリントを配り始める。

先生 他のやつがちゃんとやってくれてるって。
1 他のやつって言ったって、先生、他に部員は、
先生 とにかく、しっかりと取り組むんだぞ。
全員 はーい。

  先生退場。

1 他の奴がちゃんとやってくれてるってさ。
2 しかしなんでよりによってこういう日に。
3 全員集合!みたいな。
1 優秀な人材がそろっているんだねえ我が部は。
2 私はやってきたんだからね。忘れてきただけなんだから。
1 はいはい。
3 潔くないなあ。あきらめなよ。
1 お、難しい言葉知ってるね、漢字で書ける?…ところでなんでうちわ持ってるの?
3 え、暑いじゃん。
2 とにかく早く終わらせて、明日のことを考えなきゃ。早く終わらせなさいよ、私は一回やったんだから、すぐ終わるんだから。
1 はいはい。
3 だいたい週末課題って何よ。
2 ん。
3 週末ってさ、もっと素敵な言葉とくっついてほしいわ。
1 なに言ってるの?
3 週末って、こう、なんかわくわくする言葉じゃない。それをさ、課題だなんて、週末に対して失礼だと思わない。
1 失礼かどうかは別として、じゃ、どんな言葉ならいいわけ。
3 じゃあさ、たとえば、週末カラオケとか。
1 うーん、あんまり聞いたことないね。
3 じゃあじゃあじゃあ、週末焼き肉。
1 うーん、それって週末の晩ご飯のメニューを言ってるだけだよね。
3 じゃあねじゃあね、週末旅行。
1 修学旅行みたいに聞こえるね。
2 くだらないこと言ってないでさ。みんなが終わらないと帰れないんだから。
1 はいはい、わかりました。
3 これって辞書とか使う?
1 使うに決まってんでしょ。持っておいでよ。
3 勝手に出て行っていいのかな。
1 辞書持ってくるんだからいいでしょ。
3 見つかったらまた怒られちゃうよ。遅刻はするわ、準備は悪いわって。
2 ほらそんなこと言ってる時間がもったいないじゃない。行きなさいよ。
3 うん。(行きかけて)国語辞典だよね。
1 古語辞典。古典の時に使うやつ。
3 あ、そっちね。「あはれなり」とか書いてあるやつね。
1 「あはれなり」って。
2 私は一回やったからさ。辞書がなくても(プリントに目をやると)…あれ。
1 どした?
2 あれ、あれ。
1 何が?
2 …違うページやってた。私も行く。

  2と3退場。

1 さすが優秀な人材がそろってるねえ。我が部は。

  2戻ってくる。

1 あれモトコは?
2 6組まで借りに行った。
1 結局借りるのかよ。

  3戻ってくる。

3 ああ、疲れた。
2 あんた3組のくせに、なんで6組まで行くの。
3 なんか今度のクラスさ、ちょっとこう気軽に話しかけられる人少ないんだよね。固いっていうか、まじめっていうか。
1 ところで、来週のLHR何やるの?
2 うちは体育館でバレーボール。
3 あ、いいな簡単で。
1 3組は?
3 それがさ、私、LHR委員じゃない。
1 あれ、今年は視聴覚委員じゃないの?
3 じゃんけんで負けちゃった。
2 え、じゃんけんで決めるの?
1 普通じゃんけんでしょ。
2 えー、うちなんか、担任が、「こういうことを自分たちで決められないようではいけないんだ」って。
1 まじめー。今時熱血はやんないよね。
2 放課後までかかってやっと決まったんだよ。
3 迷惑なんだよね。
2 でも何で視聴覚委員だけが人気なんだろう。
1 公欠で行く楽しげな研修があるからじゃない?
3 そうそう。メディアなんとかがなんとかかんとか。
2 明らかに説明不足。
3 他の学校もたっくさん来ててさ。ちょっとあの子見てーみたいな。
2 不純な動機。
3 不純異性研修。
1 それでLHR委員がどうしたって?
3 あのさ、五人いるじゃない、LHR委員って。
1 はいはい。
3 放課後集まって決めようってことになったわけよ。
2 昼でもいいけどね。
1 まあまあ。
3 そしたらさ。私を入れて三人しか残らないわけ。
2 放課後にやるからそうなるのよ。
3 だって。
1 どうしたのよ、あとの二人は。
3 一人は歯医者。
2 それは仕方がないわよ。次はいついつに来なさいって言われるんだもん。
3 でも都合のいい言い訳ベスト1だよね。歯医者って。
1 もう一人は?
3 夏期講習の申し込みだって。
1 早すぎるんじゃないの?まだ春だぞ。
2 でもなんかそういうこと言われると焦るよね。
1 受験生の自覚ある?
3 私ぜんぜん焦らないけど。
1 あんたはね。
2 で、残りの三人でどうしたの?
3 そうそう。でね、一人が自習でいんじゃない。とか言うわけ。
2 いんじゃないの?
3 えー、自習だよ。LHRで自習しなくたっていいじゃん。
2 だっていろいろ準備するの面倒くさいじゃない。
3 えー、それでも自習よりはいいと思うけど。
1 で、どうなったの?
3 私、嫌だったから、お菓子大会がいいっていったのよ。
1 なんだ?お菓子大会って。
3 家から適当におやつ持ってきて、みんなで交換して食べる。
2 それだけ?
1 なんでそれが「大会」なの?
3 なんとなく、盛り上がるかなあと思って。
2 せめて手作りとかさあ。
3 さっき面倒くさいのはいやだって言ったくせに。
1 で、どうなったの?
3 もう一人がね、もっと真面目なものをやらなきゃだめだっていうのよ。
2 読書会とか?
3 そうそう、読書会。もうね、読む本までなんか候補があるみたいなこと言ってさ。
1 立派な人だね。やってあげればいいじゃん。読書会。
3 だって、なんか宮澤賢治のなんとか公園なんとか林とかなんとか。
2 本日二度目の説明不足。
3 三人がそれぞれ違う意見だからさ、まとまらないじゃない。
2 だから話し合うんでしょ。
3 だから私がまとめたわよ。
1 お、説明不足ながらもまとめたわけね。
3 じゃあ、間をとって、
2 ちょっとちょっと、間をとってって、どれとどれの間をとるの?
3 お菓子をつまみながら自習をする。
1 ………。
2 まさかそれで決まったんじゃないよね。
3 みんなのためにさ、そういう案をね、折衷案をさ、
1 お、また出たぞ、書き取り問題。
3 やっぱり一人がだめだって言うのよ。
2 お堅い人なんだねえ、ずいぶん。あ、無駄話してたら、もうこんな時間じゃない。
3 無駄話って失礼だなあ。余計なこと言うからだよ、部長が。
1 あんたにしかられるとさあ、なんか余計に辛いなあ。
2 さあさあさあ、辞書もそろったことだし、ぱぱっとやっちゃおうぱぱっと。
3 あーあ、もう15分も経ってるし。もう、こういう無駄なことやめたほうがいいと思うよ。やらない奴はやらないんだし、やる人 はやるんだし。自由にさせてほしいよ。別に勉強だけのために高 校入った訳じゃないんだからさあ。朝自習とかもさあ、
1 とりあえず朝自習っていう名前をやめるべきだよね。
2 自習じゃないもんね。
3 朝勉。
2 勉強じゃなくてお弁当食べる時間みたいだね。
3 私なんかさ、起きるのあれじゃない、当然出るのもあれだから、
1 要するにいつも遅刻ぎりぎり。
3 朝ご飯なんか、絶対無理だから、おにぎり作ってもらうのね。
2 あーあ、おかあさんたいへんだ。
3 だからあの時間は文字通り朝弁なわけよ。
1 お前のプリント、ご飯つぶついてたぞ、なんて。

