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オチケン

Posted by a-kasahara on 14.05.26 11:14
上演校名:宮城県古川高等学校
人数  :女子4名
上演時間:約60分

登場人物

 1 3年生…三代目紫亭蛍光(むらさきていほたるのひかり)
 2 3年生…四代目紫亭窓雪(むらさきていまどのゆき)
 3 2年生…六代目白毛鳥飛造(しらけどりとぶぞう)
 4 新入生…初代林屋シャンプー(はやしやしゃんぷー)

   出囃子が鳴ると幕が上がる。明かり付くと部室である。三人の部員が  何をするでもなく座っている。

1 昨日、授業の時間にさ、花見したんだよ。
1 サクラサクだって。
2 何それ。
1 合格電報。
2 合格電報?
1 合格はサクラサク。不合格はサクラチル。
2 ああ。
1 …受験なんだよね。
2 あんま自覚ないけどね。
1 さすがにこれは「ま、関係ないけどね。」ってわけにはいかないでしょ。
2 ま、関係あるけどね。若干。
1 みんなでサクラ咲かせようって。
2 昨日でしょ。
1 うん、昨日。
2 だってもう散ってたじゃない。
1 うん、どっちかって言うと、ていうかかなり散ってた。
2 ほぼサクラチル。
1 概ねサクラチル。
2 授業したくなかっただけじゃないの、単に。
1 またそうやって覚めたことばかり言ってると、ほんと友達いなくなるよ。
2 いいよ別に。わたしはナッチがいれば十分よ。ねえ、ナッチ。
3 あ、はい、わかりません、ごめんなさい。
2 寝てた?
3 あ、はい、いや、いいえ、寝てません、そしてごめんなさい。
1 寝てたし。
2 団子食べた?
3 あ、団子?あるんですか団子。食べましょう団子。
2 花見の話。
3 なーんだ。
1 そんな気の利いた奴に見える?うちの担任。
2 確かに。
1 今年は同じクラスにならなかったね。
3 さみしーです先輩。
2 そうかそうかさみしいか、ここが二人のパラダイスだね。(抱き合う)
1 あんた、学年違うんだから同じクラスになるわけないでしょ。
3 あ、そうか。
2 ほんとナッチは与太郎だな。
1 またそんなこと言って、口悪いよ、曲がっちゃうよ口。
3 何ですか?そのなんとか太郎って。
1 これでオチケンっていうんだからね、弱っちゃうなあ。
2 いいのよ別に。オチケンとは名ばかりの帰宅部なんだから。
1 いいのかなあ、それなりに伝統の部なんだようちは。
3 なんでオチケンって言うんですか?
1 まじめに言ってる?今まで何やってきたの?
2 って言うほど何かやってきた?私たち。
1 そう言われると、まあ、それはその。
3 何も教わってませんよ私。
2 …部長の責任よね。
1 またそうやって部長まかせにする。
3 ところでオチケンですけど、
2 ああ。それはね、はい、部長。
1 またそうやって、。それはね、えっと、落語研究会でしょ。
3 はい。
1 落語の落と研究の研でオチケン。
3 ああ。でもなんでラクケンじゃなくてオチケンなんですか?
1 …それはえーっと、それは、そういえばそうだよね。
2 落語には落ちがあるじゃない。
3 ああそれはなんとなく教えてもらったような。
1 もう、何にも教わってないとか言って。
3 えーっと、「饅頭こわい」のオチは…
2 お、意外と見所あるねえ。
3 思い出した!「冷たい麦茶が一杯こわい」
1 今の気持ちを素直に言ってみたのね。
3 違いましたっけ。
