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Posted by jun-kan on 13.10.31 17:30
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上演校名:宮城県石巻北高等学校(2012年)
作   :準
人数  :男子2名女子7名
上演時間:約56分

キャスト
 ・咲樹…高校2年生の女子
 ・少女…「かくれんぼ」をしている女の子
 ・モフモフさん…羊?

 ・仮面1 あるときは「ブッダ」
 ・仮面2 あるときは「狐面」、あるときは「従者」
 ・仮面3 あるときは「麗実(咲樹のクラスメイト)」
 ・仮面4 あるときは「お蝶」、あるときは「園長先生」
 ・仮面5 あるときは「加菜(咲樹のクラスメイト)」
 ・仮面6 あるときは「王子」

―――――


少 女:もう、いいかいー?

    緞帳が上がる。中割幕がひいてある。
ME:
舞台上には4本の柱。舞台中央にベンチ。ベンチに座って寝ている咲樹。

モ フ:まーだ、だよ。

舞台下手から少女が出て、ヌキに入る。咲樹を覗き込む形でスーツを着た羊、「モフモフさん」上手から出てくる。

少 女:もう、いいかいー?
モ フ:まーだ、だよ。

    少女とモフモフさんはかくれんぼをしている様子。しかし、モフモフさんは隠れる様子はない。

少 女:もう、いいかいー?
モ フ:まーだ、だよ。

    ME。モフモフさん、少女を促し、去る。去り際、咲樹を一瞥する。
    照明、変化。咲樹に光。
    
咲 樹:最近、おかしな夢をよく見ます。それに気がつくと眠っていることが多くて…。大体は目が覚めるとその夢の内容を忘れてしまうのですが、何だかその夢にはいつも、羊が出てくる気がするんです。

    舞台上、照明、明るくなる。そこには少しあきれた風の麗実と加菜がいる。

麗 実:それで?
加 菜:それが私たちの約束の時間に遅れた理由?
咲 樹:うん、なんだか追っかけ回される夢見てた。
加 菜:追っかけ回されるって?
麗 実:怖い夢、見たんだ。(加菜に目配せ)
咲 樹:うん…。なんかね、羊が、私の周りにたくさんいてね。黒い羊なんだけど。ゴォーとか言って、後ろから追っかけて来たんだよね。
麗 実:羊?
咲 樹:そう。あの「メェ」ってやつ。最初はかわいくて、羊と遊んでるの。気がつくといつの間にか私の手にシュークリームがあって、それを食べようとしたら急に羊が目の色を変えて私に迫ってくるの。
加 菜:シュークリーム?
咲 樹:そうそう。んでやばいと思ってシュークリームを急いで食べたら、羊たちがいつのまにかシュークリームみたいになってて、私の口の中にどんどん入ってくるんだよね。しかも、シュークリーム食べると、その中に羊の毛とかあって。あーびっくりした。(最後は少し笑いながら)
麗 実:……。
加 菜:……。
麗 実:(ため息)そんなことでごまかされると?
咲 樹:(吹き出しながら)やっぱり、無理?
加 菜:無理でしょ。だって、今思いついたでしょ?
咲 樹:いや〜、最近ずっと変な夢見てて、熟睡してないからさ、少しでも寝溜めしとかないと。
加 菜:寝溜めと食いだめって出来ないらいしよ。
麗 実:でも、熊は冬眠するときに食いだめするんじゃないの?
加 菜:え?違うんじゃない?なんか手にいろんなものを塗って、目が覚めたときに手をなめるんじゃなかった?
麗 実:何を塗るの?
加 菜:木の実すりつぶしたのとか、虫をつぶしたやつじゃなかったっけ?
麗 実:うえ、寝ぼけてそんなので目とかこすったらショックだね。
加 菜:でも、変な夢っていっぱいあるよね。
麗 実:そうそう。私もよく変な夢見るよ。
咲 樹:たとえば?

    場の空気が変わり、ブッダ(仮面1)やお蝶(仮面4)が出てくる。登校風景。

麗 実:私は学校に向かってる最中なんだよね。しかも、遅刻すれすれ。まずいまずいと思って、慌てて教室に入ろうと扉をあけると……

    SE:チャイムの音。

麗 実:やったー、ぎりぎりセーフ。

    狐面(仮面2)が現れる

狐 面:いや、アウト。アウト〜。
麗 実:うわ〜、アウトか…。(驚いて)って、誰?
狐 面:誰って、先生に向かってお前失礼だろう!
麗 実:え?先生?だって先生なら何で狐のお面を?
周 囲:(信じられない様子で)え!
麗 実:え?何?だから、狐の面…
周 囲:(信じられない様子で)え!
狐 面:先生なんか変か?

    周囲、否定し、麗実を見つめる。

麗 実:(何となく空気を読み)いや、何でもないです。(座る)
狐 面:じゃあ授業を始めるぞ。みんな、教科書を開いて。
周 囲:はい。

    周囲、油揚げを取り出す。お客さんに「油揚げ」の字が見えるように。

麗 実:は?
狐 面:じゃあ、今日は六十七ページから。麗実、読んで。
麗 実:何を?
狐 面:何をって、教科書だよ。
麗 実:教科書?

    お蝶、油揚げを麗実に渡す。

麗 実:これ?これを読むの?
お 蝶:そうよ、早くお読みなさい。
麗 実:「油揚げ」この油揚げは国産の大豆を使ったおいしい油揚げで、お稲荷さんにも適して…。
狐 面:は?何を言ってるんだお前は?
麗 実:いや、だってそう書いてるし…。
狐 面:もういい。お蝶、読め。
お 蝶:はい。(優雅に)「コンコン、コンコココン、コン←」

    周囲、感嘆の声。「どう?」みたいな顔をするお蝶。

狐 面:エクセレント!エブリワン、スタン、ダップ。リピート、アフター、ミー。「コンコン、コンコココン、コン←」(楽しそうに)
周 囲:「コンコン、コンコココン、コン←」(楽しそうに)
狐 面:「コココン、コンコンコン→」(寂しそうに)
周 囲:「コココン、コンコンコン→」(寂しそうに)

