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ウルトラマンの母

Posted by a-kasahara on 16.06.04 09:00
上演高校名:宮城県仙台第三高等学校(2000年)
人数:最大10名
上演時間:60分
登場人物
少年
ある時は詩人の占い師
探しものの見つからない女


先生
地域住民代表
警察官
レポーター
通りがかりの若い男



 深夜のアーケード。

占い師 探し物は見つかったのかい。そんなに大切なものだったら、いつでもポケットの中へいれとかなきゃ。それとも金庫にしまったまま、開ける鍵をなくしちまったのかい。もしかしたら、それ が大切なものだってこともすっかり忘れてしまったのかい。

 女登場。

女 またわけのわからないこと言ってる。今日は詩人なのね。
占い師 わけなんかわからないほうがいいこともあるんだよ。
女 そう?あたしはいつでもわけが知りたいよ。どうしてそうなるのか。どうしてこうなったのか。
占い師 で、見つかったのかい、お嬢さんの探し物は。
女 わかったのよ。
占い師 ほう。
女 何を探しているのかがまず分からないってことが。
占い師 それを進歩と言っていいんだろうか。
女 なによ、あんただってぜんぜん進歩ないじゃない。
占い師 ん?
女 あいかわらず暇そうだし。
占い師 おおきなお世話だ。
女 簡単じゃない、客が言って欲しいことを言ってあげりゃいいのよ。あんたに見てもらおうなんて人はさ、みんなほんとはどうすればいいのか自分ではわかってるんだから。ただね、わかってるんだけど誰かにそうだねって言って欲しいだけなのよ。
占い師 俺は真実を伝えるだけさ。想像できる未来なんてつまらないじゃないか。余計なこと言ってないで、今日も見るんだろ。
女 あら、早くも転職?あたしが食わしてやってるようなもんね。
占い師 こういう商売でお得意様っていうのもどうかと思うがね。
女 何か変わったかな?
占い師 運命なんてそう簡単に変わるもんじゃないさ。
女 だからあんたは儲からないの。
占い師 金儲けでやってるわけじゃない。
女 変える事ってできないの?
占い師 お前さんみたいに姿、形を変えたところで一生自分ってものからは離れられないんだ。他人がお前さんをどう見るかは知らんが、鏡の中にいるのはやっぱり元のお前じゃないのかい?
女 あたしだってね。好きでこうなったわけじゃないよ。中学までは普通の男の子だったわよ。…自分をね、変えて見たかったの。今までの自分とは全然違う自分に生まれ変わりたかったの。でも、 もう一度初めからやり直すってわけにもいかないじゃない。テレビゲームみたいにさ。
占い師 ヘンシンって感じか。
女 何それ。
占い師 ヘンシンだよ。変身。正しくやれば、こうやってこうきて、こうだ。(仮面ライダーの変身のポーズ)
女 何それ。
占い師 知らないのか、変身した身の上のくせに。
女 そんなの聞いたこともない。
占い師 お前まさか、いくらなんでもこれは…。(初代ウルトラマンのポーズ)
女 ん?もう一回やって。
女 三十七度五分。ちょっと高いな。
占い師 違うんだよ。良く見ろよ良く、いいか。
女 牛乳は腰に手をあてて飲みましょう。
占い師 違うだろ!これだぞ、これ!
女 天下御免の向こう傷、ぱっ。
占い師 拙者早乙女…違うんだよ!なんてこった、戦争を知らない子供達のその子供達が今度はウルトラマンを知らないなんて。
女 だあって知らないもん。
占い師 そうかそうか、…日本の未来は暗いな。
女 なんでそうなるのよ。それより早く見てってば。
占い師 わかったよ。どうせ明るい未来なんてないのになあ。どれどれ、ん?
女 何?何が変わった。ねえ、何が見えたのよ。
占い師 …肌が荒れている。
女 なによ。寝不足なのよ。化粧ののりも悪いの。厚塗りなの。
占い師 これは!
女 また、手がガサガサだとか言うんでしょ。
占い師 お前さん、恋をしてるね。
女 な、なに馬鹿なこと言ってんのよ。そんなもの中学校の下駄箱の中に忘れてきちゃったわよ。
占い師 いや、お前に恋してる奴がいるってことかな。どっちにしろ、お前さんの心の隅っこの方にぼんやりだが人の影が見えるんだよ。
女 気がつかなかった。そんなに広い心じゃないのに。
占い師 本当はみんな自分のことが一番分からないのさ。
女 それって誰かがあたしを気に掛けてくれてるってことだよね。このあたしのことを思い出してくれる人がいるってこと?
占い師 俺は真実を伝えるだけだってば。
女 あたし、帰るよ。
占い師 ずいぶん急ぐじゃないか。もっと話していけよ。
女 だって電話がくるかもしれないじゃない。部屋だって片づけなきゃ。あ、洗濯物干しっぱなしじゃない。じゃ急ぐから、またね。あ、またねって言ったけど、もう来ないかもしれないよ。

 女退場。

占い師 なるほど、こうやるわけか。俺も結構商売上手なのかもしれないな。探し物なら別のとこへ行きな。俺は遺失物の係じゃないんでね。駅へ行ってみるといいよ。そこには大勢の人のため息といっしょに、あんたが忘れた大切なものを預かってくれてるかもしれない からね。でもね、忘れちゃいけないのは身分証明だよ。あんたがほんとにあんたかどうか、ちゃあんと確かめないといけないからね。…探しているうちが花なのさ。たとえそれが何だか分からなくってもね。