2 与太郎はそんなの覚えていられないもんね。
3 先輩、そう呼ぶのここだけにして下さいね。
2 何?
3 廊下でいきなり与太郎って呼ばれると、
2 やなの?
3 あの、説明が面倒くさくて。
2 ああ、そういうこと。
1 なんか、ちょっとのど渇いたね。
2 冷たいコーラが一杯こわい。
1 コカコーラゼロが特にこわい。
2 帰宅部っていう割にはずいぶん遅くまでいるよね、私たち。
1 だってここはさ、まあなんというか私たちにとっての居心地のいい場所だからさ。
2 でもこうやってまったりとしてるけど、何もすることないし、退屈で、退屈で(あくびが出そうになる)
3 (あーあとあくびをしながら)ならねえーや。
1 お、お連れさんの方がうまい。
2 さてと、そろそろ帰る?
1 ちょっとちょっと。まだ全然どうするか決まってないでしょ。
2 何だっけ?
1 だからそれで集まったんでしょ。
2 まあいつも集まってるって言えばいつも集まってるけど。
1 だからどうするってば。
2 いいんじゃないの、無理しないで。私たちの代で終わりでさ。
1 うちらの代で終わりでもいいけどさ、部室もらえないらしいよ。
2 え、それは聞いてない。
1 最低一人は新入部員を入れないと愛好会に格下げの上、部室は取りあげ。
2 市中引き回しの上、はりつけ獄門みたいだね。
3 やです、獄門。
2 二人のパラダイスが!(抱き合う)
1 だから言ってるでしょ。
2 じゃあ入れよう。すぐ入れよう。
3 え、落語するんですか?私無理です。
1 もう、情けないこと言わないでよ。でもね、まあいきなりやる気出そうってわけじゃないから。
2 部長だって十分やる気ないくせに。要するに数をそろえればいいってことでしょ。
1 ま、はっきり言ってしまえばそういうこと。
2 越後屋、おぬしも悪よのう。
1 (あおぎながら)ふっふっふ。
3 なんで必ず越後屋なんですかね。
2 はい?
3 悪よのうって。
1 ああ。
2 三河屋って言うと、サザエさんになっちゃうから。
3 サブちゃん、いい人っぽいですもんね。
2 でもさあ、へたに広く募集してさあ、男子とか入ってきたら困るんじゃない?
3 私別に困りません。
2 こ、この裏切り者。
1 はいはい。とりあえず作戦会議。まずへたに男子でも困るし、へたにやる気があっても困る。
2 とりあえず私たちと同じような感じの新入生を探せばいいわけね。
1 でもこんな覚めた感じの新入生っている?
2 ま、別に関係ないし、みたいな。
3 それ先輩だけです。
2 もっとこう目なんか輝いちゃってるんだよね、ムダに。何にでも興味ありますみたいに力入っちゃってさ。
3 ポスター書きます?
1 ああポスターねえ。
2 でもポスターっていかにもやる気のある人求むみたいな感じだよね。
3 じゃあ、やる気のない人求むって書きますか。
2 ほんとあんたは与太郎だね。どこの世界に、部員募集のポスターに「来たれ!やる気のないひと!」って書く奴がいるのよ。
3 じゃあ「来たれ!やる気二〇パーセントの人」
2 はいはい。
1 とりあえず普通の感じでいいんじゃない。普通にさ。じゃナッチ頼んだよ。
3 えー。
1 こういうのは後輩の仕事でしょ。
2 いやいやこの人にまかせると、ほんとにやる気二十パーセントって書いちゃうから。オチケンなのに冗談が通じないから。
3 先輩、面白いこと言うなあ。
2 いいよ私やっとくから。
3 さすが先輩、よ、社長!
2 オチケンなんだから師匠と呼びなさい。
3 よっ、師匠!四代目!