    一体感のある一同。一人呆然とする麗実。

狐 面:じゃあ、麗実、次を読め。
麗 実:は、はあ。

    適当な感じで声を上げる麗実。

麗 実:「コンコンコン、コココココココン↑」
    周囲、ザワッとする。

麗 実:え?何?
狐 面:麗実、俺には妻も愛人もいるから、お前の気持ちには…。
麗 実:はい……って、ぶえぇー。愛人?
狐 面:あ、いや、愛する生徒をだな、そんなことより真面目に読まんか!
ブッダ:先生、待ってください。

    ブッダ、手を挙げてその場に立つ。

狐 面:どうした、ブッダ。
ブッダ:先生、麗実さんがこんなふうにおかしくなったのは、学級委員の僕の責任です。
咲 樹:そんなことないよ。ブッダ君。
加 菜:そうよそうよ。麗実がだらしないのは昔からだし。ブッダ君のせいじゃないわ。
咲 樹:そうそう、いつもアホ面だし。
加 菜:この前、鼻とかほじってたし。
麗 実:いや、さすがに人前でそれはしてないよ。
ブッダ:いいんだ、みんな。僕が、僕が悪いんです。先生、僕の頬をぶってください。
咲 樹:そこまでしなくても!
加 菜:そうよそうよ。そんなのおかしいわ。ぶつなら咲樹を。
咲 樹:そうよ、そうよ。って、ええ、なんで?
ブッダ:いいんです。先生。

    狐面、フルスイングでブッダをぶつ。大げさにぶっ飛ぶブッダ。

麗 実:おお、容赦ねえな。
狐 面:右殴られたら、何だ?
周 り:左!左!
ブッダ:いや、待って…それは僕じゃなくて…

    狐面、フルスイングでブッダの左頬をぶつ。

狐 面:「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出す」。これ常識。
ブッダ:うう…
麗 実:常識なのかな?

    場の空気が変わる。

麗 実:ね、変な夢でしょ?

    仮面たち(1・2・4)、何事も無かったようにコロスとして去る。

咲 樹:そう、ね。
加 菜:夢は願望の裏返しとか言うからね、麗実の「暴力性」の現れかもよ。
麗 実:どういう意味かしら?
加 菜:そのままの意味だけど。

    麗実、加菜の首を絞める。

加 菜:ほらほら、それが暴力的だって言うのよ。熊じゃないんだから話合いで解決しなさいよ。
麗 実:なんだと?
咲 樹:まあまあ。
麗 実:ふん。じゃあ、あんたはどういう夢を見るっていうのよ?
加 菜:私?私のはロマンチックよ。

    麗実、加菜から手を放す。
鐘の音が鳴り、場の空気が変わる。
    下手から魔法使い(仮面4)が出てくる。

加 菜:私の目の前には魔法使いのおばあさんがいて、お姫様のようなひらひらのドレスをくれるの。

    魔法使い、加菜にドレスを渡す。

加 菜:(受け取る)そうして、王子様が来るの。

    王子(仮面6)が出てくる。加菜を見つけると指をパチンと鳴らす。すると宮廷音楽が流れる。

王 子:美しい人、私と踊ってくれますか。
加 菜:ええ、もちろん。
   
    王子、加菜に向かって手を差し伸べる。

加 菜:でも、その時思い出すの、「そういや、私踊ったことないぞ。」と。

    王子、フリーズ。

加 菜:私が踊れるダンスと言えば、オクラホマミキサーとかソーラン節なんだよね。まさか、王子様と一緒にソーラン節を踊るわけにもいかないし、このピンチをどう切り抜ければいいの。
    
台詞の途中から低く、ソーラン節の曲が流れてくる。

加 菜:(ソーラン節を踊りながら)頭の中がソーラン節の音楽でいっぱいになったとき、私は童話「シンデレラ」を思い出すの。
王 子:どうしました。美しい人。
加 菜:いえ、王子様。実はボロが出るんです。
王 子:ボロ?
加 菜:あ、いえ。言い間違いました。魔法が解けちゃうので、帰らなくてはいけないんです。
王 子:え、どういうこと?
加 菜:さようなら。
王 子:あ、待って。

    と言って、加菜、その場を離れる。王子、加菜を追いながらそのまま、ハケる。

加 菜:それで、一生懸命踊りの練習をするわけ。夢の中だし、自分の都合のいいように話が進むの分かっているしね。だから次のシーンはもう一度舞踏会になるはずだってわかるの。

    なんとなくガヤガヤしている雰囲気。
ファンファーレの音。ラッパを吹きながら従者(仮面2)、ブッタ、現れる。

従 者:それではただいまより、武闘会を開会する。

    観客のどよめき

加 菜:いよいよだわ、王子様とチークダンス。
従 者:それでは一回戦。
加 菜:一回戦?王子様と踊るのにも予選があるのかしら。
従 者:加菜、前に。
加 菜:は、はい(一歩前に出る)
従 者:対戦相手は……、麗実。

    麗実、出てくる、戦闘モード。敵との遭遇音。

加 菜:え?
麗 実:おや?そんなひらひらした格好で、私と渡り合えるとでも?
加 菜:なんで〜?
従 者:いまから二人で格闘し、勝ち残った者が、晴れて王子と結婚できるものとする。
加 菜:戦うの?踊るんでしょ?舞踏会なんだから。
従 者:そう、武闘会だから戦うんだ。
加 菜:え?どういうこと?
    ブッタ、漢字の訂正が書いてあるボードを高らかに掲げる。

加 菜:何それ?
麗 実:王子様と結婚するのは私さ。
加 菜:っていうか、王子様も強い女と結婚したいわけ?
従 者:王子様は病弱であられるからな、少しでも強い女性と結婚したいらしいのだ。

    王子、ふらつきながら、咲樹と登場する。

加 菜:いや、男なんだから、むしろ守ってくれよ。
従 者:しかも、この一回戦が事実上の決勝戦だ。
加 菜:どうして?
従 者:他に参加者がいないからだ。
加 菜:当たり前だ!
麗 実:四の五の言ってないで始めるよ。
加 菜:ちょっ、ちょっと待ってよ。

    と、加菜が言っている間に試合開始のゴングが鳴る。

加 菜:何で、夢の中でまで〜。
麗 実:覚悟(と言いつつ、首に手を回す)