 少年登場。

少年 あ、あの。
占い師 探し物かい?
少年 いえ、そうじゃありません。
占い師 これ知ってるか?これ。
少年 は?
占い師 これだぞ、これ。
少年 …ウルトラマン?
占い師 日本の未来もまだ捨てたもんじゃないなあ。おじさんうれしいよ。
少年 はあ。
占い師 ちなみに、仮面ライダーは?
少年 ああ、はい。
占い師 一文字隼人はこうで、本郷剛はこうなんだよな。
少年 そこまで詳しくは。
占い師 日本の未来が曇ってきたなあ。…月光仮面は?
少年 あー、ちょっとそのへんになると。
占い師 月光仮面は知らないと。
少年 なにメモしてるんですか。
占い師 いや、ヒーローがね、いない時代だなと思ってさ。
少年 だからって何でぼくの言ったことメモするんですか。
占い師 ちなみに、もちろん少年ジェットなんて知らないんだよね。
少年 はあ、知らないです。
占い師 少年ジェットも知らないと。
少年 だからどうして、
占い師 じゃあかろうじて知っているあたりで話をするけどね、ウルトラの母って知ってる?
少年 あ、なんとなく。
占い師 ウルトラの母ってさ、頭の格好がどう見てもおさげ髪なんだよな。おかしいと思わないか。
少年 いえ、別に。
占い師 だいたいウルトラの母っていうのがおかしいだろう。
少年 そうでしょうか。
占い師 そんなアットホームなヒーローがあっていいと思うか。
少年 そう言われても。
占い師 やっぱりショカーの手で改造されてしまった仮面ライダーの悲しい身の上っていうのが正しいヒーローの形だと思うんだなあ。
少年 はあ。
占い師 ヘンシンだろ?お前も。
少年 は?
占い師 お前もヘンシンってやってみたいんだろう。
少年 ああ、ヘンシンね。
占い師 ヘンシンって叫んで何かほかのものに変われたらなんて思ってるんだろう。
少年 あの、なんだか話が一方的に盛り上がってるんですが、ぼくが話しかけたのはそういうことじゃなくて。
少年 なんでまたメモしようとしてるんですか。
占い師 いや、世間相手の商売だから。
少年 商売の邪魔をするつもりはないんです。ここで歌ってもいいですか。
占い師 なんだそんなことか。構わないよ。どうせお客なんてきやしないんだ。
少年 ありがとう。うるさかったら言ってください。すぐやめますから。

 男登場。

男 おっ、いいところにいやがるな。やってくれい。
少年 何をですか?
男 何をってお前、古賀メロディに決まってんじゃねえか。
少年 古賀メロディって何ですか?
男 しょうがねえなあ、じゃ何が出来るんだよ。流しのお兄さん。
少年 ぼくは流しじゃありません。
男 ありませんってギター持ってるじゃねえか。
少年 ギターは持ってますけど。ほら最近街で見かけるでしょ、ほらあっちの通りに大勢いるじゃないですか。
男 ああ、あいつ等か。変だと思ったんだよ。飲み屋もねえのになんだってこんなに流しがいるんだろうって。
少年 おじさん、世の中の流れに乗ってませんね。
男 おじさんって言うな。
少年 すみません。
男 お前におじさんって言われるほどのおじさんじゃないんだよ。
少年 すみませんでした。
男 あやまるな。
少年 だって、
男 お前にあやまられるほどのおじさんじゃないんだよ。
少年 酔ってます?
男 うん。…まあいいってことよ。人生そんなに堅苦しく生きてどうすんだ。なあ少年。明日は明日の風が吹くんだ。そうだろ少年。少年?少年…、少年がこんな時間になんだー。
少年 ごめんなさい。
男 あやまるな。
少年 はい。
男 家でおかあさんが心配してるぞ。こんな遅い時間にこんな場所をうろうろして。
少年 心配は…してるんでしょうね、やっぱり。
男 当たり前だ。子供を心配しない親がどこにいる。
少年 それが負担だったりもするんですよ。
男 なーに生意気いってやがる。あ、わかった。あれだろ。お受験。
少年 は?
男 東大一直線。
少年 ぜんぜん。
男 早稲田?
少年 いやそういうことを言っているんじゃなくて、
男 駒澤?
少年 なんで急にそこいくんですか。
男 あ、駒澤をばかにしてるな。あそこはキャンパスで坊主が見られるんだぞ。
少年 だからそういうことじゃないんですよ。親は学歴なんてどうでもいいって言ってるし…。  

 父親登場。

父 そのとおりだよ。子供の自主性ってものを第一に考えなきゃ。
 そう、こう生きなきゃってことはないんだから。父さんはね、大学には行きたかったけど家の仕事を継がなきゃならなかったんだ よ。家は豆腐屋だったからね、毎朝毎朝早く起きて、こう大豆をだなあ、こう大豆を…なんで俺はこんなことしてなきゃならないんだって、涙がさ、こう涙が流れてくるんだよ。涙を流しながらそれでも大豆を煮たんだよ。…そういう時代だったんだ。だけどね今は違うんだ。個性の時代じゃないか。君は君の好きな人生を生きていいんだよ。

 父退場。先生登場。

先生 そのとおりだよ。先生もそう思うな。学校の名前じゃないんだ。偏差値じゃないんだ。そこで何を学びたいかが大切だと思うんだよ。自分らしく生きる。これなんじゃないかな。自分らしさってものを見つけることが君たちのこれからの人生で一番大切なことなんじゃないか?学校だってちゃあんと多様化する生徒に対して様々な選択肢を準備してるんだ。おっと、授業の時間だ。3時間目は「世界の踊り2・バンブーダンス」どれ、竹の準備、竹の準備と…。