   暗転

3 先輩、誰も来ませんね。
1 まだまだ、ここからよここから。
2 おかしいなあ、やる気あるでもなくないでもなく、微妙な感じで書いたんだけどなあ。
1 まだまだ、ここからよここから。
2 なんか夏休み明けの受験生みたいだね。
3 もうここにこうやってから一時間ですよ。入るつもりならもう来てますよ。
1 やっぱり面接ありなんて書いたのがいけなかったんじゃないの?
2 だって、もしやる気満々の人が来ちゃったら困るじゃない。
1 そりゃそうだけど。
2 だからこう厳しく突っ込んで、ビシビシ面接で落とそうと思ってね。
1 やる気のある人をビシビシ落とす会社って珍しいよね。
3 私受かるかも。
2 ちょっと練習しておく?
1 なんの?
2 だから面接の。
1 それって必要?
2 だってさ、やる気があるのにやる気がないふりをしてさ、入った途端にやる気満々なんて困るじゃない。
1 そこまでしてうちの部に入りたいと思わないけど。
2 ま、とにかくヒマだしさ。
3 ヒマです。
1 確かに。じゃとりあえずやってみる。なんかちょっと面白そうだしね。

   面接の練習が始まる。

2 ポスター見て来ましたか?
3 あ、ああ、なんかみたような見ないような。
1 いい感じですねえ。
2 中学校では何部だったの?
3 あ、中学校はまああの最初は運動部だったんですけど、なんかちょっと体質合わないなあって感じで、文化部っていっても実質 の帰宅部っていうか。
1 ちょっと、もう合格でいいんじゃないの合格で。
2 まあまあ。では次の質問ですが、好きな落語なんてありますか?
3 え、落語…ですか?えーっと、
2 あ、あんまり聞いたことないですよね。
3 ああ、はい、まあ。
2 饅頭たくさん食べた後で、
3 何ですか?
2 饅頭たくさん食べた後で、何を飲みたいですか。
3 コカコーラゼロ。
1 ほら、もう理想的。
2 なぜオチケンに入ろうと思ったんですか?
3 え、ここ映画研究会じゃないんですか?
2 え?
1 え?
2 間違えた?
3 ま、あんまり関係ないですけど、どっちでも。
1 完璧です。
2 それでは正式にあなたの入部を認めます。やる気ゼロパーセントの新入部員にばんざーい。部室存続にかんぱーい。

   暗転

1 ちょっと、いつまで寝てるのよ。
3 かんぱーい。
2 何を乾杯してるのよこの子は。
3 良かったですね理想の新入部員が。
2 早く来て欲しいね。
3 え、だって今、中学校から帰宅部だからって。
1 何が?
3 エイケンだけどオチケンでもいいって。
2 何言ってるの?
3 …新入部員が来て、饅頭食べた後にって。
2 誰が饅頭食べたって?
3 …コカコーラゼロって。…夢かな。
1 夢かなあじゃないよ。練習するなら早くやろうよ。
3 …あ、そうか、夢だったのか。なんか頭がぼんやりする。
1 あーあ、またいつものが始まった。