    周りの雰囲気が変わる。従者はカウントを取り、去る。

加 菜:という夢なんだけどさ〜。っていつまで首、締めてんのよ。
麗 実:あまりのアホさ加減にびっくりだね。
加 菜:(ため息)そうなのよね。夢なんだからもう少し自分に都合が良くてもいいと思うんだけどね。
麗 実:でも、王子様の夢を見るなんて誰か好きな人でも出来たんじゃない?
加 菜:馬鹿ね、そんなのができたら、最初からその人の夢を見るわ。きっと。
麗 実:でもさ、花の女子高生なんだから好きな男の一人や二人。
加 菜:虚弱体質の王子様はいやだな〜。(ため息)。
麗 実:(気持ちを切り替えて)ね?変な夢ってあるじゃない?
加 菜:そうよね。だから気にすることないって、咲樹。

    咲樹、気がつくとベンチで寝てる。

麗 実:普通、ある?
加 菜:ないよね。人が話しているときに寝るとかって。
麗 実:それもそうだけど、こんな公園の真ん中で、女子高生が口あけて寝るかね?
加 菜:うん…、女捨ててるよね。

    咲樹を中心にして大きくため息。

加 菜:まだ、こんな時間だし、放っておいていいよね。
麗 実:うん、買い物済ませちゃうか。

    と言って、二人その場から去る。
    ME:
    モフモフさん、隠れながら現れる。途中で咲樹を見つけ、まずいまずいと思いながら、咲樹を隠そうとする。

モ フ:……。
少 女:(出てきて)モフモフさん見ーっけ。
モ フ:うわ、見つかっちゃった。
少 女:もう、モフモフさん、ちゃんと隠れてる?いつもすぐに見つかっちゃって、面白くないよ。
モ フ:うーん。私としては上手に隠れてるつもりなんですがね。
少 女:じゃあ、もう一回する?
モ フ:え?もうやめませんか。
少 女:ええー、どうして?
モ フ:だってね。
少 女:あれ?こんなところに?
モ フ:んー、寝てるね。

    と言って、二人、咲樹をのぞき込む。
    その瞬間、目を覚ます咲樹。

咲 樹:(寝ぼけ眼で)おーはー。
モ フ:おお、びっくりした。
少 女:びっくりしたね。
咲 樹:あれ?麗実と加菜は?

    と言ったところでモフモフさんと目があう。

モ フ:やは。
咲 樹:うわー(慌てる)。
モ フ:うわー(驚く)。

    咲樹とモフモフさん両側に逃げる。

咲 樹:何?ひ、羊?
モ フ:人の顔を見て、大声あげるなんて、何て失礼な人だ。
咲 樹:目、覚まして目の前に毛むくじゃらな顔があったら、誰だって悲鳴をあげるよ。
少 女:私は悲鳴あげないよ。モフモフさんのこと好きだもん。
咲 樹:モフモフさん?
モ フ:そう。

    と言ってモフモフさんは居住まいを正して立ち上がる。

モ フ:M・O・F・M・O・F。「マイ ネーム イズ モフモフ」
少 女:モフモフさん。
モ フ:ヤアヤア(と言いつつ少女と握手)。
咲 樹:あなたは何なの?
モ フ:私?M・O・F。「マイ ネーム イズ モフモフ」
少 女:モフモフさん。
モ フ:ヤアヤア(と言いつつまた少女と握手)。

    同じことが繰り返されてる状況に唖然とする咲樹。

咲 樹:名前はもうわかりました。あなたはモフモフさんなのね。
モ フ:そう、「モフ」って読んでもいいよ。
少 女:ヘイ、モフ。
モ フ:なんだい、ガール。
少 女:ヤアヤア(モフモフさんと握手)。
咲 樹:そうじゃなくて、あなたは何なの「羊?」に見えるけど。
モ フ:(厳かな感じで)私が何なのか?その問いに答えるのは難しい。じゃあ、君は何者なのか?
咲 樹:え?私が何者なのか?
モ フ:そう。答えられる?
咲 樹:…私は、高校二年生で、咲樹という名前で…。
モ フ:ふーん、君はそんな言葉で自分が何なのかを説明しようとするんだ。
咲 樹:うーん。夢の中なのになんだか小難しい。
モ フ:そう。自分が何者なのかを説明することは簡単ではないんだ。
咲 樹:ううう。
モ フ:僕はモフモフ。羊だ。
咲 樹:おい。
モ フ:(やる気なく)メエ、メエ。
咲 樹:なんで、そんなに投げやりなんだ。
少 女:ねえ、そんなことより、「かくれんぼ」しようよ。
咲 樹:かくれんぼ?
少 女:そう、かくれんぼしよう。モフモフさんといつもしてるんだけど、、モフモフさんだといつもすぐ見つけちゃうから。
モ フ:本気を出せば、そう簡単には見つからないんだけどね。
咲 樹:かくれんぼか…。しばらくやってないな。
少 女:ねえ、やろうよ。
モ フ:駄目だよ。お姉ちゃんはとてもやりたくなさそうな顔で、嫌だなっていう雰囲気を全面に押し出し、目と口をむき出しにしてるじゃない。
咲 樹:いや、私、目をむいたりとかしてないよ。動物じゃないんだから…。
モ フ:それにそろそろ時間だよ(と時計を見せる)。
少 女:えー、でもやりたいし。
咲 樹:いいよ。ちょっとなら。
少 女:本当?やったー。
モ フ:いや、時間もないって言ってるじゃない。
咲 樹:ちょっとだけならいいでしょ?
少 女:そうだよ。ちょっとだけならいいでしょ?
モ フ:また、すぐそうやって真似をして…。じゃあ、ちょっとだけ。私が終わりと言ったら終わりだよ。
少 女:うん。
咲 樹:じゃあ、誰がオニをする?
少 女:オニは私って決まってるんだ。(モフモフさんに)ね?
モ フ:…そうだね。
咲 樹:そっか、わかった。じゃあ、お姉ちゃんは隠れるよ。
少 女:うん。一、二、三…

    慌てて隠れようとする咲樹。その場に立っているモフモフさん。

少 女:九、十、十一…。
咲 樹:ちょっと、あなたは隠れないの?
モ フ:うん。
少 女:もう、いいかーい?
咲 樹:まーだだよ。

    咲樹、隠れるところをぐるりと見回し、柱の裏にする。それを横目で見ているモフモフさん。

少 女:もう、いいかーい?
咲 樹:もう、い…
モ フ:さて、時間だ。
咲 樹:え?
モ フ:帰らなければならない時間だ。
少 女:そっか。
咲 樹:ようやく、隠れるところ見つけたのに…。
モ フ:我々にも都合があるからね。
少 女:今日はありがとう。また、遊んでね。
咲 樹:う、うん。
モ フ:(少女に)さて、行こうか。今日は会えて良かったよ。
咲 樹:あ、はい。
少 女:じゃあね。