  先生が後ろから入ってくる。1と2は気がつき、3に教えようとするが、気がつかない。

3 だいたい山口はさ、自分が授業に遅れてくるくせにさ、人にばっかり遅れるなって、ふざけんなっていうんだよ。よく忘れ物もするしさ、まあそれでも若いイケメンの先生だったら許してやるけど、何あのけむくじゃらの猿人みたいな、だから北京原人とか呼ばれちゃうのよ。
先生 悪かったな、北京原人で。
3 あ、いや、先生のことを言った訳じゃなくって、あの、
先生 でも山口ってのは俺の名前だよな。
3 あ、でも山口先生ってもう一人いるじゃないですか、あの、
先生 確かにいるけどな、
3 そうですよね、あの、ハルカ先生は、いくらなんでも毛むくじゃらじゃないですよね。
先生 5時までと思ってたが、もう少し残っていたいようだな。
1 いえ、誰も足りないなんて思ってません。
2 先生、私たちは5時までで十分です。
1 もしどうしてもと言うんだったら、

  全員、心は一つという表情でお互いを見るが。

1 こいつだけを残して下さい。
2 悪いのはこいつです。
3 …裏切り者。
先生 全員6時までここから出さないからな。しっかりやれ。

  先生退場。

2 もうあんたのせいで延長になっちゃったじゃないの。
3 傷ついたなあ。
1 冗談でしょ冗談。
3 あのさ、私んち来てさ、そこで相談すればいいじゃない。
1 それはだめだよ。
3 なんで。
1 これを出さなきゃいけないからよ。
2 何それ。
1 部活動紹介参加申込書。今日の6時までに生徒会室に持って行かないと参加できない。
2 そんなの別に適当に書いて出せばいいでしょ。何で今まで出さなかったのよ。
1 そう単純な話じゃないんだな。
3 単純でしょ。私たち三人しかいないんだから。三人で出て部活動の紹介をしますって書けばいいんでしょ。
2 そうよ。顧問の先生は本校最年長の正岡先生ですって。
1 さすがここに集まるだけはあるわね。ほんとに優秀な部員たち。やっぱり誰も状況を理解してなかったわけね。
2 私はやってきたんだからね。それにあんただって残されてるんだからね。自分のことを棚に上げて。
3 何が何が?何を上げるの?そっちこそ説明不足だよ。
1 じゃあ時間がもったいないから手短に説明するけどさ。
2 うん。あ、やりながら聞いてもいい?
1 アキモトはいいよ。あんたはだめ。
3 あー、差別。なんで私はだめなのよ。
1 なんでだめかは、自分の胸に手をあてて聞いてごらん。
3 (手を当てて)一度に二つ以上のことは考えられません。あ、そうか。
1 わかったら集中して聞くように。
3 はーい。
1 うちの学校は今年から共学になりました。
2 女子高のうちに卒業したかった。
3 私は大歓迎。でも年下だからなあ。
1 で、どの部も当然のことながら、まだ女子部員しかいないわけ。
2 だって女子高だったんだもん。
1 でも新入生には男子もいるわけよね。
3 もと女子高だから、あんまり来ないと思ったけどね。
1 つまり男子の行き先を考えなきゃならないわけよ。
3 そんなの簡単じゃない。男子テニス部、男子バスケット部、男子野球部、あ、野球はもともと男子か。
1 まあ運動部はそれでいいけどさ。
2 あ、わかった。
3 何、何がわかったの?ねえ、何?
2 でもそれがなんで今日中にってことなの。
1 文化部は何も男女で分かれなくてもいいわけよ。
3 やーん、楽しいなあ。
2 私絶対いやだ。
1 で、新たに男子部員を募集するかしないかは、その部の判断にまかされたってわけよ。
2 いいのかな。結構大事なことだと思うけど。
1 ま、そこは所詮文化部よ。部の数が増える訳じゃないから問題ないんじゃないの?
3 うちも入れればいいじゃん。
2 私絶対いやだからね。
1 ね、こうなるわけよ。うちの部は男子も入っていいですよ。というのか男子は入れませんというのかは、きちんとこの紙に書いて提出しなきゃならないわけ。そこで集中して聞いているはずのお嬢さんも理解できたかな。
3 わかったし。だから大歓迎ですって言えばいいじゃん。
2 私は絶対にいやだってさっき言ったでしょ。
1 と現在、男子部員を募集することについては、賛成1反対1という状況です。
2 部長はどうなのさ。どっちにしても多数決で決まるじゃない。
1 多数決って言うけど、二人は多数なのか?
2 一人よりは多数です。
3 だって誰も入らなかったら廃部だよ。
2 え、いきなり?
3 知らないの?
2 休部とかじゃなくて。
1 今年から部活動が増えるから、部の整理をするんだって。統廃合って言うの?活動人数が四人を下回る場合は、現在の部員もど こかの部に転部しなきゃいけないんだって。
2 え、私たちもよそへ移るの。
3 今さらどこの部に転部しろっていうのよ。
2 それでも私はいやだからね。女子だけの部に転部するからいい。
3 そんな、1年から一緒にやってきたじゃん。ずっと四人で、あ、ごめん、三人で。…ごめん。
1 うん、いいよ。あやまらなくて。
2 うん、分かった。一緒にやってきたよ。そうだね。