 先生退場。

少年 ……気がつくとぼくは街にいたんです。

 女登場。

女 あたしが開けてあげる。
男 なんだお前は。
女 このいんちき占い師。あたしがほどいてあげるわ。あんたの縛られた両手を、この鍵で、自由という名の鎖でしばられたその…
男 そこで宝塚みたいなことやってないでさっさと開けろよ。
女 わかってるわよ。ほら、開いた。
少年 ありがとう。あの…、
女 あんたの手、女の子みたいに柔らかい。どっかで…。あんたうちのお店来たことある?
少年 いえ。
女 そうよねえ、さすがに今時の高校生だって来ないわよねえ。
男 お前はどんな店に勤めてんだ。
女 あんたこのへんじゃ見ない顔ね。
少年 ええ今日初めて来たんですから。
男 今日初めて来たんだよ。この流しのお兄さんは。
少年 あの、流しじゃ…。
女 ばーかね、あんた。ストリートミュージシャンって言うのよこの人達。
男 ばかって言うな。わかってるんだよ。からかってみただけじゃねえか。街の音楽家だろ訳せば。
少年 なんか森の音楽家みたいですね。
女 おじさんはすぐ訳しちゃうのよ。
男 おじさんって言うな。
女 でもあんたなんでこっちでやってるの?みんな向こうの通りにいるじゃない。あたしたまにだけど聞きにいくよ。下手も多いけ どさ。こう、せつなくなっちゃうような歌歌う子もいるんだよね。
男 下手も多いじゃねえよ。下手以前の問題だよ。奴らがやってるのはな、ままごとだよ、実感がないんだよ、砂のおだんごなんだよ。女と寝たことのない奴が女の歌なんか歌うんじゃねえってんだ。
少年 すみません。
女 あんたがあやまることないのよ。なによおじさん。急に真面目になっちゃって。この子はね、辛いことがあるのよ。それをね少しでも紛らわせようとここに来て歌ってるんじゃない。
男 おじさんって言うな。
少年 そういうのともちょっと違うと思うんですが。
男 ほら違うって言ってるじゃねえか。
女 誰にも迷惑かけてないじゃない。歌いたいことを歌って何が悪いのさ。
男 迷惑なんだよ。住民がうるさくて寝られませんって横断幕がはってあったじゃないか。
女 酔っぱらいだっておんなじじゃないの。あんたがぶつぶつ言ってる戯言よりか、この子の歌の方がずっとましだわ。あ、ごめん、ましだなんて言っちゃって。聞いてもいないのに。
少年 いえ。
男 だいたい何を歌うっていうんだよ。歌っていうのはさ、こうなんかせつないものなんじゃないの?人生の悲哀っていうかさ、社 会に対して訴えたいっていうかさ。辛い人生だけど頑張ろうみた いなさ。こうじんとくるもんがなきゃいけないんじゃないの。
少年 確かにそんな気もします。
女 こんな酔っぱらいの言うことに納得しちゃだめだよ。若者には若者だけの考えがあるんだって。若者でしか歌えない歌だってきっとあるはずよ。
少年 うん、そうかもしれないな。お姉さんって優しいですね。
女 お姉さんだなんて、やだ照れるじゃない。(男を叩く)
男 痛えんだよ。
女 とにかくこの子は歌いに来たんだからさ、邪魔しちゃだめだよ。聞いてみたらいいじゃないの、まずはさ。
男 わかったよ、何でも好きなのやってみろよ。聞いててやるから。
少年 じゃ。
少年 いきますよ。
男 おう。
少年 歌いますよ。
男 おう。
女 はやく。
少年 …なんかそうしっかり待たれてもなんだかやりづらくって。
男 めんどくせえ奴だな。形はどうでもいいだろ。歌が大事なんじゃねえのか、歌が。
女 初めてなんだもの。まだ慣れてないんだから、そんなこと言っちゃかわいそうでしょ。
男 さっきからお前こいつの味方ばっかりしやがって、お前はこいつのかあちゃんかってえの。
女 大人なんでしょ。やりたいようにさせてあげればいいじゃない、どうせ暇なんだし。
男 わかったよ。やってやるよ。どうすりゃいいんだ。
女 こう、偶然通りがかったっていう雰囲気を出したいわね。
男 お前が偉そうに言うんじゃないよ。
女 ちょっとそっちからこう自然に歩いてきてよ。
男 わかったよ。やってやるよこうなったら。こっちからだな。
女 いいわよ。よーいスタート。
女 カーット。誰がお城に忍び込めって言ったのよ。スタニスラフスキーぐらい読んでから来て欲しいわ。
男 なんだそりゃ。
女 あたし演劇部出身なのよ。こう見えても。
男 そんなこと言うんだったらお前がやってみろよ。
少年 あの、お気持ちはうれしいんですが、そうやっていろいろされると、どんどんやりづらくなるんですが、いや皆さんの気遣いはほんとうれしいんですけど。
男 お前のためにここまでやってやってるのに、そういう言い方はないだろう。わかったよ、消えてやるから後は好きにやんな。

 男退場。

女 もう来なくていいからね。…でも聞きたいわ、あんたの歌。あたし食事してくるからさ、また来るよ。一人になればさ、歌える よきっと。別に待ってなくていいからね。戻ってきてさ、いなかったら帰るから。いいんだよ、気にしなくて。