    モフモフさんと少女、去る

咲 樹:今日もまた、変な夢だったな〜。羊がしゃべったり、女の子とかくれんぼしたり。
    咲樹、あくびを一つ。

咲 樹:なんだか夢の中のはずなのに眠くなってきたような気がする…。

    ME:
    咲樹、またベンチに寝そべる。
    少女とモフモフまた出てくる。

少 女:もう、いいかいー?
モ フ:まーだ、だよ。

    暗転。
    明かりが点くとそこには麗実と加菜がいる。

麗 実:それにしても信じられないよね。あの後、ずっとベンチで寝てたなんて。
加 菜:普通じゃないよね。
麗 実:また変な夢見た〜とか言ってたけどさ。
加 菜:なんだっけ?羊の話?
麗 実:そんなこと言ってたね。
加 菜:大丈夫かね?
麗 実:それで、咲樹は?
加 菜:なんかね〜、補習だって。
麗 実:補習?
加 菜:授業中にがっつり寝てたらしいよ。
麗 実:それだけで補習になる?
加 菜:なんか授業中にいきなり大声で「もふもふ〜もふもふ〜」って言ってたらしいよ。
麗 実:うわ〜。恥ずかしい。
加 菜:しかも、古典の授業だったみたいで。
麗 実:え〜、生徒指導のゴリ夫でしょ?あのおっかない顔をした。
加 菜:そうそう。それで咲樹、目を覚ましたら「あれ?羊じゃなくてゴリラになってる?」って。
麗 実:ひえ〜。そりゃ、ゴリラ顔だけどさ、それ本人に言っちゃう?
加 菜:周りは笑いこらえるのに必死だったけど、言われた先生は顔真っ赤にしてて。
麗 実:ご愁傷さま。

    咲樹、そこへ戻ってくる。

咲 樹:いや〜ひどい目にあった…。
麗 実:(笑いながら)聞いたよ。
咲 樹:目覚まして、ゴリ夫の顔があるんだもん。
麗 実:早く人間に進化しろよな。
咲 樹:(笑いながら)それ、ひどくない?
加 菜:まあ、あの顔が目の前にあれば衝撃だよね。悲鳴上げなかっただけでも上出来かも。
麗 実:たしかにね。もし夜中にゴリ夫が急に現れたら、私だったら卒倒するかも。
咲 樹:その時の私の驚きと言ったら…。

    柱の裏からモフモフさん顔を出している。

咲 樹:モフモフさん?
麗 実:は?

    麗実、後ろを見るが、誰もいない。

咲 樹:今、モフモフさんがいた。
加 菜:何?
咲 樹:いや、今そこにモフモフさんがいたの。
麗 実:モフモフさん?
咲 樹:そう、羊のモフモフさん。
加 菜:大丈夫?授業中も、「もふもふ」とか言ってたらしいけど…。
麗 実:ああ、「もふもふもふ」って言って、「ゴリラ」だっけ。
咲 樹:今、いたよねモフモフさん?

    咲樹、モフモフさんを探し始める。

加 菜:夢の中で見た話でしょ。それって?
麗 実:羊はこんな町中にいないでしょ。
咲 樹:いや、モフモフさんは羊であって、羊じゃないの。
麗 実:は?いや、意味がわかんないよ。
咲 樹:羊が二足歩行してるの。
加 菜:咲樹、疲れてるんだね。大丈夫、羊は二足歩行なんてしないから。
咲 樹:いや、スーツも着てたし。
麗 実:スーツを着て、古典を教えてる二足歩行のゴリ夫はいるけどね。
    麗実と加菜、顔を見合わせる。ちょっと咲樹から距離を置いて。

麗 実:どう思う?
加 菜:かなり、キてるね。
麗 実:あんたもそう思う?
加 菜:うん。言ってることさっぱり分からないし。

    二人、顔を見合わせ、頷く。

麗 実:(妙に優しく)は〜い、咲樹ちゃん。大丈夫だからね。
咲 樹:な、何?
加 菜:そうそう、大丈夫だよ。怖いことなんて何にもないよ。
咲 樹:いや、今、目の前の二人が怖い。
麗 実:何だと、コラ。
加 菜:まあまあ。咲樹さ、作文とかゴリ夫に書かされて疲れてるんだよね。今、冷たいもの買ってきてあげるからさ。ちょっと休んでなよ。
麗 実:うんうん。なんか食べるものも買ってきてあげるから。
咲 樹:どうしたの?急に。
麗 実:いや、疲れて、夢と現実がごっちゃになってるだけだよね?
咲 樹:え?いや、そうじゃなくて、今そこにモフモフさんが…。
加 菜:うんうん。わかったわかった。そうだよね。ちょっとここで待っててね。
麗 実:わかった?絶対ここから動いちゃだめだかんね。
咲 樹:う、うん。

    麗実と加菜、二人で目を見交わし、ダッシュで去る。

咲 樹:なんか二人、大丈夫かな?

    少女、舞台上に入ってくる。

少 女:モフモフさん、どこ〜?
咲 樹:あ。

    少女、嬉しそうに咲樹に近寄る。

咲 樹:モフモフさんとまたかくれんぼしてたの?
少 女:うん。モフモフさん、すぐに見つかるからつまんないって言ったら、今日は見つからないように隠れるぞって。
咲 樹:それで、なかなか見つかられないの?
少 女:そうなんだ。ずーっと探してるんだけどね。
咲 樹:何て、大人げない羊だ。
少 女:どこかな?
咲 樹:見つけられないなら、お姉ちゃんとかくれんぼしちゃう?その内、モフモフさんも疲れて出てくるだろうし。
少 女:ううん。ちゃんと見つけないといけないんだ。
咲 樹:モフモフさん、羊だから少しくらい、放っておいてもいいんじゃない?お腹がすいたら、帰ってくるよ、きっと。
モ フ:君は人をなんだと思っているんだ。