  少しの間。

2 と、とにかくいったん結論を出そう。時間もないんだし。部長はどっちなの?
1 私は…、
2 私は、
1 どっちでもいい。
3 はい、決定。賛成1、反対1、どっちでもいい1。あれ。
2 あなたね、どっちでもいいってそんないい加減な。
1 だってどっちでもいいと思うんだもん。
2 それじゃ永遠に決まらないでしょ。
1 そんなことないわよ。話し合った結果、あなたたち二人のどちらかが折れるってことだってあるわけだから。
2 そんな。
3 そうだよ、おかしいよ。いい?私とアキモトは両端にいるんだよ。ちょっとそっち行ってくれる。
2 何よ、めんどくさいなあ。
3 私が折れるってことはさ、あなたを越えて、こっちまで来るってことだよ。
1 そうだよ。
2 それを説明するために私、動かされたの?
3 どう考えたってさ、あなたが行く方が近いじゃない。
1 別に遠い近いの問題じゃないでしょ。
2 もう絶対そっちに行かないからね。遠くなったし。
3 ……。ほーら。
1 何がほーらよ。自分で指示したくせに。
3 みんなちゃんと考えようよ。
1 考えてるよ。
3 どっちのほうが期待値が高いかっていうことでしょ。
1 期待値とか難しいこと言って大丈夫?熱でない?
3 部の存続がかかってるわけでしょ。絶対に一人入れなくちゃならないんでしょ。男子が入る可能性をゼロにするっていうのはど うなの?
1 …ま、そういうことね。
2 あなた部長でしょ。もうちょっと発言に責任を持ってほしいわね。
1 じゃんけんで決まった部長ですけどね。
3 …あ。
2 バカなこと言わないでね。
3 ……あーー。
1 はいどうぞ。
3 じゃんけんで決めるって、どうかな。
2 やっぱり。

  先生が廊下から中をのぞく。全員、机に向かう。先生が入ってくる。

先生 やってるのか、ちゃんと。なんか大きな声で騒いでなかったか?
3 騒いでないですよ、先生。
先生 でも声がしてたぞ。
2 それはですね。この子が「あはれなり」なんて言ってるものですから。
1 ちょっと教えてあげてたんです。「あはれなり」じゃなくて「あはれなり」だよって。
先生 おいおい、一年生だろそのレベルは。
3 私現代文はね、得意なんですけど、古典がねえ、ちょっといまいち、時代に合わないっていうか。
先生 まあなんでもいいけど。ちょっと部活に顔出して来るから。静かにやるんだぞ。
2 あ、どうぞどうぞ、私たちには構わずに、どうぞ部活動の指導をなさってきてください。
1 私たちは大丈夫ですから。どうぞどうぞ。
3 「あはれなり」ですから。完璧ですから。覚えましたから。(プリントを見て)あ、「むげなり」っていうのもありますから、先生。
先生 そりゃお前のことだ。
3 いやあそれほどでも。先生、私のことだなんて。
1 あんたほめられてないからね。
2 辞書引きなさい。