 女退場。

少年 そう言われるとかえって気になるんだけどなあ。

 少年歌い出そうとするが、

少年 …ぼくらはいったい何を歌えばいいんだろう。
占い師 そこの迷える若者。
少年  はっ?
占い師 何に迷っているのかも分からない若者。
少年 ぼくのことですか。
占い師 で、どんな夢を見たんだい。
少年 なにも言ってないじゃないですか。また強引に話題を自分の方へ持っていこうとしてませんか。
占い師 だって君には話題がないんだろ。
少年 そう言われると。
占い師 だって君には歌う歌さえないんだろ。
少年 聞こえてたんですか。
占い師 鮫は常に前進していないと死んでしまうんだ。
少年 え、そうなんですか。
占い師 無学な若者だな。
少年 すみません。
占い師 人間だって同じさ。
少年 そうでしょうか。
占い師 そこでずっと立ちっぱなしって訳にはいかないんだよ。
少年 はあ。
占い師 生まれたものは必ず死ぬのさ。
少年 そりゃそうですけど。…あの、ひとつ質問していいですか?
占い師 どうぞ。
少年 なんでさっきあんな話をしたんですか。
占い師 ああ、ヒーローね。もうヒーローが生きられない世の中なのかなと思ってね。
少年 確かにいませんね、ヒーロー。
占い師 君らのヒーローって誰なんだ。
少年 ヒーローですか。うーん、思いつきません。
占い師 やっぱりな。
少年 おじさんの頃のヒーローって。
占い師 ウルトラマンだろう、やっぱり。
少年 ヒーローの条件って何なんでしょうね。
占い師 そりゃもちろん正義の味方であることだよ。
少年 なるほど。
占い師 そして人間には真似できない圧倒的な力だな。
少年 そうですね。
占い師 人間には出来ないことをやってくれるヒーローを見て、スカーッとするわけだ。この世の悪を一刀両断。スペシウム光線だよ。
少年 不満を解消してくれてたわけですね。
占い師 もう一つ。
少年 何ですか。
占い師 守るものは青く美しい地球・そして人間だ。
少年 人間が強くなりすぎたんでしょうか。
占い師 何が。
少年 人間がなんでも出来るようになって、ヒーローが必要なくなったんじゃないんですか。
占い師 なるほど。でもな、ヒーローにはいつも裏返しの危険が伴っていたんだよ。
少年 どういうことですか。
占い師 怪獣と戦うウルトラマンの足元では、どれだけ多くの人命がその巨大な足の下敷きになって失われたことか。
少年 ああ、冷静に考えるとそうですよね。
占い師 それだけじゃない。もしその圧倒的な破壊力が悪の力として発揮されたら。たとえばウルトラマンが、「よーしこうなったら俺が地球を征服しちゃおうっと」なんて思ったらたいへんなことになる。
少年 そう思わないから正義の味方なんでしょ。
占い師 でも彼ら自身が正義じゃないのさ。あくまで彼らは正義の味方。その正義が正義じゃなかったらどうなるのかな。

 女登場。

女 いたー。待っててくれたんだ。
占い師 (女を見て)確かに人間は何でもできるようになったのか もな。
女 なに?あたしのこと。
占い師 いや、ヒーローの話だよ。
女 それだったらヒーローじゃなくてヒロインでしょ。
少年 くすくすくす。
女 あ、なに笑ってるのよ。あんた変なこと吹き込んだでしょこの 子に。
占い師 なんにも言ってやしないよ。
女 あんたの話なんかどうでもいいのよ。で、どうなの、歌えそう?
少年 あの、ずっとおじさんと話してたから。
女 なーんだ。つまんない。あたしを待っててくれたんじゃないのね。なーんだ。
少年 いえ、そんなことないですよ。ちゃんと待ってたんです。
女 絶対待っててくれると思ったんだ。はいコーヒー。
少年 あ、ありがとう。
女 あたし缶コーヒーって好き。
少年 そうですか?
女 なんだかさ、妙に甘くってさ、口の中に残る感じがいいのよね。
少年 残る感じか。
女 始めますって感じでやろうとするからじゃない?なんとなく始まってるっていうのがいいんじゃないの。いつ始まっていつ終わ ったのかわかんないって感じが。
少年 なんとなくか。そうだな、なんとなく始めてみようかな。

 男登場。

男 よお、まだいるのか。
女 そりゃあんたの方よ。それになんでまたここから出てくるの。
男 酔っぱらいはいつも人生の階段をよたよた降りてくるもんなのさ。それよりなんでまたお前がいるんだよ。
女 だって二人の運命なんだもん。
少年 えっ、運命。
男 歌えるようになったのか、ところで。
少年 またそうやってプレッシャーをかける。
男 遠くから見てやるから、さりげなく。チャイコフスキー…なんだっけ?
女 スタニスラフスキー。全然ちがうじゃない。
男 わかったわかった。
少年 ここにいていいですよ。あっちから見られても気になることは同じですから。
男 よし、んじゃあやってみろ。おー。
少年 じゃ、いきます。…♪もうずっと長い間~。

 長い沈黙。

男 早くやれよ。
少年 終わりです。
男 それだけ?いやそれだけってことはないだろう。
女 このおっさんと意見を合わせるのは嫌なんだけど、あたしもちょっとどうかと思うわ。それだけじゃ。
占い師 いやあ、素晴らしい。井上陽水のデビューを思い出すなあ。
男・女 なんでだよ!
男 歌にはさ、ストーリーっていうかさ。展開があるわけじゃない。たとえば横浜たそがれだとさ、
女 演歌じゃないんだってば、でもそうよね、ちょっとね、メロディーもなあ、感動の暇もないもんね、短すぎて。
占い師 いやあ、素晴らしい。吉田拓郎のデビューを…。
男・女 聞いてないっ!
少年 自分の気持ちを歌にしようと思うんです。借り物の歌じゃない、自分の歌を歌いたいんです。
男 自分の歌か。格好いいことぬかしやがって。
女 なによ。
男 そういうことは精一杯生きてみてから言いやがれ。
女 また急に真面目になっちゃって。
男 こいつが生意気なこと言うからだよ。
女 どこが生意気なのさ。
占い師 そうだ、生意気だぞ。少年ジェットも知らないくせに。
男 誰かの歌をちょっと自分も歌ってみたいなっていうぐらいならいいんだよ。自分の歌なんてことを軽く言うから。
少年 軽い気持ちで言ったわけじゃ、
男 軽いんだよ。
占い師 その通りだ。どのくらい軽いかっていうとな、明石屋さんまがおやつはカールを食べてるくらい軽いんだ。
女 やめなさいよ、子供相手に。大人二人でムキになって。
男 精一杯生きている暮らしの中から歌が生まれるんじゃないのかい。そういう歌にこそみんなが共感するんじゃないのかい。歌を 歌うっていうことは、人に歌を聴かせるっていうことはそういう ことなんだよ。そんな奴が一人でもいるか。あいつらの中にさ。
少年 …みんな傷を癒しにきてるんじゃないかな。
女 傷?
男 お前ら何不自由なく暮らしてるくせにどんな傷があるっていうんだよ。お前ら勝手なんだよ。自分のことしか考えてないんだよ。自分の思い通りにいかないと勝手に自分で傷ついて。そのためにくだらねえ歌を聞かされる迷惑も考えたらどうなんだ。