    モフモフさん、柱の影から出てくる。

モ フ:さっきから黙って話を聞いていれば、「お腹がすいたら戻ってくるんじゃない?」とか、「モフモフさんのこと、放っておいたら」とか、「モフモフさんの毛ってどうなっているの?」とか。
咲 樹:(笑いながら)ごめんごめん。
モ フ:ちなみにウール100%だ。
咲 樹:いや、そりゃそうでしょ。羊なんだから、ナイロンだったらおかしいでしょ。
モ フ:そうだね、蒸れちゃうね。
少 女:モフモフさん、見ーっつけ。
モ フ:うわ、しまった、見つかっちゃった。
少 女:良かった。見つかって。
咲 樹:さっきからそこにいたよね?おかげで、友だち二人に変な目で見られたよ。
    
と言ったところで、咲樹、おかしいことに気づく。

咲 樹:あれ?さっきまで二人と話していたのに、何で夢の人達が出てくるんだ?
少 女:ねえねえ。モフモフさん今度は三人でかくれんぼしようよ。
モ フ:だめだめ。もうおしまいだよ。
咲 樹:いいじゃない。少しくらい。
モ フ:ダメなものはダメ。
少 女:え〜。三人でしたいのに。
咲 樹:いいじゃない、モフモフさん。しましょうよ。
モ フ:ダメだよ。
咲 樹:ケチね。少しくくらいいいじゃん。ケチ羊。
モ フ:(ムキになって)ダメダメ。絶対ダメ。
少 女:ねえ、モフモフさんお願い。少しだけでいいから。
モ フ:(アッサリと)しょうがないな。じゃあ、ちょっとだけだよ。
咲 樹:なんだよ。それ?
少 女:じゃあ、三人でやろう。
咲 樹:ま、いいか。じゃあ、オニは……、
少 女:私って決まってるんだよ。
咲 樹:そっか、そうだよね。じゃあ、始めようか。

    少女、後ろを振り向き、数え始める。

少 女:一、二、三、四…
咲 樹:さて、どこに隠れようかな?

    モフモフさんは隠れようともしていない。

咲 樹:あれ?モフモフさんは隠れないの?絶対に見つからないところに隠れるって大人げないこといってたんでしょ。
モ フ:気にしないで、結構。
咲 樹:変なの?
少 女:九、十。もう、いーかい?
咲 樹:おっと、隠れないと。まーだ、だよ。

    咲樹、あちこち見回す。
    
少 女:もう、いーかい?
咲 樹:まーだ、だよ。

    咲樹、隠れる場所を決める。

咲 樹:ここにしよう。
少 女:もう、いーかい。
咲 樹:もう、いー…。
モ フ:さて、時間切れだね。
咲 樹:え?
モ フ:さあ、そろそろ帰ろう。
少 女:…はーい。
咲 樹:この前も、これから始まるってところで、帰るってなったんだから。もう少しいいでしょ?
モ フ:ダメだよ。今日はここでおしまい。
咲 樹:だって、この前も今日もこれじゃ、この子だってかわいそうだし。
モ フ:(優しく)君のためだよ。
咲 樹:え?
モ フ:さて、帰ろうか。
少 女:…うん。
咲 樹:…しょうがないな。今度こそ続きをしようね。
少 女:ばいばい。

    少女、寂しそうな顔で去る。

モ フ:もう、会うこともないかもね。
咲 樹:どういうこと。また、夢をみればいつでも会えるよね?
モ フ:夢?夢だと思ってたのか。それでもいいだろう。それじゃ、さよならだ。

    モフモフさん、去る。

咲 樹:さよならって、どういうこと?

    麗実・加菜、ジュースを片手に戻ってくる。

麗 実:お待たせ〜。
加 菜:冷たいジュース買ってきたよ。
麗 実:お、感心感心。寝ないで待っていたか。
咲 樹:寝ないで?
加 菜:はい、ジュース。
咲 樹:…冷たい、夢じゃない…。
麗 実:そりゃね〜。夢と現実がごちゃ混ぜになってるみたいだから、シャキッとしてもらわないと。
咲 樹:夢と現実がごちゃ混ぜ?
加 菜:うん。モフモフさんがどうとか、羊がどうとか、言ってたでしょ。
咲 樹:そうだよね。普通、こんなところに羊なんていないよね。
麗 実:そうよ。ハイジじゃないんだから。
加 菜:アルプスの少女?
麗 実:クララが立ったわ〜のやつ。
咲 樹:普通は存在しない。でも私には見える。どういうこと?
加 菜:ねえ咲樹、大丈夫?
麗 実:そうだよ。今日はいつだか分かる?
咲 樹:今日?平成三十三年?三月…。
麗 実:会話は成立しているね、良かった。私たちは誰?
咲 樹:麗実と加菜。
加 菜:大丈夫だね。
麗 実:自分がいまどこにいるか、分かる?
咲 樹:今、いるところ?…家の近くの公園。…家の近く?私の家はこの近く?
麗 実:そうだよ。ここから歩いて十分でしょ。
咲 樹:違う。私の家は波の音が聞こえる場所。
加 菜:ここから海はだいぶ遠いよ。大丈夫?
咲 樹:私の家は本当にこの近く?

    咲樹、頭を抱えて座る。
咲 樹:私の家は波の音が聞こえる場所。
モ フ:そう、君の家は波の音が聞こえる場所。

    SE:波の音
モフモフさん、気がつくと後ろに立っている。

咲 樹:モフモフさん?
麗 実:え?

