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新世界

Posted by Hayashi on 19.03.17 23:09
        「新世界」          common to booing

 登場人物   生徒A(相馬永輝)  兼 大村先生
           生徒B(加藤あやと)
           学校長        
           椎名先生(Aの担任・Bの顧問)


卒業式前日、予行練習後の放課後の教室

相馬  しかし、結構ありますね、この進路系の雑誌。こうして処分するならもっと早めにやっておけばよかったんじゃないですか。
椎名  そうだよなぁ・・・・・・。 すまんな、手伝わせてしまって。でもな、明日卒業式だろ。多くの保護者が来るってことを考えると、できるだけ教室は整理しておいた方がいいかなって思ってさ。
相馬  だったら、大掃除の時にこっちもやっとけばよかったじゃないですか。
椎名 うん。確かにそうなんだけど、大掃除の時はさ、まぁ別に雑誌くらいはあっても平気かなって思ったんだよ。でもさ、さっき隣の大村先生のクラスを見たらさ、なんかもう何にもありませんーみたいに片付いてるんだよ。それみたらさ、何かこの、雑誌たちの存在がだんだん気になってきて。
相馬  ・・・・・・いや、もう別にいいんですけどね。
椎名  じゃあ文句言わないでやってくれって。どうせやるなら、気持ちよくやった方が達成感もあるぞ。
相馬  ありますか? この作業に達成感なんて。要するにいらなくなった雑誌を紐で縛ってゴミ捨て場に運ぶ。しかも階段があるから台車で運べないので何度も歩いて往復する。だから足は疲れるし雑誌の重さで手も疲れる。ついには腕が折れて心も折れる。これのどこに達成感があるんですか。
椎名 何事も苦労した後は自分をほめてやるもんだよ。よくやったぞ自分!ってな。そして終わった後の一杯のビール・・・大人の醍醐味ってやつだな。
相馬  あの・・・一応言っておきますが、僕、未成年なんで終わった後の一杯っていうのは楽しめないんですけど。
椎名  だから、大人の醍醐味って言ったろ。
相馬  つまり高校生は楽しめないってことですね(ため息)。でも先生、終わった後の一杯で満足できるって、何か悲しくないですか?ていうか、むしろ虚しいっていうか・・・・・・。
椎名  だから、そういうものも込みで大人の醍醐味なんだよ。相馬もいずれわかる時が来る。
相馬 正直わかりたくない気もしますけどね。はい、じゃあこれで全部縛り終わりましたっと。
椎名 ご苦労さん。じゃあいよいよゴミ捨て場にもって行くか。

二人、雑誌を運んで行こうとして

椎名  あっ、ちょっと待て! (ロッカーに近づき)確かこのロッカーの陰に…あぁ…やっぱりな…。
相馬 何ですか先生。何となく知らない方がいいことのような…。
椎名 冴えてるな。まぁ、とりあえず百聞は一見にしかずだ。ほら。
相馬 いや、知らなかったことにします。よってこの雑誌を運ぶことだけに専念します。
椎名 目の前の現実からいつまでも目をそらしてはいけないぞ相馬。パンドラの箱を開けた時、それが新たなる世界の始まりなんだ。さぁ、勇気をもって!
相馬 いいえ、結構です。
椎名 だめだなぁ…… そういう消極的な姿勢は人生の可能性を自ら否定することになるんだぞ。あくなき好奇心と探究心が人間を育てるんだ。かの有名な科学者の・・・・・・
相馬 先生。要するにまだあるんですよね、雑誌とか。その陰に。
椎名 見もせずにわかるとは、大した奴だな相馬。
相馬 ありがとうございます。うれしくないですけど。
椎名 じゃあそういうわけだから、取り出すの手伝ってくれ。
相馬 はぁ、しかしなんでこんなとこに雑誌が埋もれてるんですか。いや、それより何でここにあるって気づくんですか。ていうか、どうせ気づくならもっと早い段階で気づいてほしいですよ。目の前にある大量の雑誌を何度も何度も縛って、もうこれ以上縛るものはないよな、じゃああとはこれを運ぶだけ…… とか思ってからのこの発見! そういうのがキツいんですよ。
椎名 確かに…… 言いたいことはわかる。でもな相馬、あとから気づいてしまったんだよなぁ。すぐに気がつかないのは、多分年のせいだな。
相馬 そんな年じゃないですよね先生。
椎名 いや、確かにうら若き花の二十代だけど、それでも忍び寄る年には逆らえないっていうか。
相馬 うら若きって普通、女性に使う言葉ですよ。
椎名 そんなことも知ってるのか。大した奴だな相馬。
相馬 ありがとうございます。うれしくないですけど。
椎名 しっかし、これ雑誌じゃなくて大学案内用のはがきの束だよな。どうしてこんなに余ってるんだ。誰も使ってないのかよっ(と、言って一枚引き抜く)。
相馬 さぁ、どうなんですかね。それより、これちょっと引っかかってますよね。何とかして抜き取らないと。って、先生もはがき見てないで手伝ってください。
椎名 あーごめんごめん。どれ、じゃあ、せーの。
相馬 先生、これ抜けないっすよ。あきらめましょう。
椎名 何言ってんだ。ここまできてやめるわけには……抜けない。
相馬 別にこれくらいあっても問題ないですよ。どうせ見えないし。
椎名  でもなぁ…それでは俺の気持ちが…。
相馬  うら若き二十代はそんな小さいことにこだわらないですよ。
椎名 そんなこと言ってやりたくないだけだろ。そういう消極的な姿勢がだな・・・(引き抜こうとして)ん?これCDじゃないか。
相馬 あ、ホントだ。これって英語の問題集についてたヤツですかね。
椎名 これが引っかかって抜けなかったのか…… 。しかし、そんなCDをこんなところで見つけるとは……英語の成績が悲惨なハズだよ(ため息)。
相馬 いや、これって英語のCDじゃないんじゃないですか。パッケージがついてないし、誰かの私物かもしれないですよ。ひょっとしたらCDじゃなくてDVDの可能性もありますね。
椎名 えっ。しかしかといって勝手に流したり見たりはできないし……。
相馬 じゃあ、明日みんなに聞いてみたらどうですか。
椎名 うん……いや、まぁ、考えとくよ。
相馬 ?
椎名 それにしても、これではがきが抜けるってワケだ。ほらよっと。
相馬 うわっ、なんかホコリが……ゲホッ。
椎名 まぁ、はがきは捨てるとして、あとは掃除だな。
相馬 ますます仕事増えてるじゃないですか。
椎名 まぁまぁ、掃除は俺がやっておくから、相馬は雑誌捨てに行ってくれ。
相馬 それってズル・・・・・・ 、わかりましたよ。その代わり、もう何も見つけないでくださいよ。これ以上仕事増えたら、家に帰れない気がします。
椎名 わかったって。掃除が終わったら俺も雑誌運ぶから、まず先に運んでいてくれよ。
相馬 わかりました。