 メガホンを持って、地域住民登場。

住民 あー、若者達に告ぐ。(え、おかしい?)ストリート・ミュージシャンの皆様にお知らせします。(え、丁寧すぎる?)とにかく、地域住民はたいへん迷惑をしています。あなたたちの勝手 な行動のせいで、眠れない夜を過ごしている人もいるのです。クリーニング屋の齋藤さんの家では、子供が夜泣きをして困ると言 っていました。喫茶店を経営している中田さんのとこでは、それでなくても良くなかった嫁と姑の関係が更に悪化し、昨晩などは …あ、まあその…、とにかく、常識をもってやっていただきたい。だいたい君たちは未成年じゃないか。働きもせずに、親に食わせ てもらっているくせに、この街はいつでも人並みに生きていく働 き者たちのためにあるんだ。労働者をなめるんじゃない。

 地域住民退場。

男 ほーれ、地域住民もああ言って下手へと退場していくじゃないか。
占い師 上手、上手。
少年 おっしゃるとおりです。でも。
男 さっきも言ったけどな、お前らには実感がないんだよ。お前らそうやって地べたに平気で座るだろ。皮膚感覚がマヒしてるんじゃないのか。
男 それに昼間からべたべたしやがって、しっかり抱き合ってないと、相手がどっかいっちまうんじゃないかって不安なんだろ。
占い師 現代の若者は肉体を失ってしまっているというのが私の意見です。なぜオームの事件にあんな高学歴の人たちがだまされて
 しまったのかとみなさん不思議に思っているかもしれません。だまされたわけではないんです。彼らは修行の中で自分の肉体を初 めて実感したのです。それは彼らにとって奇跡と呼べるものだっ たに違いないのです。
女 またインチキ言ってる。しかも長いし。
少年 …そんな風にぼくらが、ぼくらがそうなってしまったのは、ぼくらだけのせいなんでしょうか。
男 社会が悪いってかい。そんならなぜそいつに物言わないんだよ。
 ここがおかしいじゃないかって、こうしてくれって、なんででかい声で言わないんだよ。
少年 それは。
男 個性、個性って、結局自分勝手を言ってるだけなんだよ。お前はいつまでもそうやって空をつかんでりゃいいのさ。まったくギターがかわいそうじゃねえか。

 男、ギターを手に取る。

男 こ、こいつは。
占い師 年老いたギター職人が最後に作ったそのギターは息子へのプレゼントだった。しかし息子はもう二度とギターを手にすることはなかった。歌うことをやめてしまったんだよ。職人はそのギターを自分の手元に残そうと思っていたが、何かの間違いでほか のギターと一緒に売られてしまったんだ。伝説のフォークシンガーが手にするはずだった幻の赤ラベル。
少年 幻の赤ラベル。伝説のフォークシンガー。
占い師 なーんて作り話さ。人間は伝説ってやつが好きなんだな。
女 このうそつき占い師が。
少年 でもなんで歌うことをやめてしまったんだろう。
女 だれが?
少年 その、伝説の。
女 ばかね、このいんちき野郎の作り話だってば。
少年 ぼくらみたいに歌う歌がなくなってしまったんだろうか。
男 何でも出来るようになっちまったんだ。金もない、恋人もいない若者がそいつを手に入れてしまったんだ。どんなにあの頃を思い出そうとしても、もうあの頃の歌はよみがえってこなかったん だよ。
女 あのさあ、誰もあんたがその伝説のヒーローだなんて言ってないんだからさあ。
少年 ぼくらは本当は観客なんて求めていないんだ。みんな自分に語りかけているんですよ。 
男 お前らの独り言になんで俺が付き合わなきゃならないんだ。帰るぞ俺は。
占い師 占っていきなよ、安くしとくから。
男 先のことなんか知りたくないんだよ。
占い師 振り返る過去があるってことかい?
男 先なんか見えない方が幸せなんだよ。…じゃあな。
少年 おじさん。