    麗実と加菜、後ろを振り返るが、モフモフさんの姿が見えていない。

咲 樹:二人とも見えてないの?
モ フ:そう、二人には私の姿は見えない。
咲 樹:私、おかしくなったの?それともまた夢?
モ フ:君はおかしくなってもいないし、夢でもない。でも現実でもないかもしれない。ただし、私の姿は君にしか見えていない。
咲 樹:どうして、どうして私にだけ見えるの?
麗 実:ねえ、咲樹、大丈夫?
モ フ:私がそういう存在だから。
咲 樹:ねえ、あの子はどこに行ったの?もう会えないってどういうこと?
モ フ:時間だよ。もう君と彼女は会えない。
咲 樹:どうして?
モ フ:平成二十三年三月。
咲 樹:え?
モ フ:君にはどれくらいの記憶がある?
加 菜:咲樹、大丈夫?
モ フ:君は以前、私に「私が何なのか」尋ねた。「君は何者だい?」
咲 樹:私が…何者なのか?
モ フ:それに答えられなければ、彼女には会えない。
麗 実:ねえ、大丈夫?
モ フ:彼女のことをなぜそこまで気にする?
咲 樹:わからない。でも、なんだか、放っておけない。
モ フ:ハイド アンド シーク。
咲 樹:え?
モ フ:「かくれんぼ」という意味だよ。「隠れる」そして「探す」
咲 樹:そう。私、まだあの子と、かくれんぼしてないもの。私がちゃんと見つけなきゃ。
モ フ:…彼女を捜すことは君にとって大きな痛みを伴うかもしれない。それでもいいのかい?
加 菜:どうしよう。さっきから咲樹、独り言ばかり。
麗 実:誰か、呼んでこよう。(二人、去る)
咲 樹:…いいわ。ちゃんと見つけなきゃいけない気がする。
モ フ:本当にいいんだね?後戻りはできないよ。
    咲樹、頷く。

モ フ:よろしい。それでは彼女の元につれて行こう。

    ME:
    照明が変わり世界が変わる。中割幕が開かれる。
    舞台後方には荒れ果てた建物。しかし、ぼんやりと光を放っている。
    舞台上手・下手から面を付けた人々があらわれ動き始める。
    その動きはやがて波のような渦のような動きへと変わっていく。

モ フ:本当に後悔しないね?

    モフモフさん、少し寂しそうな、不安そうな表情を浮かべ、咲樹に手をさしのべる。
    咲樹、頷く。
その瞬間、仮面たち、はじける。
    仮面たち、意志をもった存在に変わり、ベンチを動かしたり、四本の柱が鼓動のような動きになるよう動かし始める。
    仮面たち、子どものような、コロスのような存在。

咲 樹:ここはどこ?夢の中?
モ フ:ここは夢でも現実でもない世界。
咲 樹:夢でも現実でもない?
モ フ:さあ、ぼーっとしているなら、置いていくよ。

    モフモフさん、舞台上手に合図をする。
    舞台上袖から明かりの点いたランタンを持った仮面が現れる。ランタンをモフモフさんに渡す。
    モフモフさんが先頭に立ち、その後ろに咲樹が続く。
    下手側から時計回りに歩き始める。
    下手の柱の側を回ると、咲樹にちょっかいを出す仮面。舞台後方で長縄のようにロープを動かす仮面たち。モフモフさんの時には緩い動きだが、咲樹が通ろうとすると激しくなる。
    モフモフさんと咲樹が通り過ぎた後、下手側のパネルにロープを取り付ける。
上手側の柱がいつしか廃墟の柱に変わり、モフモフさんがその間を通り抜けようとする。

モ フ:さあ、もうすぐだ。はぐれないようにちゃんとついてこれているかい?

    咲樹が柱の間を通りぬけようとすると、仮面たちネットを張り、通れなくする。

咲 樹:ちょ、ちょっと待ってよ。みんな邪魔をしないで。

    咲樹は柱の横を通り過ぎ、モフモフさんに追いつく。
咲 樹:ここは、どこ?
モ フ:君をここに連れてくることに、本当は乗り気ではない。
咲 樹:どうして?

    モフモフさん、黙って、また下手側に進む。下手側の柱もいつの間に廃墟の柱に変わっている。
    モフモフさんが通るときには、自動ドアのようにその柱が開く。
    咲樹が通ろうとすると、仮面たち二人が通せんぼをする。
    舞台後方、櫓の前で待っているモフモフさん。

モ フ:ここは本当に深いところ。普段は日の明かりも届かないようなところ。

    仮面たち、またロープを回している。モフモフさんが飛んだ後、次こそは飛ぼうとする咲樹だが、仮面たちによって、遠ざけられ、絡め取られる。
    モフモフさん、手に持っているランタンを上手の柱に掲げる。その瞬間、照明のレベルが少し明るくなる。
   
モ フ:私だって、普段はこんなところに来ない。でも、あの子はここにいることが多い。

    モフモフさんが、合図を送ると、仮面が、もう一つランタンを持ってくる。
    モフモフさん、仮面たちからランタンを受け取り、下手の柱に掲げる。
    すると、周りの明かりがさらに増す。

モ フ:さあ、ここが終着点だ。
咲 樹:ここは、どこ?

    咲樹、周りを見回す。仮面たち、その場で揺れている。

咲 樹:すごく荒れ果てたところ。
モ フ:そう、ここはそういうところだ。
咲 樹:こんなところにあんな小さい子が一人でいるの?
モ フ:彼女は、いつもここでかくれんぼをしている。
咲 樹:ここでかくれんぼを?

    すると、少女の声で「もう、いーかい?」という声が聞こえてくる。

咲 樹:どうして?
仮面1:彼女がオニだから。
咲 樹:?オニ?
仮面2:そう彼女がオニ。
咲 樹:誰?
仮面3:私達は隠れるの。
仮面1:かくれんぼ、楽しいよね。

    仮面たち、急に動き始める。

仮面2:かくれんぼ、楽しいよね。
仮面4:見つからないように隠れるんだ〜。
咲 樹:こんなところで、かくれんぼ?
モ フ:そう。でも、いつまでも終わらないかくれんぼ。あの子はいつでも探している。

    少女の声で、「もう、いーかい」と聞こえる。

仮面達:まーだ、だよ。
モ フ:ここでは「かくれんぼ」が無限にループしている。いつまでたっても「かくれんぼ」は終わらず、あの子はいつまでもオニのまま。
咲 樹:どうして?オニなんてみんなで順番にすればいいじゃない?
仮面5:ダメだよ。あの子がオニなんだもん。
仮面4:ちゃーんと見つけるまでは終わらないよ。

    少女の声で、「もう、いーかい」と聞こえる。

仮面達:まーだ、だよ。
咲 樹:どうして、みんなそんな意地悪をするの?
モ フ:(少し悲しそうに)意地悪じゃないんだ。彼女がオニだったんだ。
咲 樹:オニだった?どうして過去形なの?
仮面3:そうだよ。あの子がオニだったんだよ。
仮面2:「あの時」、あの子がオニだったんだよ。
咲 樹:「あの時」?
モ フ:そう、「あの時」。