       椎名、相馬が教室を出て行ったのを見て、改めてDVDを手に取る。そして、回想。

椎名  加藤…。

九ヶ月前。
加藤が勧誘活動をしている。

加藤 演劇部どうですかー? 今なら即キャストになれますよー?

加藤は標的を見つける。

加藤 あ、あのさ演劇部興味ない? ……いまね、文化祭でやる劇の練習してるんだけど……あ、そうかぁ。ごめんな。

加藤  みんなで一緒に舞台を作ろう。楽しいですよ!

加藤 やっぱり一人でやってやるか……ロミオとジュリエット。

相談室。椎名先生が座っている。
相馬が入って来る。

相馬 …おはようございます。
椎名 おう、相馬。おはよう。ま、座ってくれ。
相馬 はい、失礼します。

相馬は座る。

椎名  まずは今日もよく来た。これで出席日数は稼げたな。
相馬  …はい。
椎名  でさ、前にも聞いたけどさ、家でどうしてるんだ相馬。
相馬 いえ、特には…。
椎名 体調とかそういうのは、大丈夫なのか?
相馬 はい。
椎名 そうか…。相馬は、その、ずっと授業には出てないよな。やっぱり…教室に入るのは難しいか?
             
少しの沈黙

相馬 …すみません。
椎名 ……いや、高三で受験もあるし、授業を受けてないのが心配でさ。ていうかこのままだと卒業だって厳しくなるしさ。
相馬  すみません。
椎名  いや、あやまらなくてもいいんだけどな。
相馬  …。
椎名  卒業はしたいと思ってるんだよな。
相馬  (軽くうなずく)
椎名  じゃあさ、ちょっとずつでいいからプリントやっていこう。卒業のためにはテストは受けてほしいし、だったら、何も勉強しないってわけにはいかないしさ。
相馬 …どうせ何やっても変わりませんよ。
椎名 何言ってんだよ。今からでも頑張れば、大学にだって十分行けるぞ?
相馬 いや、僕には無理です…。
椎名 そう簡単に決めつけるなって。もう少し落ち着いて考えてみたらどうだ?
相馬 ……先生は努力は必ず報われるって思ってますか?
椎名 そりゃあ、絶対とは言わないけど。ある程度は報われると思ってるよ。
相馬 じゃあ僕と正反対だ。僕は、努力の結果も結局は才能だと思うんです。
椎名 どういうことだ?
相馬 努力したから成功したんじゃなくて、初めから才能があってたまたまそのタイミングで開花しただけってことです。
椎名 それなら、相馬にも秘められた才能があるかもしれないよな。
相馬 ないですよ僕には。何というか、わかるんです。他の人がなんなくこなせることが僕はできなかったりするし。
椎名 そんなの、わからないじゃないか。
相馬 先生にはわからなくても、僕にはわかるんです。
椎名 相馬の考えは難しいな。
相馬 先生も、感覚でモノを言う時ってありますよね? つまりは、そう言うことです。僕には何もないって。
椎名 いや、でもなんかあるだろ? 得意なこととか。
相馬 ですから、ないですよ。そんなの。
椎名 じゃあ、好きなこととか。
相馬  ……。
椎名  興味あることとかさ。
相馬 それだったら…。
椎名 え、なになに?
相馬 ……紙飛行機かな。
椎名 へぇー、紙飛行機ね。
相馬 まぁ、あえて言うなら…ですけど。
椎名 紙飛行機かぁ。で、なんで紙飛行機が好きなんだ?
相馬  なんでですかね…。小さい頃からよく作って飛ばしてたんです。翼の調整とかするとよく飛ぶんですよ。
椎名  詳しいな。俺も子供の頃よくやったよ。でも、あんまり飛ばなかったと思ったな。
相馬  遠く飛ばすには作り方だけじゃなく、角度とかも大事なんです。
椎名  ホント詳しいな相馬。大したモンだよ。将来紙飛行機で食っていけるんじゃないか。
相馬  そんなのあり得ないですよ。
椎名  ハハ…まぁな。でも、何か大会とかはあるんだろ。
相馬 えぇ、まぁ一応。出たことはないんですけど。
相馬 おぉ、やっぱりあるんだ。
相馬 メジャーな競技じゃないんで知られてないですよね。そんなもんだと思います。
椎名 そういう趣味から自分に自信を持っていけるといいんだがなぁ。
相馬 …。
椎名 まぁともかく、焦っても仕方ないんだが、大切な時期なのは事実だから。ちょっとでも勉強しておくんだぞ。わかんないところとかあれば、先生方に聞いてくれればいいんだし。
相馬 (軽くうなずく)。
椎名 実は今ここに数学のプリントあるんだけど、残ってやっていくか?
相馬  …。
椎名  じゃあうちに持って帰ることにするか。
相馬 はい。(時計を見て)じゃあそろそろ僕は帰ります。
椎名  そうか。じゃあ、気をつけてな。