 男退場。 女、少年のそばに近寄り微笑みかける。

占い師 悪魔に魂を売り渡しちゃいけないよ。
女 誰が悪魔なのよ。
女 あたし、今じゃこんなだけど、結構いいとこのぼっちゃんだったんだ。
少年 え?坊っちゃん、ああ坊っちゃんか。
少年 あの、聞いていいですか。
女 何?
少年 あの、もしさしつかえがなかったら、あの教えて欲しいんです。あの、どうして、えーと、
女 どうしてこうなっちゃったのか。でしょう。
少年 いや、なっちゃったなんて。
女 いいのいいの。あたし演劇部だったって言ったでしょ。ほら変身願望ってあるじゃない。
少年 はあ。
女 自分じゃない他人の人生を生きてみたいなあって思うことない?
少年 うーん、あんまり考えたことないなあ。
女 ふーん。もちろんそれだけが理由じゃないよ。自分は自分なんだけど、それがだんだんぼんやりしてくるっていうか、自分じゃなくなっていく感じがね、なんて言えばいいのかなあ、ほら漢字の練習してるじゃない。同じ字を何度も何度も書くじゃない。そ うするとねだんだん、あれ?これなんていう字だっけって…、
少年 それ、分かります。その感覚。
女 なんかしっくりこなくなるっていうかさ。
少年 何か変わった?
女 うん。辛いことも多くなったけどさ、その分メリハリが出たわね。立体的になったっていうか、こう実感が出てきたわよ。
少年 実感か。…今は満足?
女 まあ満足って言えばそうだけど。でも、女の格好しててもさ、やっぱり偽物なんだよね。
少年 そんなことないですよ。
女 だって子供が産めないのよ。
少年 それは。
女 こればっかりはしょうがないよねえ。望んだって無理なことよねえ。でも子供を産んでそれで初めて女ってことがよくわかると思うんだ。
少年 それはぼくらには一生分からない感覚なんでしょうね。
女 無理なことはわかってるんだけどさ。願望が強いのかな?夢の中でさ、子供にね、話しかけてるの。子供って言ってもね、まだ お腹の中にいる子供によ、おかしいでしょ。「坊や早く出ておいで」って。まだ男か女かもわからないのにね。
少年 (驚いて)ぼくも同じ夢を見たことがある。いや同じっていうか、その反対の夢。
女 反対って。
少年 母親の声がね、まだ母さんの体の中にいるぼくの耳に聞こえてくるんです。
女 へー、面白いね。あんたもそういう願望があるんじゃないの。
少年 まさか。
女 でもね、お腹の中にいる赤ちゃんにはいろんな音が聞こえてる んだってよ。
少年 そうなんだ。
女 でもちゃんと母親の声を聞き分けるんだって。だからお母さんはみんな自分のお腹に向かって話しかけるそうよ。
少年 …ここはぼくにとってそんな場所かもしれないな。
女 ここが?
少年 ある日学校に朝うんと早く行ったんですよ。そしたら教室には誰もいなくてね。みんなが座ってるはずの椅子には誰も座っていなくて、そこでぼくは「おい」って呼んだんです。だれに声を かけたのかわからない。自分にだったかもしれない。でもその声 がぼくの耳にいつもよりはっきりと聞こえた気がするんです。そ んな静かな場所を求めてここに来たのかもしれません。
女 でもここもずいぶん変わったのよ。昔さ、この通りの裏に小さな商店街があったの覚えてる。
少年 うん。でもずいぶん小さい頃だったなあ。なんか薄暗くてごちゃごちゃしてて。
女 あたし、そこの肉屋のさ、えーっと、
少年 齋藤精肉店!
女 そうそう、それ、あそこのコロッケったら世界一だったなあ。
少年 薄い緑色の紙に包んであってね。こう油がしみてきてて、
女 うんうん。
少年 あと、メンチカツ。
女 きゃー。それ以上言わないでー。
少年 ハムカツ!
女 ぐわー食いてえ。…あ。でもなんでなくなっちゃったんだろう。
少年 大きなスーパーができたから。
女 きれいになったわよね、あの通りも。すっかり明るくなって。 …あたし、誰もいなくなった夜の公園って何か好きだな。ブランコなんかがさびしそうに揺れててさ。
少年 あそこの公園いったことありますか。
女 ああ、機関車が飾ってあるところね。デゴイチっていうんだっけ。
少年 なんであんなによってたかってピカピカにしちゃうんだろう。ぼくはあの機関車を見ると恥ずかしいんです。まるで自分が さらしものにされてるみたいで。あれは抜け殻ですよね。
女 …あんた、よかったらさ、うちへ来ない。
少年 え?
女 勘違いしないでね。こんな商売してるけど。男の人を家に呼ぶのは初めてなんだよ。あはは、バカだねあたしって。誰も行くなんて言ってないよね。
少年 ぼく、カレーが好きなんですよ。
女 えっ?
少年 お腹すいちゃったから。
女 来て。

 少年・女退場。

占い師 今日は店じまいとするか。

 明かりを吹き消すと暗闇が訪れる。そしてまた夜がやってくる。

女 とにかくできちゃったのよ。で、どうでもいいけど、なんでまたあんたがいるの?
男 展開上の問題さ。そんなことより何が出来たんだよ。 
女 できちゃったって言ってるんだからわかるでしょ。
男 借金。
女 あんたね。
少年 え、まさか。
男 やるじゃないか、お兄ちゃん。
占い師 …売り渡してしまったか。
少年 何言ってるんですか。だって何もなかったじゃないですか。
女 でもできちゃったんだもの、しょうがないじゃない。
少年 だいたいあれから何日経ったっていうんですか。
男 おいおい、あれからなんて言ってるぞ。いやしかしな、たとえ何かあったとしても生物学的にはあり得ないわけだし。
占い師 いや、まずこいつを生物として認めるかどうかというところから出発しないと。
少年 たとえだろうとなんだろうとにかくないんです。
女 だれも彼の子供だなんて言ってないじゃない。神様が夢を叶えてくれたのよ。でもあんたもそんなに一生懸命否定しなくたって いいじゃないの。
少年 すみません。でも、

 父・先生登場。

父 そういう無責任なことでどうするんだ。確かにお前の好きなようにやればいいと言ってきた。しかしな、お前そんなことをされ たんじゃ世間に顔向けが出来ないじゃないか。しかもそんなどこの誰だかわからんような女と。
先生 人生はもっとゆっくりじっくり考えなきゃだめなんだ。君には無限の可能性があるわけじゃないか。その可能性に挑戦もしな いのはもったいないと思わないか。
女 なに言ってるのさ、あんたら。いつ誰がこの子が私を妊娠させたなんて言ったのよ。わたしに子供が出来たって言ってるだけじゃない。
先生 とにかく帰ろう。
父 そうだ。とりあえず、家でゆっくり話し合おうじゃないか。今後のことをよく考えて、いい方向を考えていこうじゃないか。
少年 帰らないよ。
父 何を言っているんだお前は。
少年 ぼくは帰らないと言ったんだ。
先生 何言ってるんだ。お父さんの言うとおりじゃないか。事実は事実としてこれは認めないわけにはいかない。でもどうしたらいい方向へ向かえるのか、ここは大人の意見をしっかり聞いてみる ことが大事なんじゃないかな。
少年 いい方向って何だい。
先生 それはだからゆっくりと。家でゆっくり話し合う。これがすべての問題を解決する出発点じゃないか。
少年 ぼくらにいい方向なんてあるのかい?
父 何をわけのわからないことを言っているんだ。さあ帰るんだ。
少年 ぼくらが行くべき方向はどこを向いているんだい。
占い師 今の時代に帆を張れば、どっかとんでもないところへ行きそうな。
父 あなた関係ないでしょう。とにかく帰るんだ。
少年 近づくな、近づくと、…こいつがどうなっても知らないぞ。