    照明が変わる。

モ フ:今から十年前、君はどこにいた?
咲 樹:え?私がいたところ?その頃はまだ幼稚園だから…。家にいたのかしら。
仮面1:本当に?
仮面2:本当に?
仮面4:本当に?
仮面6:本当に?
仮面達:本当に?
咲 樹:小さい頃だから少し記憶が…。
モ フ:あの子は海の近くにあるこの幼稚園にいた。

    少女、ぼんやりとした光の中に現れる。

モ フ:普段であれば、幼稚園が終わり、家でお祖父さんやお祖母さんとおやつの準備をしている頃。
仮面3:その時は祖父母は法事で家にいなかった。
仮面5:だから、あの子は幼稚園で預かり保育。
仮面2:他にも何人か幼稚園に同級生達がいた。
仮面4:もちろん、預かり保育の担当をしている先生も。
モ フ:当時、幼稚園でみんなが熱中していたのは「かくれんぼ」。

    仮面たち、子どもの動きになる。

少 女:もう、いーかい?
仮面達:まーだ、だよ。
モ フ:もちろん、順番でオニは交代する。でも、あの子は「隠れる」よりも「探す」ほうが好き。
仮面1:みんなは隠れる。
仮面5:絶対、見つからないように。
仮面4:今日はどこに隠れようかな?
モ フ:みんな、思い思いに自分の隠れ場を探す。あらかた自分の隠れ場が見つかる。
少 女:もう、いーかい?
仮面達:もう、いー…

    SE:地震
    その場にいた人々、立っていられなくなり、その場にしゃがみ込む。

モ フ:その瞬間、地面が大きく揺れた。

    照明が暗くなる。

咲 樹:「地震」…、「かくれんぼ」…?
仮面3:痛い、痛いよ。
仮面2:助けて。
仮面1:お母さーん。
モ フ:そして、彼女は立ち上がって、周りを見回す。

    少女、立ち上がり周りを見る。

モ フ:既に景色は変わっていた。
    少女、立ちすくんでいる。

モ フ:彼女はみんなを「探そう」と、歩き始めた。その時、
咲 樹:その時、遠くから先生が走ってきた。
仮面4:大丈夫?
咲 樹:私は、地震のショックで何も言うことができず、ただ頷いた。
仮面4:よし、もう先生がきたから大丈夫だよ。
仮面5:波だー。
仮面3:波が来てるぞ、避難しろ。
咲 樹:その声を聞いて、先生は私を抱き上げ、幼稚園の教室まで連れて行ってくれた。
仮面4:大丈夫だからね。(櫓の前に連れて行く)
咲 樹:その時、私はようやく声を出せた。
咲&少:先生、私、みんなと「かくれんぼ」してたの。
咲 樹:その瞬間、先生の顔が凍り付いた。まだ、波は来てなかったけれど、みんなの避難している声が聞こえる。
仮面4:みんなと「かくれんぼ」をしてたの?
咲&少:うん。
仮面4:みんなって、みんな?
咲&少:うん、お友だちと。
仮面4:わかった。今、先生がみんなを連れてくるから。二階に行っててね。上にはお菓子とかジュースがあるから、それを食べててもいいからね。わかった、「咲樹」ちゃん?
咲&少:うん。
少 女:先生はまた、外に出て行った。そして、
咲&少:戻ってこなかった。

    SE:風の音。
    仮面たち、舞台上からいなくなる。舞台上には、咲樹と少女とモフモフ。

咲 樹:あの女の子は、私?
モ フ:そう、あの子は十年前の君だ。
咲 樹:…どうして?

咲樹、ゆっくりとモフモフさんを見る。

モ フ:その後のこと、覚えているかい?
咲 樹:…私は、先生や友だちが戻ってくるのを、幼稚園の二階で待っていた。でもいつまでたっても誰も来ない。
モ フ:いつの間にか夕方になり、外には雪が降ってきた。
咲 樹:私は寒くなって、家に帰ろうとした。でも、二階から下りようとしたら、既にそこは水の中だった。
モ フ:君は寒かったので、布団を探す。
咲 樹:布団が見つからないから、卒園式で使う予定のようだった、紅白幕に私はくるまった。
モ フ:でも、君は眠れない。
咲 樹:眠いはずなのに、まったく眠れない。周りは気持ち悪いほどの静けさ。

    少女、布にくるまっている。

モ フ:いつもよりも、変に明るくきれいな星を、そして奇妙なほど明るい月をぼんやりと眺めた。
咲 樹:本当に、月や星がこんなに多く空にあったのかと驚いた。…そうしている内にとても悲しくなった。いつもなら、お父さんやお母さんと一緒の布団で眠っている時間。体中は地震の時にケガをしていたみたいで、あちこち痛い。いつもは嬉しくてたまらなかったお菓子が、変に味気ない気がした。

    少女、うつむく。

咲 樹:何が悲しいのか全然分からなかった。でも、とにかく泣いた。
モ フ:そして、朝が来た。
咲 樹:お腹がすいたときにはお菓子を食べたけれど、それ以外はとにかく泣いていた。いつもであれば、先生が近くに来てくれるはずなのに、誰も来ない。
モ フ:時間はどんどん過ぎていく。
咲 樹:泣いて、泣いて、泣いた。でも、眠れない。

    少女、顔を上げる。

少 女:そんな時、「おまじない」を思い出した。
モ フ:お祖父さんとお祖母さんから教えてもらった「おまじない」。
少 女:眠れないときは羊を数えるといいんだよ。
咲 樹:羊?
少 女:そう、羊。羊が一匹、羊が二匹…。
モ フ:そうしている内に、彼女はなんだか楽しい気持ちになってきた。
少 女:誰も近くにいなければ、心の中にお友だちを作ればいい。
咲 樹:友だち…。
少 女:私は眠れない。だったら、眠くなる魔法を使ってくれる羊さん。いつも優しくにこにこしていた園長先生のような。
咲 樹:園長先生はいつもスーツを着ていた。
少 女:スーツを着た羊さん。それが私のお友だち。

    モフモフさんに、光が集まる。

モ フ:そう、「あの時」、君は孤独でおかしくなりそうだった。そんな時、君は私を作り出した。
咲 樹:私があなたを…、作った?
少 女:モフモフさんはいつも私の側にいてくれる。そして、遊んでくれる。
モ フ:君はそう思うだけで、楽しい気分になれた。そして私は「君」の前に現れるようになる。