相馬が出て行く。
放課後の演劇部の部室。加藤が一人芝居をしている。
椎名先生がいることに加藤は気づかず芝居を続ける。

加藤 「あの目が夜空に輝き、星がその顔に納まってもよいのではないか?陽の光をあびた燈火ながら、その頬の輝きには星も恥じらおう、そして夜空にかかる二つの目は隈なくあたりを照らし出し、昼とも見紛う明るさに鳥が囀ることだろう。見ろ、片手に頬を預けている!ああ、その手を包む手袋になり、その頬に触れることができたら。」
椎名・加藤 わっ!
加藤 先生、いつからそこに。でもちょうど良かった、ちょっとジュリエット役やってもらってもいいですか?なかなかうまくいかなくて。
椎名 おういいぞ。でも俺は男だから、ジュリエットというよりはジュリオット、だな(笑)。
加藤  ……。
椎名  で、どこからやるんだ。
加藤 じゃあ、続きからお願いします。いきますよ。「その頬に触れることが出来たら。」
椎名  「ああ。」
加藤 「何か言ったな。おお、もっと言ってくれ、美しい天使!頭上にあって月夜に輝くその姿は、正に翼を持つ天の使、後退りして目を見張って仰ぎ見る人間どもの頭上を、徐に流れる雲に乗り、天空を滑り行くかのよう。」
椎名 「おお、ロミオ、ロミオ!なぜあなたはロミオなの?」
加藤 先生、なかなか上手ですね。可愛くはないですけど。
椎名 別にいいだろ、男なんだし。で、文化祭はロミジュリやるのか?
加藤 はい、そのつもりです。
椎名 一人でか?
加藤 そうです。あ、先生も一緒に出てくれますか?
椎名 いや、普通顧問は出ないだろ。それより、文化祭の申請書類出すの忘れるなよ。
加藤 あーはい、わかりました。
椎名 しかしさ、ロミジュリって一人でできるのか?
加藤 もちろんですよ! 左半身がロミオ。右半身がジュリエット。これでやります。
椎名 (圧倒されて)そ、そうきたか。
加藤 最初は上半身がロミオ。下半身がジュリエットでいこうと思ったんです。でも泰司にその話ししたら止められました。
椎名 (ボソっと)グッジョブ泰司。
加藤 面白いと思ったんですけどね。あ、じゃあ忘れないうちに申請書類貰ってきます。
椎名 じゃあ俺はこれから職員会議だから、帰る時窓の鍵と電気よろしくな。んじゃおつかれ。
加藤 お疲れ様でした。

加藤は部室を出て行く。
          職員会議。先生方の雑談。

椎名 はぁ・・・・・。・
大村 どうしたんですか椎名先生?
椎名 いろいろ心配なことがありまして。
大村 これからの会議のことですか?
椎名 え、あ、それは・・・。
大村 俺は少し極端な気がするな。
椎名 何がですか?
大村 何ってそりゃあ・・・。
椎名 (苦笑い)大村先生ってそんなこと言うんですね。
大村 まずかったですか?
椎名 いや、いいと思います。

大村 (時計を見て)そろそろですね。じゃあ俺司会なので。
椎名 あ、はい。

     ドン、ドン、ドンドンドンドンドンドンドンドン、ドン!
        校長現れる。職員起立。

校長  ご苦労、諸君。
全員  はい。
校長  これより、いつものアレを行う。教育基本法第十三条、読みなさい。せーの。
全員  学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を
自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする。
校長  うーん、言えていない者がいるな。それでも君たちは教育者か。生徒にアレをやれコレを出せと言っておきながら教師がこのありさまでは、生徒に失礼ではないのか! え? 生徒は本気で授業に向かってきている。君たちも本気で生徒と向き合いなさい
大村  それではこれより、職員会議を始めます。

             話が進んで

大村  えぇ、では次に本校に若干名いる不登校生徒について何か報告のある先生はいらっしゃいますか。(周囲を見渡して)では、椎名先生。
椎名  はい。今、私のクラスの相馬永輝という生徒が四月から一度も授業に出ていないという状況が続いておりまして、正直このままでは卒業が怪しくなってきました。
校長  なに? それはよくない。実によくないぞ。留年してしまうというのは本人も周りの人間もつらいものだ。不登校で留年というのだけは避けてほしい。皆で協力して是非もう一度学校に来られるようにしてくれ。わかったかね。
椎名  (ボソリと)言うほど簡単じゃあないんだよな。
大村  (小声で)椎名先生!
校長  ・・・・・・(にらみつける)
大村  では最後に何か連絡のある先生はいらっしゃいますか。

             シーン

校長  では私から。
大村  どうぞ。
校長  私がこの学校に来てからしばらくたったが、良いところと悪いところが見えてきた。今日は一つだけ。この学校には無駄に部活が多いが、これは先生方の負担を大きくしている。そこで、少人数の部については廃部の方向で話を進める。確か新聞部は三年五組十二番坂下勉と三年七組二十七番中沢武士の二人、華道部は二年三組三十五番平沢美咲の一人、演劇部は三年八組六番加藤あやとの一人だったな。
椎名・大村  なんだこの記憶力は!
校長  私は無駄なものは容赦なく省く。君たちも省かれないよう、気をつけたまえ。
大村  こ、これにて職員会議を終了します。
校長  明日からも頑張りなさい。
全員  ありがとうございました。
        
         ゾロゾロと動き始める

校長  椎名先生、待ちなさい。
椎名  何でしょうか、校長先生。
校長  君、さっき『言うほど簡単じゃない…』とか言わなかったか?
椎名  (ギクリ)え、そうでしたか?
校長  まぁいいのだが。ところで君、不登校の子には真摯に対応しているのか?
椎名  え、あぁ、はい。
校長  私は無駄なものは省くが、生徒を省くことは絶対にしない。君も、誠意を持って不登校の子を説得してくれ。そして私や他の先生方にできることがあればすぐに言ってくれ。我々は学校単位で君をサポートするぞ。では、しっかり頼んだぞ。
椎名  はぁ、分かりました。
        
        校長消える

椎名  なんて地獄耳なんだ・・・・・・。
校長  聞こえてるぞ。

         後日の演劇部部室。
        
椎名 ご苦労さん。それで、申請書は書けたか、加藤。
加藤 あっ、持ってきました。(と言って渡す)。
椎名 (申請書を見て)うん。で、これなんだがな、ちょっと困ったことになって。
加藤 どうしたんですか?
椎名  うん。まぁ、ちょっとな…。