  先生退場。

1 山口って何部の顧問?
2 演劇部よ。
1 あそこも人数厳しいんじゃないの?
3 (辞書を見ながら)お話にならないことって何よ。ひどいな。
1 あんたの知識も相当なもんです。
2 演劇部、男子入れるのかな?
1 さあ。
3 入れるんじゃないの、積極的に。でもまあ、入らないな。
1 でもうちよりはメジャーな世界だと思うけどね。
3 合併すればいいんじゃない。
1 うん、悪くないアイディアかもしれない、企業合併もはやってるしね、でも漢字で書けるか?
3 えっと、がっぺい。ぺいって何だ、ぺいって。
2 アイディアとしては面白いかもしれないけど、たとえばブラスバンドと調理部のどこに接点があるわけ。
3 簡単じゃない、平日はブラバンで、休みの日はなんか作って食べて親睦を図る。
2 それってさあ普通にブラバンだけでできるじゃない。わざわざ調理部混ぜなくてもさ。
3 じゃあ、日替わり。
1 何それ?
3 月水金がブラバンで火木土が調理部。…あ、日曜は休みね。
1 日曜は休みでいいけどさ、それちょっと強引でしょ。
2 他の部じゃなくてさ、うちの部で考えなさいよ。どこと合併できるっていうの。
1 そうだねえ、考えられるとすれば、茶道部かなあ。
3 え、どうして。
2 あ、畳ね、畳のイメージ。
3 そうかな。
1 まあ「和」の香りがするからね。
3 畳だったら柔道部でもいいんじゃない。
2 うー、それじゃ香りじゃなくて汗の臭いだよ。げ。
1 だいたいうち柔道部なんてないじゃない。しかも運動部だし。
3 そか、じゃあ書道部。
1 畳からは離れたけど、そういう路線よね、基本的には。
2 文芸部が近いんじゃないのやっぱり。
3 でもさ、うちの文芸部ってさ、なんかすんごく、こう、ある方向に偏ってない?
2 そうなの。
3 だって部室、コミック雑誌だらけだし。漫画研究会に改名した方がいいかもね。
1 そこいくとうちの部は格調高いから。
3 格調高くてもさ、部員3人だし。
1 第十一回俳句甲子園準々決勝進出という輝かしい記録があるんだからね。
2 準々決勝ってところがかなり微妙だけどね。
3 それって、一般の生徒はほとんど知らないよ。
2 だいたい部の名前がスマートじゃないわよ。俳句クラブって。
1 ハイキングクラブと間違えて入ってこようとしたやついたからね。
3 じゃあ思い切って名前を変えてリニューアルしよう。
2 ちょっと、ちゃんと進めながらやってよ。ほんと終わらない分量あるからね。特にそっちの君。
3 えっとね、五七五クラブ。
1 お、それ以外といいかも。五七五クラブか。
3 五七五七七クラブも併設してます。
2 ちょっとそれ歯切れ悪いかも。
1 それではうちのエースが一句ご披露します。えーっと新米。
3 整いました。新米という母の顔ほころびて
2 ほんと尊敬するよ。これだけは。トマト。
3 整いました。冷蔵庫あけるとトマト座り居り。
1 「あはれなり」とか言っている人とは思えません。さくらんぼ。
3 整いました。読みかけの文庫本皿のさくらんぼ
2 なんか食べ物続いてない?ドーナツ。
3 整いました。ドーナツの穴の向こうに入道雲
1 すばらしい。季語が食べ物の時は無敵です。じゃあ、扇風機。
3 (苦しそうな表情)扇風機、扇風機、えーっと、扇風機123止め123。
2 …ほんと食べ物以外はだめだねえ。
3 なんかイメージわかないんだよねえ。
1 部紹介はこれでばっちりじゃん。
2 打ち合わせ終わっちゃったね。
3 やったー。じゃあ宿題やって早く帰ろう。
1 ちょっとちょっと、男子部員の結論がまだ出てないからね。難しいのはそっちなんだから。
3 そうだった。
2 だから、私は、さっきからずっと絶対いやだって言ってるからね。

  一人の生徒が入ってくる。

1 あれ?誰?
生徒 おや、何かの会議ですか?
3 なんだよ、関係ない奴は入っちゃいけないんだぞ。
生徒 あれ、よく見ると俳句クラブの方々で。
3 俳句クラブは関係ないんだよ。たまたま一緒になっただけなんだからな。週末課題で残されたんだからな。
2 そんなことわざわざ言わなくていいでしょ、もう。
生徒 さすが優秀な俳句クラブの方々ですわねえ。でも、廃部も時間の問題ですね。
1 あんたさ、暇つぶしなら他でやってくれない。こんな所先生に見つかったら、困るんだけど。
生徒 山口先生だったら、現在熱血指導中だから。
2 ペキン、部活か。そういえば演劇部、春の公演近いしね。
3 課題が終わらないと帰れないんだよ。
生徒 たった3人の部なのに、ちょっと部室が広すぎるわよね。
1 別にうちだけが広い訳じゃないでしょ、部室。もっと部員が入るかもしれないんだし。
生徒 ということは男子部員も募集するということ?
2 いや、男子は入れません。
3 それはまだ決まってないじゃない。(1を見る)
1 どっちでもいい。
3 もう!
生徒 あそこの部室を狙ってる部は多いのよ。まあうちもそうだけどね。
3 いい加減にしてよ。部室がどうのって、廃部が決まってから言ってくれない。まだ部活動紹介もしてないって言うのに。
生徒 どうもお邪魔しました。大切な居残り学習の最中に。

  生徒退場。

3 どうもお邪魔しました。大切な居残り学習の最中に。だって。
2 あれ誰?
3 4組の加藤。英語部の部長。
2 なんでここに顔出したの。
3 私去年同じクラスで、仲悪かったから。目の敵にされてる。
2 嫌な奴だねえ。廃部になったら部室寄こせなんて。
1 英語部なんてさ、人は多いけどろくに部活やってないんだよ。文化祭も模擬店出してるだけだしさ。
3 そんなんだから逆に人が集まってるんだよ。たぶん。
1 絶対譲らないからな、部室。
2 でもうちの文化祭もなんとかならないの?
1 そうだね。
2 うちはまだなんとかなってるけど、演劇部なんかやってられないって言ってたよ。
1 7月に文化祭ってさ。
3 お姉ちゃんの時はまだ9月にやってたって。
2 なんで7月?
1 それはもう受験対策よ。
3 そうなの。
1 夏休み前に3年生の行事は全部終わらせてしまって、夏休みからは受験だけに集中させるってことじゃないの。
2 3年生はそれでいいけどさ、1・2年はかわいそうだよね。
3 だいたい3年生はもう引退してるじゃん。
2 もう、全然進まないよ。ちょっと少し黙ってやらない?
1 特にそっちの君ね。
3 大丈夫、大丈夫。話しながらも、勉強勉強。
1 だから、君の場合はあてはまらないからね。
3 一つのことしかできません。あ、忘れてた。