   面接の練習が始まる。

2 好きな話は何ですか?
3 あたま山です。
2 なぜ入ろうと思ったんですか?
3 昔から小三治師匠にあこがれていたからです。
2 小三治師匠は別名なんと呼ばれているか知っていますか?
3 高田馬場の師匠。
2 師匠の十八番、小言念仏で家の前を通りかかる物売りは何ですか?
3 どじょう屋。どじょやー。(呼びかける)
2 同じく師匠の十八番、初天神で、金坊が最初に買ってもらったものは、
3 あめ。
2 …ですが、それでは二番目に買ってもらったものは、
3 団子。
2 …ですが、いいですかよく聞いて下さいね。
3 たこ。
2 はい、それは最後に買ってもらったものですけど、そこは聞いてませんからね、先回りをしないでくださいよ。さて二番目に買 ってもらったのは団子ですが、それは、あんことみつのどちらだ ってでしょうか?
3 みつみつみつ。
2 それでは最後の問題です。芝浜のサゲを言いなさい。
3 また夢になるといけねえ。
2 面接終了。
3 うーん。(正気に戻る)
1 また何か乗り移ってた?
2 やっぱ、この部屋何かいるよね。
3 落語の神様。いるんですかほんとに。
2 トイレにもいるくらいだからいるんじゃないの。
1 それはおいといて、結果は?
2 もちろん不合格。
3 えー、練習でも不合格って言われるとがっかりするなあ。
1 なんか相当詳しかったけど。
2 好きな話が「あたま山」っていう時点でだめ。マニアック過ぎるでしょ。
3 先輩、私知りません。
2 せめて「饅頭こわい」とか「寿限無」とか言ってくれないと。
1 なんか私でも知らないこと口走ってたよ。
3 でもしゃべってたの私じゃないですからね。
2 それにその若さで小三治って。
3 何言われているか分かりません。
2 五代目小さん仕込みの正統派の古典じゃない。
1 ちょっちょっちょ。
2 何よ。不合格なの。やる気ありすぎなの。
1 ちょっちょっちょ。
2 何よ。
1 あんたは別に乗り移ってないんだよね。
2 私はナッチみたいにオカルト体質じゃありません。
3 オカルトってひどくないですか。
1 ちょっちょっちょ。
2 だから何よ。
1 そういうあんたが詳し過ぎない?
2 え、そうかな、あれ?いや、そんなことないし。
1 そのカバンからはみ出ている文庫本は?
2 あ、やめてよ、人が何読んでたって…。
1 立川談志最後の落語論。
3 先輩!
2 違うわよ。ちょっと生意気なのが入ってきてさ、あれも知ってるこれも知ってるって言われると頭にくるじゃない。とにかくこ っちのペースに巻き込まなきゃいけないんだからさ。勉強よ。予 習よ予習。
1 心がけがいいわね、へぇー。
2 何よその疑ってます的なわざとらしい「へぇー」は。
1 なるほどねぇー。
2 何よそのいかにも心理の裏を読み取りました的なわざとらしい「なるほどねぇー」は。
3 なるほどねぇー。
2 あんたまで何よ、もう。

   突然一人の新入生が入ってくる。

4 あのー、
2 はい、合格!オチケンはあなたを待っていた。
1 ちょっちょっちょ。
3 わーい、合格って言われると人のことでもうれしいなあ。
4 あの、合格とか、不合格とかあるんですか?
2 まあ、一応ね。本当は面接の結果は一週間後に郵送で、
4 え、一週間ですか。
2 っていうのがたてまえなんだけど。
1 そんなのいつ決まったのよ。
2 なんかね、こう運命の出会いってあるじゃない。そういう感じがね、今この瞬間に。
1 三秒ぐらいだよ、三秒ぐらいで合格って言ったよ。
2 余計なこと言わないの。
3 どこかの部と間違ってないよね。
4 オチケンですよね。
3 そうそう、ラクケンじゃなくて、オチケンだからね、理由はわかんないけど。