          二人座る

椎名 実はな・・・・・・廃部になるかもしれない。
加藤 何が?
椎名 演劇部が。
加藤 ・・・・・・何が?
椎名 ・・・・・・演劇部が。
加藤 えっと、つまり?
椎名 文化祭どころか、コンクールも多分出れない。
加藤 ……どうして、廃部に決まったんですか?
椎名 校長先生は部員が少ないからって言っていた。
加藤  ちょっと待ってください。あんまり急すぎてよくわかんないんですけど。なんでそんなことになるんですか。
椎名  部員が少ない部は省くとかって言い出してな。言い出したら本気だからな…。
加藤  そんな!困ります!なんでそうなるんですか。先生方から反対意見とか出ないんですか。俺たちの意見とかって聞かないんですか。
椎名  言い出せる感じじゃないんだよな。なんかもう即決で。
加藤  そんな…じゃあどうしたらいいんですか俺は。
椎名  部員を増やすしかないな。
加藤 急に増やせと言われても・・・実は今だってちょくちょく勧誘はやってるんですよ、でも全然…。何すれば部員って入ってくれるんですか?
椎名 そうだなぁ、まず何よりも相手に興味を持たせないとな・・・たとえば、チラシを配ってみるのはどうだ?
加藤 それはもちろん、やりますけど。普通すぎてあんまり効果ないんじゃないんですか?
椎名 じゃあ、説明会を開くとか? あ、でもそんなに人が集まらないか。じゃあ、校門前でターゲット絞って声かけてみるとかはどうだ?
加藤 それもやってます。でも、みんな興味持ってくれなくて…。
椎名 あ、じゃあいっそのこと、校門前で演劇やってみるってのはどうだ?
加藤 ……(悩んでいる)。
椎名 って、さすがにそれはないか。
加藤 …やってみます。
椎名 え? やるの?
加藤 はい。まかしといてください! 俺の超クールな演技で、二十人くらい落としてやりますよ。早速
明日からやってみます。
椎名 お、おう、その意気だ。頑張れよ。

舞台袖から紙飛行機が飛んでくる。
紙飛行機が落ちると相馬がでてきて、それを拾い上げる。
相馬は舞台袖に向けてフォームを確認しながら紙飛行機を投げる。
相馬は紙飛行機を追い、はける。

翌日、朝の昇降口。加藤が勧誘活動をしている。

加藤 演劇部どうですかーあ、そこのあなた!演劇興味ないですか?・・ない、ごめんね急に。あ、そこのあなた!演劇部興味ないですか?今なら即、ジュリエットとして文化祭で出られますよ。……やりたくない、ごめんね、時間取らせて。やっぱりダメか…。よし、こうなったら、先生が言ってた方法でやるか。

            周りを見渡して。

加藤 俺の名前は、加藤あやと。この学校の演劇部部長だ。だが今、廃部の危機にひんしている。そして、今の所、勧誘は失敗続き。でも、そんなところで諦める俺じゃない!さあ、立ち上がれみんな!…あっ、部員俺一人だった。

           深いため息をつく。がっくり。そして叫ぶ。

加藤  なんでだー。
椎名 どうしたんだ加藤・・・・・・。
加藤 先生、なにやっても部員増える気がしません。何で入ってくれないんですか。
椎名 いや、まだ始めたばかりだろ? 諦めるのは早いって。
加藤 でも誰一人として興味を持ってくれないし、せっかくの作戦も、軽蔑された目で見られているような気がします。
椎名 あれはお前が悪いんじゃない、作戦を考えたやつが悪い。
加藤 考えたの椎名先生なんですけど。
椎名 ・・・とすると演技の問題かなぁ。
加藤 先生!。
椎名 まぁまぁ。うーんそうだなぁ。もっとこう、アピールをするというか…。あ、そうだ。例えばインパクトがあって、ドラマチックでなおかつ熱い展開とかあれば、誰の心でも動かせると思うけどな。ほら、映画なんかでもさ…。
加藤 アピール…インパクトがあってドラマチックでなおかつ熱い展開・・・まてよ…。
椎名 加藤?
加藤 先生!。俺とびっきりの作戦を思いついたのでこれから準備に取り掛かります! てなわけで、放課後の部活動はしばらく休んでいいですか?
椎名 えっ?ああ、別にいいけど。だけど、警察のご厄介になるようなことはするなよ。
加藤 何言ってるんですか。大丈夫ですって、まかせてください。

       加藤ははける。

椎名  大丈夫かな…。

後日、相談室。椎名が座っている。
相馬が相談室に入ってくる。

相馬  失礼します。
椎名 お、おはよう相馬。まぁ、すわってくれ。
相馬 もう夕方ですよ。こんにちは。
椎名 あーこれ癖なんだわ。昼でも夜でもおはようございますってな。
相馬 へぇ、そうなんですか。
椎名 文化部内の暗黙の了解なのかなぁ・・・。あ、いや俺、演劇部の顧問だから。
相馬 へぇ、そうなんですか。
椎名 (ボソっと)やっぱ興味ないか…。
相馬 …話しって何ですか。
椎名 あーそうだった。えっと、相馬。あんまり休み過ぎると卒業がヤバいって話、前にしたよな。
相馬 ・・・・・・僕は、卒業できないんですか?
椎名 いや、そこまで急にって訳でもないんだが。
相馬 ・・・もし、卒業できなかったらどうなるんですか。
椎名 もう一年、高校三年生をやり直すか、サポート校とか通信制の高校に行って高校の卒業資格をとるかだな。そういう話って、相馬もきいたことないか?。
相馬  いえ…。
椎名  そうか…。まぁ急には決められないだろうけど、状況次第では何か決断しないとな。
相馬 …ほかの学校とかって、何か面倒くさいな。
椎名  でも実際そういうヤツもいるし、それでちゃんと頑張っているヤツもいるしな。ま、でもせっかくウチの学校に入ったんだから、やっぱりみんなと一緒に卒業してほしいけどな。
相馬 ……僕、どうすればいいですか?
椎名  どうしたいんだ相馬は。
相馬  えっ。
椎名 結局は、相馬が選びたいものを選ぶべきだと思う。
相馬 ・・・・そう、ですよね・・・どうすればいいんだろう・・・。
椎名 すまんな。急には決められないだろうけど。でもな、最後に自分の人生を決めるのは自分自身なんだ。そうしないと、進んだ道に納得できないだろ?
相馬 ・・・。
椎名 うーん・・・やめやめ。シリアスなのは得意じゃねぇんだ。