  黙って作業に集中しようとするが。

3 あー、もう飽きた。
2 あのさあ、早すぎるでしょ、飽きるの。
3 ていうか、むかつく、さっきの奴。
2 英語部と交換になったらどうしよう。
1 隣は文芸部だから、ま、仲良くやればいいじゃん。
3 でも文芸部とは名ばかりのアニメ研究会だからなあ。
2 英語部に負けないくらい新入部員が入れば問題ないんでしょ。
1 あれ、部室に関してはずいぶん鼻息が荒いね。
2 だって悔しいじゃない。
3 そうだそうだ。
2 どうやったら注目されるかって所だよね。
1 結局そこだよね。
2 俳句の魅力を易しく解説するようなさ。
1 だからうちのエースに即興で詠んでもらうって、さっき決めたじゃない。
3 え、何々、即興って。
2 でも付加価値っていうのかな、入ればこんないいことがありますよ、みたいなものがないと。
1 要するにオマケの部分ね。例えば?
2 学校一広い部室でくつろげます。
1 うーん、まあねえ。
2 活動はゆとりの週休二日制。勉強の足を引っ張りません。
1 あ、それ卑怯な感じはするけど、結構効果的かも。
3 卑怯者!父さんはそんな子に育てた覚えはないぞ。どこまでもストレートに、俳句の魅力を訴えていかなければだめなんだよ。
2 あれ、なんか一人でかっこいいこと言ってるね。
1 その通り!
2 あれあれ。
1 そんなことでは、本校最年長顧問の正岡先生も悲しむぞ。先生、そのへんはいかがでしょうか?
3 いやあ、その、ちみたち。
2 え?誰?
1 はい、先生。
3 いやあ、その、まあねえ、今日はねえ、お昼にね、食堂で、かけそばなんかをね、食べたんだねえ。
1 先生、きのうも、かけそばでしたが。
2 ぷっ。
3 いやあ、その、まあねえ、そばがねえ、割と好きなものだからねえ、自然とこう、そばをねえ食べることが多くなるのだねえ。
1 飽きませんか、先生。
3 いやあ、その、まあねえ、たまにはねえ、かけうどんの時もねえ、たまには、あるのだねえ。
2 全然似てないからね。
1 先生、本題を。
3 うん、そうだねえ。高浜虚子という人がね。
1 はい。
3 「秋風や眼中のもの皆俳句」と、こう詠んだんだねえ。
1 虚子は教科書にも載ってますね。
2 それって俳句なんですか?
3 見えるものすべてが俳句であると、だから、こういうものとかこういうものとか、こういうものまでみな俳句だと言うんだねえ。
2 でも、先生、俳句というよりスローガンみたいな感じに聞こえるんですけど。
3 スローガンというのはあまりわからないけれども、つまりね、生きていることが俳句なのだということなんだねえ。
1 先生ありがとうございました。またよろしくお願いします。
3 またこうも詠んだんだねえ。
1 先生、今日はこのへんで、時間の都合もありますから。
3 「春風や闘志いだきて丘に立つ」
2 今度は春風ですか。
3 河東碧梧桐と別れ、それでも自分の信じた道をまっすぐに進んでいこうという虚子の強い気持ちが感じられる句なんだねえ。
2 それ、部紹介でやる気?
3 だめ?
2 だって全然似てないもん。
1 あたし結構好きだけど。
2 だいたい、そんな時間もらえないでしょ。
1 それは言える。えーとね(紙を見て)あ、5分以内だって。
2 でしょ。
3 もっと早口で喋らないと無理か。
2 そういう問題か?
3 そういえば、この間ね、勉強のためにさ。
1 お、意外な人から意外な言葉。
3 いや、俳句のね。
2 その姿勢が普段の勉強にも生かされればねえ。
3 うちの庭にね。
1 ん。
3 石榴の木があるの。
2 どんなんだっけ?石榴って?
3 うーんと説明しにくいけどさ、まあそれはおいといて、歳時記でね。
1 歳時記ね。
3 調べたの。
2 うん。
3 そしたらさ、にしひがしさんきっていう人のね。
1 西東三鬼ね。
3 あ、サイトウって読むんだ。
2 水枕ガバリと寒い海がある
3 それは知ってたんだけど。こういうのがあったのね。「露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す」
1・2 はあ?
2 露人って?
1 ロシア人じゃない、たぶん。
2 どういうこと?
3 つまりさ、ロシア人のワシコフが何か叫びながら石榴の実を竹の棒かなんかで叩いて落としている情景。
2 うーん、よくわからない。
3 じゃあ、ちょっとやってみる?
2 やってみるって?
3 私、ワシコフね。
2 え?

  3、絶叫しながら竹の棒を振り回す。

2 わかったよ、わかったってば。
1 それ、怖いって。
2 だいたい、何で石榴の実を落としてるのよ。
3 食べるんじゃないの。
2 それだったら黙ってやればいいじゃん。
3 何か気に入らないことがあったんじゃないの?
1 例えば?
3 例えば、朝食の目玉焼きの黄身がこわれてたとか。
2 そんなことで怒って叫んでるの?
3 短気なのよ、ロシア人って。
1 で、何が言いたかったの?
3 たとえばこんな変な俳句もありますよって。
1 うーん、確かに変だけど、むしろ引かれる感じだよね。
2 先生も、そんな変なのは認めないと思うよ。
3 いやあ、その、ちみたち。
1 あ、また乗り移った。
3 虚子という人はねえ、俳句は極楽の文学であると言ったんだねえ。
1 極楽ですか、先生。
2 極楽に近い人がやるものだということですか?
3 俳句は南無阿弥陀仏と同じだというんだねえ。
1 お経ですか。
3 俳句を詠むことで、苦しみと闘う勇気を得ることができると言うんだね。つまり私たちの願いや祈りの言葉こそが俳句なのだと。これならどう?
2 だから、だめだってば。
1 うーん。やっぱりおまけも考えなきゃだめかな。
3 軽音楽とかさ、書道とかさ、あと一歩の所までは来てるんだけどねえ、ブーム。
2 その一歩がねえ、相当遠い。
1 アニメになりにくいよね。俳句は。
3 露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す。
2 それ、絶対アニメでやらない。コミックにもならない。
1 そういえば、さっき文化祭の話しててさ。
3 文化祭?
2 最後じゃない、文化祭。
1 全部、最後って付いちゃうんだね、あたり前だけど。
3 最後の居残り。
1 に、したいね。
2 いつもとはね、
3 え?ああ、
2 いつもとは違う感じでやりたいなって、
3 違う感じ?
2 ライブでやったらどうかなって。
3 ライブねえ。え、ライブ?俳句の?歌うの?