   1は2を部室の隅に連れていく。

1 ちょっといいの?何のための練習だったのよ。
2 だって急に不安になってさ。あのまま誰も来なかったらって思ったら思わず。
1 確かに。
2 新入生なんだからさ、言うこと聞かせればいいのよ。
1 いいのそれで?
2 こっちは三人いるんだからさ、こっちのペースに乗せちゃえば、いくら一人でやる気出したってどうってことないわよ。
1 でも一応ちょっと質問しておいたほうが良くない?
2 大丈夫だって、心配性だなあ部長は。
1 でもさ三人で束になっても勝てないような強者だと困るじゃない。
2 なんかそう言われるとさ、じゃあ、ちょっとだけ聞いてみる?
3 だよねー、コカコーラゼロだよねやっぱり。
4 最近、トクホコーラとかもありますよね。
3 えー、何それー。
1 ねえねえ何の話?
3 先輩、トクホコーラって知ってます?
4 脂肪の吸収を抑えるんです。
1 ああ、良かったわね。
2 あのさあ。
4 はい。
2 あのね、まあちょっとだけ、念のためにね、聞くんだけど。
4 はい。
2 ポスター見たよね。
4 はい。
2 面接ありって、すんごい小さい字で書いてあったの、すんごく小さな字だったから、
4 ああ、気づきました。
2 あ、気づいた、そう。
4 だからすごく人気あるんだなあと思って、私なんか入れるのかなあって、ちょっと。
2 そうそういつもはね、こう行列が出来るオチケンって感じでね、今年は…いや今年もね、君が来る前はもうたいへんだったんだから。
1 おいおい。
4 そうなんですか。
1 ちょっと、なんかやる気体質の反応じゃないの、何でも信じちゃってさ。
2 そこがいい所よ。うまくまるめ込めるってことじゃない。
3 何を丸めるんですか?
2 あー、お団子よお団子。
3 ああ、お団子かあ、私はみつじゃなくてあんこがいいなあ。
2 じゃあ、早速ね。落語って聞いたことある?
4 あります。
1 だめじゃんいきなり。
2 まあまあ。
1 なんか途中から私のほうが厳しくなってるよ。
2 じゃあ例えばさあ、好きな話ってある?
4 話ってその落語の題名のことですか?
2 うん、まあそうだね。
4 えっと、あんまり分からないんですけど、
1 お、ちょっと良くなってきたね。
4 あの、長い名前をつけちゃう奴って、何ていう話でしたっけ、
2 寿限無ね。
4 ああなんかそういう感じの。
1 いいねえばっちりだねえ。シミュレーションの甲斐があるねえ。
4 あと、最後の、最後の、何て言うんですか、あの。
3 オチ。
2 じゃなくてサゲ。
4 えーっと、お茶がこわいとかそういう、
12 饅頭こわい。
1 合格、合格です。落語研究会にようこそ。
3 合格って、人のことでもうれしいなあ。そして夢なら覚めないといいなあ。

   暗転

4 おはようございます。
1 あのね、うちは普通にこんにちは、だから。
4 すみません。こんにちは。
2 テレビ局じゃないからね。
4 はい、わかりました。

   3人は携帯をいじりはじめ、4は何か手持ちぶさたな感じ。

4 あの。
1 ん?
3 何?
4 いえ、あの。まず何をすればいいですか?
2 ああ、まあ昨日入ったばっかりだからさ、あの適当にまったりしてていいよ。そんなに焦らなくてもさ。 
4 あ、はい。分かりました。
1 あ、メルアド教えてくれる?
4 あ、はい。
1 あのほとんど緊急の連絡はないけどね。ま、一応。
3 ジャージ貸してって、一回だけメール来ました。
1 余計なことは言わなくていいから。
4 …あの。
2 今度は何?
4 何か仕事ありませんか?
2 部長さん、仕事だってよ、仕事。
1 またそうやって部長まかせにする。じゃあちょっとさ、片付けとかしてもらえる。女所帯なのにこの有様だからさ、その辺の古 い資料とか、あと、わたぼこりもすごくてさ。
4 はい!すぐやります。
1 ちょっとやる気をもてあましてる感じね。
2 大丈夫よ。私たちのこの姿にだんだんだんだん慣れさせていけば。
4 せんぱーい。これここでいいんですか?
1 うん。適当でいいよ。ほんと、適当で。
2 なんなら捨ててもらってもいいよ。
3 私、手伝ってきます。
2 こら、だめでしょ。
3 だって、私三年生じゃないし。ちょっと立場が。
1 しょうがないなあ。じゃああんまり熱中しないでね。
3 はーい。
4 文化祭で発表してるんですか?
1 うん、まあそうだねえ。
4 うちの文化祭って七月ですよね。いつ頃からお稽古するんですか?
3 しないよ。
4 え?
2 ちょっとナツ!
3 何ですか先輩。
2 …あのさ、それ、捨ててきてもらえる?
4 え?あ、はい。

   4退場

2 あのね、正直ってことがね、いい場合と悪い場合とあるんだよ。
3 どういうことですか?
2 ちょっとはやる気があって入ってきたんだからさ。
3 ああ、はいはい。
2 いきなり何もやりませんじゃあさ。やめちゃうかもしれないでしょ。
3 ああ、なるほど。
2 今やめられたらどうなるの?
3 市中引き回しの上、はりつけ獄門。
2 そうでしょ。そのうちやりますよー的な雰囲気を見せつつ、少しずつやる気を奪っていくのよ。
3 なんか恐ろしい妖怪みたいですね。
2 だから適当に話をあわせておけばいいからね。わかったら仕事に戻りなさい。
3 はーい。