        椎名先生はポケットから四つ折りにしたパンフレットを取り出す。

椎名 お前、これ出てみないか?
相馬 ・・・あ、これ。今度開かれる紙飛行機大会の・・・・・・。
椎名 そう、二週間後の土曜日、市民広場で開かれるんだ。
相馬 いや、無理です僕は。こういうのってなんか。
椎名  やっぱそうか。でもな相馬ぁ、もうエントリーしてしまったんだよなぁ。
相馬  えっ、何でそんな。勝手じゃないですか。
椎名  すまんすまん。でも、まだキャンセルできるから大丈夫。ま、いざとなりゃ俺が出るって手もある
しな。
相馬  そんな。何の練習もせずに出るなんてふざけてますよ。
椎名  相馬に教えてもらえば、少しは記録も出るかもしれないだろ。まして相馬が紙飛行機を作るのであればなおさら…。
相馬  それは反則なんじゃないですか。紙飛行機は自作でないとダメだと思うんですが。
椎名 そうなのか?。じゃあ今から紙飛行機作り教えてくれよ。
相馬 先生…本気なんですか。恥かくだけですよ。やめませんか。
椎名 でも意外に楽しそうだしさ、これ。紙飛行機かぁーしばらくやってないから、どういうのが飛ぶとかってもう忘れたな。
相馬 …。
椎名 紙飛行機飛ばすのって、楽しいんだろ。
相馬  …はい。
椎名  じゃあ、せっかくだからやってみないか?
相馬  でも大会なんて。
椎名  記録とかはどうだっていいだろ、初参加だし。やってみてダメだったら、また次頑張ればいい。本当に好きなら、だったら大丈夫だよ。
相馬 本当に好きなら・・・。
椎名 出たら絶対楽しいと思うぞ、俺は。
相馬 …そうかもしれません。
椎名 出るか?
相馬 …はい。
椎名 よし、よく言った。じゃあ、本選の前に予選があるらしいから。受付は朝九時半だな。
相馬 え、あ、はい。
椎名 じゃあ集合は……九時でいいか。九時に噴水の前のところで。遅れるなよ。
相馬 はい。…何か急だな…大丈夫かな。

         二人はける。
加藤は携帯電話で通話している。

加藤 ……そう、それでさ…どうだ? 協力してくれるか? ……よし、じゃあ……うん、そう、ビデオカメラ……悪い、助かる…ああ、要らなくなった映像はどう使っても構わん……じゃあな…。

加藤はまた別の人に電話をかける。

加藤 ……あ、須藤? ……えっと、ちょっとやってもらいたいことがあって……。

飛行機大会 

《これから本選に入ります。選手の皆さんは集まってください》

椎名  そろそろだな。
相馬  凄い人の数…なんかさっきよりお客さん増えてないですか…。
椎名  そう固くなるなよ。緊張したところで何も良いことないって。
相馬  いや、緊張するなって言われても…。
椎名  そんなこと言いつつ、予選は突破できたじゃないか。ここまで来たら、あとは気楽にいけって。
相馬  いや、だからこそなんですよ。僕みたいなのが予選突破して、残った人たちと戦うなんて考えられないですよ。そう思ったら…。
椎名  そんなこと言って、予選突破の時あんなに喜んだじゃないか。
相馬  いや、あの時はうれしかったです。まさかそんなことがあるなんて…て。でも、残ったメンバーってみんなこういう大会で上位の常連らしいんですよ。記録もみんなすごいし。そんな中でポッと出の僕なんか…。

《現在のトップは十番の田中洸哉選手、記録十八・四メートルです。》

相馬  あ、あそこにいる江藤って人なんて、四年連続県一位ですよ。そんな本気でやってる人の中に、趣味でやってただけの僕なんかがいていいんでしょうか……。
椎名  そんなこと言ったら、あいつらだって趣味なんだろ。紙飛行機では食っていけないからな。
相馬  でも…。
椎名  まぁ、精一杯やればそれでいいと思うぞ。一生懸命やってる人を誰も恥ずかしいとは思わないよ。

《次は十一番江藤真司選手です。では、江藤選手の第一投です》

相馬  あ、先生、あの人ですよ。
椎名  おっあれか。さてさて、トップクラスの腕前とはどんなもんかな。

《ただいまの記録、三十・一メートルです!続いて、第二投です。》

椎名  あー、すげぇなぁ。
相馬  三十メートル超え、ですね。
椎名  一気にトップだな。これが四年連続優勝の実力か。
相馬  僕、三十メートルなんて一度も飛んだことありませんよ……良くて半分行くか行かないか…。
椎名  記録なんて気にしないで楽しめって。
相馬  でも、全然飛ばなかったら……。
椎名  やってみなきゃわかんないだろ。あっ。

《ただいまの記録……十二・三メートルです。よって、一投目の三十・一メートルが江藤選手の記録となります。》

椎名  ほら見たか、あいつだって失敗するんだ。と、言うことは、逆に相馬でもあいつを超すくらい飛ばせる可能性があるかもな。
相馬  いや、さすがにそれはないです。
椎名  ほら、相馬の出番だぞ。行って来い。
相馬  あー、もうか。

《次は、十二番相馬永輝選手です。》

椎名  相馬、落ち着いて飛ばすんだ!