  露人ワシコフの歌。

2 いやいやそうじゃなくて、その場で即興で詠むみたいな。
3 ああ、そういうこと。
2 ゲストも呼んだりしてさ。
1 驚くよ。
3 誰?
1 マジシャンだって。
3 ああ、村上先生ね。
1 あれ、驚かないの?
3 よく新聞載ってるじゃん。
2 部長だけが知らなかったわけね。
1 まいったな。さすがじゃんけん部長。チョキ出しておけばよかった。
2 どう?最後だしさ。
3 最後なんだよね。(立ち上がり)ねえ。
2 どしたの急に。
1 許容量を越えちゃったんじゃないの?
3 やっぱり男子部員募集しようよ。
2 だから、それは絶対嫌だって、
3 出たいんだよ。
1 え?
3 甲子園。
2 冗談でしょ。
1 だって、もうずっと出てないんだよ。あの先輩たちが最後で、後はずっと出てないし、
2 団体戦でしょ、確か。
3 だから一人でも多く新入部員入れてさ。
2 私、そこまでして…。
3 さっき、最後の文化祭だからって言ったじゃない。
2 それは。
3 最後の甲子園だよ。
1 それはそうだけど。

  3、無言でチラシを渡す。

1 俳句甲子園。全国大会は8月6日から8日まで、松山市にて開催。同一高校5名で編制したチーム及び引率者1名を1単位とする。

  2、近寄ってチラシを眺める。

2 ほら、5人編制でしょ。二人も足りないじゃない。それに地方大会は6月って。申込みは5月じゃない。無理よ無理。
1 個人戦っていうのはないのかな。
3 みんなで出なきゃ意味がないよ。
2 無理に決まってるでしょ。それに私、あなたみたいに上手に詠めないし。
3 勝ち抜こうとか、優勝しようとか言うんじゃないの、とにかく出たいだけ。
1 でも人数に条件がある以上さ、
3 だから男子募集してさ、一人でも多く部員を、
2 わたしは嫌だからね。男だろうと女だろうと。
1 どういうこと?
2 ずっとこのメンバーでやってきたじゃない。7月の文化祭で盛り上がって、最後を飾ればそれでいいじゃない。1年生を入れて
 チームを組んだところで、絶対うまくいかないよ。
3 だって、だって、…約束したんだ。
1 え?
3 去年の夏。
2 去年の、
1 夏。

  3、ノートを取り出し、読み上げる。
3 「天国まで見通せるような夏の空」

  長い沈黙。

3 「シャーペンの芯折れるよに私の心」
1 そのノート、もしかして、
3 私、こんなにそばにいたのに…。
1 私たちだって同じだよ。
3 虚子先生、俳句は…、俳句は闘う勇気をくれるんじゃなかったんですか?