 羽交い締めにされる男。

男 お、おい、何でそうなるんだよ。
父 お前何をやっているのか分かってるのか?
先生 警察ざたはいかん警察ざたは。また新聞が騒ぐじゃないか。
女 あたしのためだったらやめて。あたしはいいんだから。あんたに迷惑かけたくないんだから。
少年 君のためじゃないさ。ぼく自身の問題なんだ。さあ、帰ってください。ぼくはここから一歩も動かないよ。
先生 お父さん説得を。
父 いやここはやはり学校の力でなんとか。
先生 そうやってすべて学校の責任にしてもらっては。
父 だってあなたの教え子じゃないですか。
先生 あんたの子供でしょ。
父・先生 しょうがない、こうなったら変身だ。バロームクロス!

 警察官登場。

警官 警察官は常に全体の奉仕者であり、正義の名の下に任務を遂行するのであります。
父 お願いします。
警官 犯人に告ぐ。君は完全に包囲されている。今すぐ武器を捨てて出てきなさい。
父 あの、そんなにおおごとにしなくても、もうちょっと小規模に。
警官 正義に大規模も小規模もないのです。正義の剣はいつも正しく悪に向かって振り下ろされるのです。
父 あの話せばわかる子供なんですから。あのくれぐれも説得の方向で、強攻策は避けていただいて。
警官 そんなことだから凶悪犯罪がなくならないのです。アメリカを見なさい。

 レポーター登場。

レポ こちら現場です。犯人は人質二人をとって立てこもっております。詳しいことはまだ分かっておりません。動機についても不 明です。犯人は17歳の少年。人質となっているのは…
少年 すみません、乱暴な真似して。
男 前もって言っておいてくれよ。そしたらもう少し自然な演技ができたじゃないか。なあ演劇部。
女 びっくりしちゃったわよ。どうにかなっちゃったんだと思ったわ。
男 でもどうするんだよ。
少年 どうしましょう。
男 ここは要求を出そうじゃないか。
女 何言ってるのよあんたは。
男 お前がここに来てるのは意味あってのことなんだろ。このままじゃいけないって思ってるんだろ。
少年 まあ。
男 その要求を世間に突き付けたらいいじゃないか。お前に足りないものが何なのか、お前が欲しいものは何なのか、ここではっきりさせたらいいじゃないか。
女 おかしいんじゃないの?
男 お前が常識を教えるんじゃない。
少年 …わかりました。
キャ 犯人から要求が出されたようです。(渡されたメモを見て)おい、ほんとにこれでいいの?失礼しました。犯人からの要求は、…特にありません。以上です。
男 バカかお前は。特にありませんって要求があるか?
少年 でもぼくらには何も足り無くないんですよ。
男 欲しい物はあるだろ。
少年 特に。
男 わかってないだけじゃないのか。何が欲しいのかが。
少年 そんな気もしますが。
男 ぐずぐずしてると俺が要求を出すぞ。
女 ばかね、あんたは人質じゃないの。ところでさ、さっき人質二人って言わなかった。
男 いち、に、さん。あれ、あの野郎どこへ行きやがった。
女 あ、何あれ。

 レポーターの声大きくなる。

レポ それでは犯罪心理学の立場から、一連の少年による凶悪事件を分析していきたいと思います。今日はどうもありがとうございます。早速ですが。
占い師 要するにですね、彼等はヒーローの裏返しなんですよ。言ってみれば負のヒーローってわけですよ。
レポ 負のヒーローですか。つまりマイナスだと。で、何がマイナスなのかを。
占い師 つまりだね、ヒーローがいない時代にあって、彼らはああいう形で世間を騒がすという役割を負わせられてるわけですよ。
レポ なるほど、つまりマイナスだと。で、何がマイナスなのかを。
占い師 要するにね、彼らは笑いのない、道化なんだよ。
レポ なーるほど、結論として、つまり、マイナスだってことですね。で、何がマイナスなんでしたっけ。
占い師 あーぜんぜんわかってないんだねえ。つまりね、私の言いたいのはね、マイナスをプラスにするにはだね、いくらプラスを足していってもゼロに近づくばっかりなんだよ。だからね、マイナスにマイナスをかければね。いっきにプラスになるじゃないか。
レポ ありがとうございました。現場からでした。スタジオにお返しします。
占い師 おい、まだ話が、おい、つまりだな、ヒーローをよみがえらせなきゃいけないってことなんだ。おい、ここからなんだよ大事な話は、おい、おーい。

 占い師、戻ってきて。

占い師 ふー、危ないところだった。
男 お前はいったい何をやってるんだ。
占い師 まったくわかっちゃいないよ、あいつらは。
女 あんたが一番わかんないわよ。
男 要求はともかく、言いたいことを言ったらいいじゃないか。お前が今考えてることを、親や先生や社会に向けて言ってみればいいじゃないか。
少年 …わかりました。