相馬、紙飛行機を飛ばす。

椎名  おーっ、あ、あぁ……。

《ただいまの記録……五・一メートルです。》

椎名  気にするな、あと一回残ってる。
相馬  十メートルいかないなんて、僕だけですよ、あぁ(しゃがみこむ)。
椎名  何言ってんだよ。結果はいい方が残るんだろ、だから思い切っていけよ。
相馬  思い切ってやったら、力入り過ぎてかえって飛ばないんですけどね。
椎名  どうやら頭は冷静なようだな。
相馬  そっか…(深呼吸して)。じゃあ、やってみます。

相馬、紙飛行機を飛ばす。その様子を椎名と眺め、無声で演技。

《……第十二回県紙飛行機大会は、江藤真司選手の大会五連覇となりました。皆さん、本当にお疲れ様でした!》

椎名  お疲れさん。でもよくやったよ、だって表彰台だぞ(肩をポンとたたく)。
相馬  でも一位とはずいぶん差がありますけどね。やっぱり県一番って凄いんですね。
椎名  ちゃっかり三位を取っておいてよく言えたもんだな。
相馬  偶然ですよ。やってみたら意外と……みたいな。
椎名  嬉しそうだな相馬。……大会参加して、良かったな。
相馬  はい。出てよかったです。さっき一位の江藤さんに声かけられたんです。「研究と練習を積めば、もっと飛ばせるようになるから、次の大会でも頑張ろう」って。
椎名  すごいなぁ、県一位の人と知り合いか。やったな。
相馬  それもありますけど……。
椎名  なんだ、他に良いことあったのか?
相馬  自己ベストを更新できたってことですね。なんか、自分の限界を超えられた!って気分です。
椎名  ちょっと大袈裟だな。
相馬  あと…クラスの人とちょっと話すことができました。
椎名  え、お前……誰と話したって?
相馬  えーと、康介くんって人です。弟さんが出るってことで来てたみたいです。
椎名  康介って、うちのクラスの西嶋康介だよな。ホントか?
相馬  はい。で、話してみたら…紙飛行機の話とかで意外と盛り上がりまして。
椎名  ……それで、どうなったんだ?
相馬  いや、ただそれだけです。……でもあんなに難しいことだと思ってたのに……。
椎名  ……?
相馬  あぁ、こっちの話です。……じゃあ、そろそろ僕は帰ります。
椎名  あ、あぁ。

相馬、ゆっくり歩き出す。そして振り返って(椎名の方を向いて)。

相馬  先生。今日はありがとうございました。
椎名  おう。

校長室。校長が高いところに座っている。

加藤  失礼します!
校長 誰かね君は。私に何か用でも?
加藤 あの……突然ですが今日は校長先生にお願いがあって来ました。
校長 お願いとはなんだね。
加藤 その前に一つ確認があります。演劇部を廃部にすると言ったのは校長先生ですか?
校長 なんだ、その話か。いかにも。演劇部を廃部にすると言ったのは私だ。
加藤 ……。
校長 ……そうか。君が演劇部の三年八組六番加藤あやと、か。(降りてきて)で、お願いとは?
加藤 演劇部を廃部にするのはやめてください。
校長 ……どうしてかね?
加藤 どうしてって、自分の所属している部活を守るのは当然でしょう⁉ そんなの当たり前ですよ!
校長 なるほどなぁ。なら、部員がたった一人しかいない部のせいで、先生の負担を増やすという、まったく割に合わないことをやめさせるのも当然かつ当たり前のことだろう?
加藤 それは…違いますっ……。だってそれは生徒の気持ちを考えてないじゃないですか!
校長 そういう君だって、自分のことしか考えていないのではないかね?教師の大変さが君にわかるのか?
加藤 それは……で、でも……先生は生徒の味方じゃないですか!
校長 ……確かに先生は生徒の味方であらねばならない。
加藤 なら……。
校長 だが、それはあくまでそれが正しい道だったらだ。
加藤 校長先生は演劇部を続けることが正しくないと思ってるんですか。
校長 いいかね、君。世の中の正しい正しくないというのは極めて客観的なものなのだよ。例えば今回、君一人のために先生に負担を増やして、もし先生が倒れたらどうなる? 困るのは誰だ? 授業を受ける生徒で、その親で、また他の先生だ。君一人のわがままで多くの人たちが困ることになるかもしれんのだぞ。
加藤 でも……。
校長 私は生徒を私の命よりも大事に思っている。だからこそ、求めるのは生徒が正しい道で幸せになることだ。君の行動は、他の生徒を困らせる可能性がある。正しくない道を選ぼうとしている生徒は、正しい道へと戻してやらないといけない。君、大局をみるって言葉を知っているか。まぁ、知らないかもしれんがな。私とて苦渋の選択なんだ、ここはわかってもらわんとな。
加藤 …………嫌です。
校長 君、私だって何も演劇部が嫌いで言ってるんじゃないんだ。私は学校全体のためを思って……。
加藤 だからその理論が気にくわねぇ!
校長 ……。
加藤 ふっざけんな! あんたの命よりも重いってんなら、たった一人助けを求めてる生徒をあんたが救ってみせろよ!
校長 君、言葉遣いがなっとらんね。目上の人と話すときは……。
加藤 あっ……失礼しました。……じゃあ校長先生、一つ賭けをしませんか?
校長 か、賭け事はいかんよ賭け事は!
加藤 別に金をかけようって言ってんじゃないんですよ。
校長 ではいったい何をかけるのかね?
加藤 俺がこの賭けに勝ったら演劇部の廃部を取り下げてください。
校長 私が勝ったら?
加藤 校長先生が勝ったら、演劇部の廃部を甘んじて受け入れます。
校長 そんなことを言っていいのかね。まぁ、何をする気か知らんが、君がそこまで言うなら、私としても生徒の思いを汲まないわけにはいくまい。で、いったい何を…。
加藤 ありがとうございます。では、少し準備がありますので。
校長  準備?。
       
加藤は一旦上手にはけ、三脚付きのビデオカメラを持って再び入ってくる。
       加藤はビデオカメラを下手袖に設置する。

校長 君、それはなんだね?
加藤 いえ、負けた後でしらを切られても面倒なんで。要は証拠ですよ、証拠。予め映画部の人と交渉して借りたんです。映画部は熱いドラマを撮りたいって言ってたんです。Win-winの関係ってやつですね。
校長 そうか。……ん? 君、予めと言ったか?
加藤 フッフッフッフッフッフ、やっと気付きましたか? ここまでぜーんぶ俺の予定通りです。そして、俺が用意してきたのはこれだけじゃありません。

          軽快な音楽が流れ出す。

校長 な、なんだね⁉
加藤 これも放送部に頼んでおいたんですよ。これからする勝負に必要だったので。もちろん、予め、ね。
校長 君、まさか全部仕組んでいたのかね⁉
加藤 もう遅いですよ、チェックです、校長先生。そして、これでチェックメイトだ。……演劇部部長、加藤あやとは、あなたに、ラップでの勝負、つまりMCバトルを挑みます。
校長 ラップ、バトルだと?
加藤 ルールは簡単。曲に合わせてラップを刻み、どちらか一方が答えられなくなったら負けです。覚悟はいいですか(と、言って校長にマイクを渡す)。
校長 ち、ちょっと君!
        