    モフモフさん、少女の前に進み出る。

モ フ:君が私を作り出した。だから、君のことを一つだけ助けてあげよう。
少 女:なーに?
モ フ:君がこの現実に悩み、苦しみ、耐えられないならば、その時が来るまで、君の記憶から今回のことを消し去ってあげよう。君が今回のことを受け止められる日がくるまで。万が一、今回のことを思い出したいならば、
少 女:思い出したいならば?
モ フ:十年が経つうちに、この事実を受け止められることを申し出なさい。その時には記憶を戻して上げよう。
咲 樹:今日が最終期限…。時間がない…か。
少 女:それはモフモフさんの魔法?
モ フ:そう。魔法のようなもの。私は君の「防衛本能」を少し強めてあげるだけ。
少 女:じゃあ、モフモフさんに魔法をかけてもらう。
モ フ:じゃあ、目を閉じてごらん。

    モフモフさん、手をかざす。少女、眠る。

咲 樹:…それで、私から記憶が消えていたの。
モ フ:そう。
咲 樹:……。
モ フ:さて、どうする?
咲 樹:どうって?
モ フ:君は記憶を今取り戻した。でも、この思い出し方は事故のようなものだ。もし、君が…。
咲 樹:…地震が起こった次の日の夕方になった。水がひいてきて、ボートでみんなが幼稚園まで来た。お父さんが一緒にボートに乗っていた。あの時、いっしょにかくれんぼをしてきた子たちのお父さんやお母さんも。そして、私のお父さんは私の姿を見て、泣いて抱っこをしてくれた。いつもは怖いお父さんなのに、その時は大きく声をあげて泣いていて、なんだか可笑しかった。
モ フ:そうだった。
咲 樹:みんなが他の子達がどうしたか、先生がどこに行ったか尋ねたけれど、私は答えられなかった。
モ フ:僕が記憶を消してしまっていたからね。君は何も言えず、ただニコニコしていた。
咲 樹:そして、その後、お父さんと家に向かった。正しくは家があったところに。
モ フ:家にはお祖父さんとお祖母さんはいなかった。

    少女、立っている

咲 樹:地震があった「あの時」、みんなに逃げようって言っていれば。先生が私を迎えに来たときに、みんながまだいるよって言っていれば。みんな助かったかも知れない。幼稚園に戻ったときに、先生にみんながいるって言わなければ…。先生だけでも助かったかもしれない。
少 女:…もう、いーかい?
モ フ:君が記憶をなくす代わりに、彼女にはここで、ずっと「あの時」のことを繰り返してもらっている。
咲 樹:私のせいで?
少 女:…もう、いーかい?
モ フ:そう、君の代わりに。君が「あの時の事を受け止めることができる」か、「十年が経過する今日」まで。だから、どちらにせよ、もう二度と会うこともない。
少 女:…もう、いーかい?
モ フ:だから、君はまったく気にすることはない。記憶を取り戻すか、それともこのまま忘れてしまうか。どちらを選んでも彼女はここで消える。
咲 樹:でも、私は記憶を取り戻したわ。
モ フ:さっきも言っただろう。今回の記憶の取り戻し方は事故のようなものだ。君が望めば、もう一度忘れさせてあげよう。
咲 樹:私は…、

    照明が変わる。仮面たちいつの間にかまた、舞台上にたたずんでいる。

少&仮:…もう、いーかい?
咲 樹:こんな辛い記憶、できれば覚えていたくない。
少&仮:…もう、いーかい?
咲 樹:自分があの時こうしておけば、という後悔や、苦しい思い。誰だって、忘れられるなら忘れたいと思うはず。
少&仮:…もう、いーかい?
モ フ:そうだね。じゃあ、思い出さないっていうことでいいかな?
少&仮:…もう、いーかい?
咲 樹:でも、
モ フ:でも?
少&仮:…もう、いーかい?
咲 樹:幼稚園のみんなと遊んだ楽しい記憶、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんと過ごした思い出、そして友だちと暮らした日々のこと、それも全部私の一部なの。
モ フ:記憶を受け止めるんだね。後悔しないかい?
少&仮:…もう、いーかい?
咲 樹:後悔?するかもしれないけど。悪い思い出も良い思い出も全部含めて、私なんだもん。
少&仮:…もう、いーかい?
咲 樹:(決意して)もう、いいよ。

    その瞬間、光があふれる。
咲 樹:私の思い出、忘れていてごめんね。全部ひっくるめて、私という存在なの。
    
その瞬間、少女と仮面たち歓声を上げて走り始める。
    咲樹、自分の近くに走り寄ってきた少女を抱きしめる。

咲 樹:ごめんね。一人にしていて、これからはずっと一緒だよ。
モ フ:良かった。これで私もお別れだ。
咲 樹:え?
モ フ:もう私は必要ないだろう?君はもう大丈夫だ。
咲 樹:大丈夫かな?またあなたが必要になるかも。
モ フ:(笑って)大丈夫だよ。私は君が作り出したんだから。必要になればいつでも会える。
咲 樹:そうだよね。
モ フ:じゃあ、またね。(去り始める)もう、いーかい?
咲 樹:(小声で)もう、いーよ。
麗 実:ちょっと、大丈夫?
加 菜:咲樹、平気?
咲 樹:え?うん。もう大丈夫だよ。ごめんね。ぼーっとしてた。もう大丈夫。
麗 実:よかった〜。びっくりさせないでよね、もう。
咲 樹:ごめん、ごめん。なんか、色々考えちゃってた。
加 菜:何を、そんなに考えてたの?
麗 実:好きな男のこととか?
咲 樹:そんなわけないじゃん。
加 菜:麗実、ずいぶん男のこと言うね〜。もしかして麗実の方が?
麗 実:何言ってんの。

    三人、話をしながら舞台から去る。舞台上にモフモフさんと少女が現れる。

少 女:もう、いーかい?
全 員:もう、いーよ。

    仮面たち舞台上に現れ、思い思いに遊び始める。その中に少女も混じり楽しげな雰囲気。

仮面1:ねえ、みんなで遊ぼうよ。
仮面4:何する?
仮面5:かくれんぼしよう!
仮面3:誰がオニする?
仮面2:じゃあ、僕!

    仮面と少女たちかくれんぼを始める。楽しげな雰囲気。
    光があふれ、幕。


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