  ノートを開き、読む。

3 「仮定法ちょっと楽しくちょっと虚しい」

  ノートを渡す。

1 「春風や学校に行けばもう一人の私」

  ノートを渡す。

2 「言いかけた言葉飲み込んで夏休み」
2 忘れてなんかいない。去年の夏。

  夏の日の夕暮れ。キャンプの夕食が終わった時刻。

3 あー、お腹一杯。
2 食べ過ぎ。
1 なんでキャンプのカレーは例外なくおいしいんだろうね。
2 外で食べるからおいしいって言うけどさ、要するに待たされてお腹すいてるんだよね。
3 サクラちゃん。お代わりは?
4 もうお腹いっぱい。
3 あんまり食べてないじゃん。まあ、体格から言って、そういうことか。
1 そういうこと。
3 いいなあ食べても太らない人は。
2 部長、でもなんで俳句クラブがキャンプなんですか?
1 いや、何となく。青春はキャンプかなって。
2 短絡的すぎるんじゃない?
3 だから新機軸が打ち出せない。
2 月並み俳句になってしまう。
1 俳句は季節感。夏・海・キャンプ。何の問題もないでしょう。
3 でも女の子4人のキャンプって相当危険だと思いますけど。
1 サクラちゃん、大丈夫?心配なのは君だけだ。
3 どういうことなのそれ。
2 私もそっちに分類されちゃうわけね。
3 不満なの?ねえ。
2 いや別に。
1 はいはい、仲間割れはしないように。じゃとりあえず、昼間作ってもらったのを披露してもらおうかな。テーマはえっと、夏休みだったよね。季語はね、まああんまり気にしなくてもいいから。じ ゃあ、アキモトから。
2 えー、なんで私から。
3 いいからやんなさいよ。
2 じゃ、えーっと、「田舎まで忘れた心取りに行く」
1 うーん。なるほど。
2 それってダメってことだよね。
1 いや、そんなことないよ、なるほどって言っただけだよ。
3 なんか文章みたいだな。
1 これこれ。
3 説明しすぎ。
2 やっぱりね。
1 あんたさあ、最初なんだから、もう少しこう。
2 私もそう思う。俳句じゃないみたい。なるほどって感じ。
1 じゃあ、次、モトコ。ただし食べ物以外で。
3 えー、全部食べ物入ってるし。
1 じゃ、まあいいよ。
3 じゃあね。「夏野菜持ってちりんと母帰宅」
2 おお。
1 ちりんがいいね。
2 自転車?
3 うん、まあね。あ、風鈴かもね。
1 なるほど。
2 やっぱ上手だな。
3 食べ物だとイメージわきやすいのよ。
1 もう一ついってみる?
3 じゃあね。「パン生地に練り込む夏の日差しかな」
2 うーん。
1 元気が出るね。
2 おいしそう。
1 意外に、パンなんか作るんだ。
3 ううん、想像。
2 そうなの?実感こもってるけどなあ。
1 じゃあ、次はと。
3 部長は?
1 私はほら、司会だから。
2 ずるいなあ。
1 ということで、サクラちゃん。
4 え、私?
1 順番だから。
4 えっと、じゃあ、「ヘリコプター遠く見上げる校庭の隅」
3 「ヘリコプター遠く見上げる校庭の隅」うん、いいじゃない。
2 あ、私と扱いが違う。
3 そんなことないよ。純粋に作品の良し悪しをね。
2 私は悪しってことね。
3 そんなこと言ってないじゃない。
1 はいはい、誰の話をしてるの?
2 ごめん。
3 つまり、広さと高さだよね。
1 ほお。
3 そこに小さな自分がいるんだね。
2 ああ、分かる分かる。でも、ちょっと秋の感じもするね。
1 サクラコってさ、学校の句多いよね?
4 そ、そうかな。
3 そうだよ、だってこの間のさ。
2 ああ、あれも良かったよね。
3 えっと何だっけ?
4 北風や?
3 そうそう、「北風や物理の教師くしゃみする」
2 いいよね。
3 数学じゃない所がいいよね。
1 ん?…そうか?
3 だってしなさそうじゃん。
1 ん?…そうか?
2 学校好きなんだサクラちゃん。
4 うん、まあ。
1 そんなに楽しいかなあ、学校。
2 あ、部長の立場でそんなこと言って。
1 だってさあ、週末課題でしょ。朝自習でしょ。
3 もうやめて。
1 追考査に再提出。
2 確かに元気出ないよね。再とか追とか。
3 頑張ってるのにさ、頑張ってるのに、もっと頑張れって言われてる感じだよね。
2 ちっとも励まされないし。
3 だからせめて夏休みぐらいまともにくれー。
2 もう終わっちゃうね、夏休み。
3 短すぎだよ。小学校まだ休みだぞ。
1 というわけで後は消灯まで自由時間とします。
3 あ、ほんとに自分はやらないんだな。
1 部長権限です。
2 こういう時ばっかり。じゃんけんで決まった部長のくせに。
1 パーの勝利よ。パーの。
3 (4に)散歩行かない?
4 いいよ。
3 ちょっと散歩してくるね。
1 お嬢様をしっかり守るんだぞ。
3 はーい。

  散歩に出かける二人。

3 なんか早いよね。もう2回目の夏休み。
4 そうだね。
3 来年は受験だからさ、実質最後の夏休みだよね。
4 そうかもね。
3 もう大学とか決めてる?
4 まあ、一応。
3 そうなんだ。偉いなあ。私なんか進学ってことしか決まってないよ。
4 私だって何やりたいかはよく分からない。
3 そうだよね、何やりたいかなんてまだ分からないよね。考えてる暇もないしさ。
4 うん。
3 でも夏休みってさ、ほんといい時期にあると思わない?
4 そう?
3 2年生になってさ、新しいクラスになって、5月くらいまでは慣れない感じで、ちょっと合わない人なんかもいてさ、ヤダなっ て思ってると梅雨になるじゃない。
4 うん。
3 でも7月になると、嫌なことがあってももうすぐ夏休みだからまあいいかなんて。
4 うんうん。
3 それだけで頑張れるみたいなとこあるじゃない。
4 高野さんも嫌なこととかあるんだ。
3 サクラちゃんは、高野さんって呼ぶね、どうして?
4 いや、何となく。
3 そりゃ私だって嫌なことぐらいあるよ、こう見えても。でもさ、夏休みのこと考えるとさ、忘れちゃうんだよね。
4 そっかあ。
3 お風呂に早めに入ってさ、扇風機「強」にしてさ、あ、うちエアコンないから。
4 うん。
3 必ず「ワレワレハウチュウジンダ」って言うよね。
4 言うかな。
3 言う言う。それでアイスなんか食べてればさ、少々のことは忘れちゃうよね。
4 そうかもね。
3 サクラちゃんはさ、何味が好き?
4 え?
3 あ、ごめん、かき氷の話。
4 ああ、かき氷ね。
3 そうそう、かき氷。ねえ、何味?
4 やっぱりイチゴかな?
3 そ、そうだよね、やっぱイチゴが基本だよね。
4 うん。
3 あの青いやつ、何だっけ?
4 ブルーハワイ?
3 そうそう、そのハワイ。味が想像出来ないよ、なんか。
4 そうだね。
3 でもさ、イチゴも実は全然イチゴの味しないんだよね。あはは。
4 くすっ。
3 イチゴにはミルクかける派?かけない派?
4 かけない…かな?
3 そうだよね、せっかくのイチゴが台無しだよね。あ、今言ってるのはかき氷じゃなくて、本物のイチゴね。
4 あ、本物ね。
3 このキャンプも思い出のひとつだね。
4 え?
3 だって最後の夏休みだもん。
4 最後のね。
3 何かいい思い出作りたいね。
4 そうだね。
3 サクラちゃんはさ、何でこの部活に入ったの?
4 ああ、忘れちゃったなあ。
3 ハイキングクラブと間違えた?
4 まさか。
3 普通、間違えないよね。