 音楽が変わる。

加藤 じゃあ、俺から行きますよ。
   俺が出す校長に挑戦状
ここが俺とお前の戦場
お前朝から入れ歯の洗浄
校長やってること本末転倒

校長   自分で「転倒」?っていうの受験生
ていうか勉強せい!顧問も異論ねぇ
私、君負け認めるまで帰せんぞ
まぁ私が勝つ100%

加藤 廃部にすんなよ演劇部
俺に負けそうなお前はどんな気分?
勝負事に100パーなんてねぇ
日毎に老いてくお前はんぱねぇ

校長  君は老いる前に置いていかれるおいしいとこ持ってかれる
時代は甘かねぇんだラップできる位で調子のんな
それもわかんない奴には容赦ない余裕無い
消去する無駄な部活君の願いはもう途絶える

加藤 やめろ廃部、俺の青春
えっとーあー俺のモットー
愛をもっとじゃなくてえー・・・・・・えーっと

校長  その程度か?もうやめだな
そうか、いいか、そうだ、あきらめが肝心だ
君が出した挑戦状
勝者はそう私、校長!

加藤  えーあー・・・・・・(インストだけ流れ何も言えない)
         加藤、崩れ落ちる。

加藤 ……。
校長 勝負ありのようだな。約束通り、演劇部は廃部にする。異論はないな?
加藤 ……どうして。
校長 これしきのことができないで、高校の校長は務まらんのだよ。
加藤 ……。
校長 ……用が済んだならもう出て行きたまえ。私も忙しいんでな。
        
校長はける。
加藤はその場でひざまずいている。
             相馬が出てくる。

声  相馬、おはよう。      
相馬 お、おはよう。
声  今日さ、前にやった日本史のプリント持ってきたよ。線引いてあるとこテストで出すって先生言ってたから。
相馬  あ、ありがとう。
声  おはよう、相馬! そうだ、今日、昼メシ一緒に食べないか?
相馬 う、うん。いいよ。
声   ところで体育大会のエントリーだけど、相馬は何がいい?
相馬  あ、いや…。何でもいいよ。
声   じゃあ、綱引きでもいいか、あそこ人手が足りないんだ。
相馬  あ、わかった。

声   あ、いかさま野郎の加藤だ。映画部のDVDみたぜ、無様だったなぁ。
加藤  うるせぇよ!お前ら何も知らないくせに!うぜぇんだよ!
声  でもさ、いきなり不意打ちみたいな真似して負けるとかダサいよね。アハハハハハハハハハ。
声  もっかい見ようぜ、加藤の負けラップ
声  負けラップじゃなくてダサラップだろギャハハハハ。
加藤  なんでお前ら動画持ってるんだよ! 消せよ!
声   ダサラッパーが何か言ってるぜ。よかったじゃん。人気者になって。
加藤  やめてくれよ・・・もうやめてくれよ!

声  相馬ってさ、紙飛行機の天才なんだって?今度作り方とか教えてくれよ。
声  てかさ、ホントマジで知らなかったよ。相馬がそんなすごいヤツだったなんて。。
相馬  でもそんなに大したことないって。好きでやってただけなんだ。この間の結果だってたまたまだよ。
声  いやぁ、でも大会で表彰台だろ。やっぱスゲェよ。
相馬  そ、そうかな。
声  今度また大会とかってあんの?もし出るんだったら頑張れよ。
相馬  うん。ありがとう。
声   めっちゃ自信満々に言ってたよな、ここまでぜぇ~んびゅ予定どおり~
声   何がしたかったのか全然わかんねぇわただウケるだけ。
加藤  俺は、俺は何で負けたんだ。
声   恥ずかしい。
声   負け犬だ。
声   残念演劇部。
声   いかさま野郎。
声   調子乗ってるよね。
加藤  もういやだ、もういやだ、もういやだもういやだ!
校長  どうしてかね?
声   ダサラッパーの加藤くーん。
声   そもそもなんでラップで勝負とかしようと思ったの?カッコイイとでも思ったの?
加藤  なんでそんなこと言うんだよ・・・ああもう無理だ。もう無理、もう無理、もう無理。
校長  先生は生徒の味方であらねばならない。
声   いかさま野郎。
声   勉強しろよ。
声   つまんない。
校長  それはあくまでそれが正しい道だったらだ。
加藤  あぁぁ(精神が崩れる)。
校長  君一人のわがままで。
声   あの負け犬の加藤?知ってる~
声   見てられないわ~。
声   痛い痛い。
校長  約束通り、演劇部は廃部。
加藤  あぁぁ・・・・・・
校長  ・・・・・・用がすんだなら出て行きたまえ。
加藤  もうなにもかも嫌だ。なにもかも!

(声は後半になるほど重なり合い加藤の混乱を表す。加藤と校長の声は独立して聞こえるがバックに声が入ってごちゃごちゃする感じ)

             相馬と加藤がそれぞれ照らし出される。

相馬 紙飛行機大会のおかげで、俺には友達ができた。
加藤 校長との勝負せいで、俺はみんなから軽蔑された。
相馬 みんなと話すことが、一番の楽しみになった。
加藤 みんなと話すことが、一番の苦痛になった。
相馬 みんながいるから、また学校に通おうと思えた。
加藤 みんながいるから、学校には行きたくなくなった。
相馬  誰でも取り柄の一つくらいは持っている。
加藤  しかし、それを武器に変えられるかは自分次第。
相馬・加藤 それで、やっと気づいた。
相馬 自分の世界は
加藤 いとも簡単に
相馬・加藤 色を変える!