 レポーターの声大きくなる。

レポ 今度こそ犯人からの要求が出たようです。さきほどのは何かの間違いだったと思われます。失礼しました。(メモを見て)
 しらないよ、俺は。要求は、…ぼくらの言葉を返してください。
男 わかりにくいだろ。もっとさ、ストレートにさ、社会の仕組みとか、社会の病んでいる部分とかそういうものに対してさ、するどく切れ込んでいくっていうか。
少年 おじさんは、そういう時代を生きてきたんですね。
男 …まあ、そうだ。
少年 反対できるものがあったんですよね。
男 …まあ、そうだ。
少年 闘うべきものがちゃんとあったんですよね。
男 …ああそうだ。俺達にはやるべきことがたくさんあったんだ。社会に対して世間に対して言いたいことがやまほどあったんだよ。誰でもそれが言えたんだ。言うべき事がみんなわかっていたんだよ。…そしてそれを歌にした。そんな歌を俺は歌ってきたんだよ。
女 え?
男 そして歌うことがなくなっちまったんだ。歌うことがなくなって、歌はそれぞれの恋の行方を歌うようになっちまったんだ。そして俺は歌うことをやめてしまったんだよ。
女 あんた。
少年 おじさんだってさがしてるはずだよ。ぼくらみたいに。この手応えのない社会の中で、もう一度歌いたいと思っているはずだよ。
男 人のことはどうでもいいじゃないか。お前のことだろう。
少年 ぼくらにはすべてがあったんです。すべてが準備されていたんです。ぼくらは何もないって事のぜいたくを知らずに育ってき たんです。ぼくがここに来たのもきっとそういうことじゃないんでしょうか。でもわかったんです。ここへ来て。ぼくらには自分 の言葉さえもなくなっていたことが。
占い師 少年は「存在感・欲しい」と打ち込んだ。言葉は音を失い、パソコンのモニターに活字になって貼り付いた。二進法が生み出 す言葉を複雑に操りながら、でも自分の名を呼ぶ母親の言葉だけ がただ一つの確かな存在だった。つるつるしたプラスチックの箱の中で、必死に手応えを求めようとする少年達の悲劇は、正義だけでは裁ききれるはずがない。
女 動いた。
少年 男の子かな女の子かな。
女 きっと男。そう、きっと男の子よ。あたしの夢に出てきた通り。
占い師 「夢は?」と聞くと、少年は「別に」と答えた。アームストロング船長がウサギを追い出した時から、人間はつぎつぎと夢 をかなえてきた。そして夢見る夢をなくしてしまった。さあ夢見る夢を取り戻し、夢のような現実を葬り去ろうじゃないか。
女 また動いた。
占い師 今生まれようとしているものは。

 父親・先生・警察官が詰め寄る。

父 もうお前は私たちの手にはおえないようだ。
先生 現実を消し去るなんて、お前自身が消えてしまうんだぞ。
警官 この頭でっかちのテロリストめ。正義の銃弾を食らうがいい。

 女が少年の前に立ちはだかる。

女 あなたたち正義のふりしてるけど、ほんとうにそうなのかしら。 それとも何が正義かも忘れてしまっているのかしら。少なくとも私には、正しいことが一つだけあるわ。ほんとうに守るべきものを守ること。それは、この子よ。(少年を見つめて)坊や、早く出ておいで。そして母さんって呼んでごらん。
少年 …かあさん。

 book of days(enya)

女 出ておいで、聞こえる?私の声が。
少年 聞こえるよかあさん。この街から、かあさんの体から、もう 一度生まれ直すためにぼくはここへ来たんだね。
占い師 さあ、出発しよう。
少年 どこへ。
占い師 いつまでも母さんのお腹の中にいるわけにはいかないじゃないか。出ていくんだ、この眠らない街から。そして見つけに行 こうじゃないか、それぞれの探し物を。
男 でもいったいどこへ向かうっていうんだ。何があるんだそこに は。知ってるんだろうお前は。
占い師 正しく物の滅びていく所。母なる大地。どこまでも続く地 平線の彼方にそいつはあるのさ。
男 だけど、どうやって。
占い師 あいつに最後の仕事をさせてやろうじゃないか。そしてそいつがひび割れ、錆び付いていく姿を見届けてやろうじゃないか。

 汽笛の音。

少年 デゴイチ。
占い師 さあ、長い長いトンネルを抜けてこい。

 汽笛の音。アーケードのシャッターが開き、中から機関車のライト。機関車の 煙。

少年 どこまでも続く地平線と交わるように。まっすぐに線路は延びている。
女  そして二つの直線が交わる遙か彼方の交差点に。

 交差する二人の腕。

男 スペシウム光線。
占い師 ウルトラマン。伝説のヒーロー。

 汽笛の音。少年の右手が高く差し上げられる。

 暗転。

 深夜のアーケード。男登場。

男 やあ、久しぶりだね。
占い師 やあ、みんないなくなっちまったよ。でもごらんよ。ずいぶんいろんな人が歩いているじゃないか。
男 確かに、よく見るといろんな人がいるもんだな。
占い師 ああそうだ、これ。
男 何だい?…楽譜じゃないか。
占い師 やっと自分の歌が見つかったんだな。
男 歌だけが残っちまったか。
占い師 生まれたと言って欲しいな。それから、これ。(ギターを取り出す)
男 …これは。
占い師 これはやっぱりお前さんが持つべきだよ。
男 伝説なんて現実にはありゃしないのさ。それに俺は何も探しちゃいないよ。
占い師 いいから。
男 俺ももう一度この街角に立ってみるか、あいつみたいに。…占ってくれよ。
占い師 先のことは知りたくなかったんじゃないのかい。それにその必要はないさ。だってあんたの探し物はもう見つかっているじゃないか。

 楽譜を見つめる男。

若い男 おい、おっさん。ははは、何やってんだよ。歳を考えろよ。 演歌でも歌おうってのかい。

 男静かに歌い出す。しだいに男の歌に熱がこもっていく。
 …新しい歌が生まれた。

      幕
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