  気が付くと、教室である。
2 闘う勇気か…。
1 闘ってみるか、最後に。
3 春風や闘志いだきて丘に立つ。
2 紙貸して。
3 ティッシュ?
2 違うわよ。今日生徒会に出さなきゃいけないやつ。
1 はい、どうするの?
2 こうやってと。
1 あ、だめでしょ勝手に書き込んじゃ。
3 あーあ、男子お断りって書いちゃったんでしょ、…あ。
1 どうしたのよ。…え?
2 本当は嫌なんだからね。積極的じゃないんだからね。
3 …ありがとう。
2 別にあなたのためじゃないわよ。もちろん彼女のためでも。
3 うん、わかってる。
1 新入部員がだめだったら、3年生でもいいんだからさ。
2 部がなくなっても、出場は出来るんだしね。
1 いや、部長としてできればそれは避けたい。
2 最悪の場合、英語部から引き抜くから。
1 それ、本当に最悪の場合ね。
2 ふっふっふ、逆乗っ取りよ。
1 なんか、人間変わってない?
2 どうせ出るならさ。
3 え?
2 目指さなきゃだめだよ、優勝。
3 …うん。
1 あと2か月か。
3 松山ってさ、坊っちゃんだよね。坊っちゃん。
2 ぷ、もうその気になって、まだ早いってば。
3 おいしいものあるかな。あ、讃岐うどん。
1 それって香川県。
3 松山って何県?
2 これだからなあ。
3 まあ近くなんだからさ、ちょっと寄り道して。
2 だからまだ早いってば。
1 それより新入部員獲得が絶対条件なんだからね。
2 まずい、6時になっちゃうよ。
3 えーん、分かんないよー。お助けー。

  課題を何とか片付ける3人。そこへ先生が入ってくる。

先生 おい、何騒いでいるんだ。
3 先生、男子がわんさか入ってくる場面を想像したらもう、
2 だから男子って決まったわけじゃないからね。
先生 何言ってるんだ。
1 そうですよね。何言ってるか分かりませんよね。
先生 いいから座れ。
三人 はーい。
先生 もうこんな時間じゃないか。
3 延長したのは先生ですよ。
2 あと三十分で「遠き山に日は落ちて」が流れます。
先生 さすがに終わったんだろうな。
1 はい、何とか。
3 先生、持つべきものは友ですね。
先生 点検するぞ。

  3、教卓に向かう。

3 先生、この俳句どう思います?(ノートを見せる)
先生 なんだいきなり、俳句?そうかお前ら三人とも俳句部なのか?
1 先生、俳句部じゃなくて、俳句クラブです。
3 今度、五七五クラブに改名します。
2 そうなんですよ、先生。俳句クラブ一同、三人そろって居残りなんです。
1 優秀な部員が揃ってるんですよ。
先生 ほんとに優秀だな。
3 揃ってるっていってもたった三人ですけどね。
先生 だったら、あと一人入れないと廃部じゃないか。
1 そうなんです。あと一人入れないと廃部なんですよ。
3 でも先生、絶対に二人以上入れなきゃならないんです。
2 そうしないと甲子園に行けなくなるんです。
先生 甲子園?
1 先生からも入るように言って下さいね。
先生 な、なんの話しだ?。
3 だから、先生、この俳句ですよ。読んでみて下さいよ。
先生 うーん、なんだかよく分からないな。
1 …そうですよね、よく分からないですよね。先生、課題終わりましたよ。
先生 今度はちゃんと家でやってこいよ。
1 はい。
先生 とじまりして帰ってよし。
1 はい。さようなら。

  先生退場。

1 …分からないってさ。
2 …分からないよ。説明しても分からないよ、きっと。

  3、ノートに書かれた俳句を読み上げる。
3 「思い出を削除しますか、はい・いいえ」  

  少しの間。

3 入るかな?新入部員。
1 あんたの出来具合にかかってるんだからね。さんま。
3 整いました。さんま焼く空は夕暮れ鰯雲。
1 その調子、かき氷。
3 整いました。放課後の男同士のかき氷。
1 お、男子部員を意識してるね。
2 だからやめてってば。
1 じゃあね、生徒からお題が出るかもしれないから、例えば、…新入生。
3 えっとね、食べ物以外だってね、いけるんですから、新入生でしょ、イメージイメージ。よし。
2 いけ。
3 えっと、えっと、ランドセル。
2 ん?
3 赤青黄色黒茶色。どうだ。
1 小学生だよねえ、それ。しょうがない、明日は食べ物で押していこう。あ、もうこんな時間。
2 まずいまずい。早く行かなきゃ。
1 だいじょうぶよ。遅くなるって言ってあるから。
3 なんだ最初に言ってよ。あせるじゃない。
1 ま、とりあえず、行こうか。

  1と2、先に教室を出る。

3 あー、ちょっと。またそうやって仲間はずれにするしさあ。
  
  3、帰る準備をしながらもう一度ノートを開く。

1 (廊下から)モトコ!
3 うん、今行く。

  3、ノートを閉じて教室を出る。誰もいなくなった教室。

                          幕






[ 県大会出場作品 ]   [ 表示 ( 1747 ) ]   [ 画像 ( 0 ) ]   [ コメント ( 0 ) ]   [ 参考リンク ( 0 ) ]
Trackback URL :
参考リンク
参考リンクはありません。

新しくコメントをつける

題名
ゲスト名   :
投稿本文
より詳細なコメント入力フォームへ

コメント一覧


chalog Ver. 0.05 - PetitOOps -

ログイン


ユーザー名:


パスワード:





パスワード紛失  |新規登録

タグ

お問い合わせ

THE高校演劇は宮城県高等学校演劇協議会が運営いたしておりますが、ユーザー登録については、県内の方にこだわっておりません。ご意見・ご質問などがありましたら、 こちらまで、メールにてご連絡下さい。

大会結果などはみやぎの高校演劇でご確認下さい。