相馬と加藤はける。椎名先生が入ってきて、加藤に電話をする。

椎名 おはよう、加藤。

椎名 調子はどうだ?夜とかちゃんと眠れているか?

椎名 でさ、授業日数の件なんだけどな。

椎名 あぁそうか。でも、大切なことだからな。

椎名 卒業を目指すとなると…。親は何て言ってるんだ、加藤。

照明溶暗

椎名  加藤……。

            照明溶明
相馬が戻ってくる

相馬  先生、まだ掃除終わってないん……って何してるんですか。
椎名  えっ、あ、あぁ。

         椎名、持っていたDVDを机に置く

相馬  あぁ……じゃないですよ。掃除終わったんなら運ぶの手伝ってください。これ運ぶのすごく大変でしたよ。これをあと何回もやるのかって考えたら、あの窓から雑誌を落としたらどんなに楽かって思いますよ。
椎名  いやぁ相馬。実は……、まだやってないんだ、掃除。
相馬  (ガックリ溜息)頼みますよ先生。もう、指に紐が食い込んでめちゃくちゃ痛いのをこらえてやっと運んできたっていうのに、その間先生はいったい何してたんですか。まさか!また何か見つけてしまったんじゃないですか。そういうことですよね。もう勘弁してください先生。
椎名  別にそういうんじゃないって。さて、掃除掃除っと。
相馬  じゃあ僕も手伝いますよ。先生だけにするとサボるかもしれないですからね。
椎名  俺はサボってたわけじゃ……。
相馬  いいですよ。とにかく早く掃除を済ませて、二人で、雑誌を運びましょう。
         
二人、掃除をする

相馬  先生……、僕、卒業なんですよね……。やっぱこれって先生のおかげなのかもしれませんね。
椎名  なのかもってなぁ。
相馬  冗談ですよ。先生には感謝してます、一応。
椎名  ったく素直じゃないな……。でもさ、実際は紙飛行機のおかげかもな。
相馬  はい。紙飛行機が好きでホント良かったです。でも、まさかコレきっかけで航空工学勉強したいって思うようになるなんて、想像もしなかったですよ。
椎名  好きこそものの上手なれ、って言うだろ。どんなに辛くても、好きなことならばきっと乗り越えられる。だから頑張れよ、浪人生活も。
相馬  はぁ……浪人なんですよね……。
椎名  あれだけ学校休んでたんだから、仕方ないだろう。
相馬  でも、一年間受験勉強やり続けるって、どういう感じなんですかね。正直不安です。
椎名  いいじゃないか。浪人も進路も自分で決めたことなんだし。航空工学、絶対相馬に合ってるって。
相馬  まぁ、頑張ります。
椎名  さ、掃除終了。いよいよ雑誌運びの旅に出るか。
相馬  その旅はホントに辛いですよ。あー、やっぱこの雑誌、全部窓から落としませんか。そして、下で拾ってゴミ捨て場まで運ぶ方が絶対楽ですって。とにかくもう指がちぎれるってくらい痛いんですよ。
椎名  下に誰かいたらどうするんだ。冗談じゃ済まされんぞ。航空工学を学びたいヤツにあるまじき発言だな。
相馬  じゃあ……紙飛行機ならいいですよね。
椎名  紙飛行機?どういうことだ。

相馬、捨てようとしていたハガキを一枚取る。

相馬  この紙で紙飛行機作って飛ばします、あの窓から。
椎名  なんだよ突然。いくら紙飛行機好きだからって……。
相馬  これが僕の高校生活のラストフライトです。いろいろあった高校生活を卒業してどれだけ遠くまで旅立てるか、ちょっとやってみたくなりました。

相馬、紙飛行機を作りだす

椎名  お前なぁ……、こんな紙じゃ遠くまで飛ばすのは無理なんじゃないか。それに万が一下に誰かいて当たったらどうするんだ。たとえ紙だとは言っても急に当たったら状況次第では……。
相馬  雑誌みたいに急には落ちないから大丈夫ですよ。それに、いざという時は『逃げろー』って大声出せばいいし。
椎名  はぁ……。本気かよ。
相馬  もちろん。さぁ、完成しました。どうです、意外にいい感じですよね。じゃ、いきますよ。
椎名  …よし、こうなったら思いっきり飛ばしてみろ。そして新たなる世界への旅立ちだ。
相馬  (ボソッと)思いっきりやるとかえって飛ばないんだけどな。
椎名  つべこべ言わず、さぁ!

 相馬、窓から紙飛行機を飛ばす 思ったより飛んでいく
             二人、飛んでいく様子を見つめる

椎名  おおっ、結構飛ぶな……。
相馬  もっと飛べ!もっと遠くまで行け!
椎名  相馬?
相馬  加藤君の分も、ずっと飛び続けろ!
椎名  加藤って、相馬お前……。

         沈黙 紙飛行機着陸

相馬  先生、さっき加藤君のこと言ってましたよね……。
椎名  …聞いてたのか。
相馬  聞いてたっていうより聞こえたって言った方が正しいです。……加藤君、卒業無理なんですか。卒業できないんですか?
椎名  どうかな。結局はアイツ次第だから。
相馬  明日学校来たら、卒業式には出れるんですか。
椎名  いや、そういう訳じゃ……。
相馬  そうですか……。でも僕、加藤君は大丈夫な気がするんです。だって僕だって卒業できるんだから。
椎名  そうだな……。そうだといいな。

         二人それぞれ両手に雑誌の束を持って移動しようとする

椎名  なんだ、大して重くないじゃないか。大げさなんだよ。指がちぎれるとかって。
相馬  運んでみればわかりますよ先生、あの地獄の苦しみが。
椎名  苦しみを乗り越えたら、自分をほめればいいんだって。
相馬  はいはい。

         二人雑誌を運んでいく
         机にはDVDが置かれたまま
                                    =幕=
引用…新装世界の文学セレクション36/02シェイクスピアⅡ 
訳者 福田恆存  発行者 嶋中行雄  発行所 中央公論社
※劇中のラップ使用については、CD発売元(戦極MC)より許可を得ています。
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