   4戻ってくる。

4 お客さんどれぐらいくるんですか?
2 お客さんはね、えーと、去年は何人ぐらいだったかねえ。
3 六人。
2 いやいやそんなに少なくはないでしょう。もうちょっとねえ。
3 三千人。
2 そんなに入りませんから。
4 先輩でプロで活躍している人もいるんですかね。
2 ああ、どうかなあ、一人ぐらいはねえ、いたりいなかったり、うん。どうだったかなあ。
3 立川談志。
2 ああ、あのたぶん違うと思うし、それに亡くなったばっかりだしねえ。
3 柳家小さん。
2 ああ、もっとずっと前に亡くなってるねえ。
4 一年生も発表させてもらえるんですか?
2 それについては部長さん。
1 あれ、急に振るね。一年生でもね。うん、もちろんしっかりお稽古して、人に見せられるようになればね。
4 そうですよね。何でもいいってわけじゃないですよね。
2 そうそう、何でもいいってわけじゃないからね。何しろ人を笑わせるってそう簡単なことじゃないからね。 
3 笑われるのは簡単だけどね。
1 一番難しいことなんじゃないかな、笑わせるって。
4 …そう、ですよね。そんなに簡単なことじゃありませんよね。笑わせるって。
3 あれ、どうしたの。
4 いえ、何でもありません。
1 じゃ、本日はこれで。お後がよろしいようで。

   暗転

1 今日はとりあえず、
3 先輩、私たちだいたいとりあえずですね。
1 いいの。とりあえず新入りに名前をつけてあげようと思います。
2 ちょっと、なんかやっぱり完全に新入りのペースに私たちが巻き込まれてる気がするけど。
1 違うわよ。名前をもらったからには、やめますとは言えないでしょ。
2 そういうことね。
1 そういうことよ。
12 悪よのう。
4 ありがとうございます。なんかすごくうれしいです。
1 さてどれにする?
4 どれって?
3 私なんか選択の余地がなかった。
2 だってその名前は絶対に引き継がなければならない伝説の名前だもの。
4 先輩、なんていうんですか。
3 六代目白毛鳥飛造。
4 …あ、ああ。
3 ほら、新入生だって微妙な反応だし。
4 なんとか亭じゃないんですね。
1 そうそう。この子の名前だけはね特別なのよ。
2 襲名披露ってあるでしょ。
4 はい。
2 大きな名前は何代目って感じで引き継がれていくわけよ。
3 白毛鳥飛造って大きな名前ですかね。
1 だから初代は天才的だったって教えてあげたでしょ。
4 三年生の先輩はなんていう名前なんですか?
1 私は三代目紫亭蛍光。
2 私は四代目紫亭窓雪。
4 なんか漫才コンビみたいですね。
1 うちのオチケンは代々「紫亭」を名乗ることになっているの。だから手ぬぐいもほら、紫。
2 途中で途絶えた名前がたくさんあるから、その中から適当なの見つけてみる。
4 はい。
1 どれどれ、あ、これなんかどう?紫亭江戸紫。
4 ああ、まあ。
1 これは?紫亭藤間紫。
4 ちょっとわかんないですけど。
1 紫亭赤紫。
4 ちょっと投げやりな感じになってるような。
1 紫亭青紫。
4 できれば下には紫がつかない方が。
1 紫亭ディープパープル。
2 …なんかちょっとがっかりした感じになっちゃってるからさ、思い切ってここは新しい名前をつけたらどうかな。
1 結構難しいもんだよ名前つけるのって。
2 こういうのは以外と与太郎が、
3 では落語の神様に聞いてみます。神様神様、この子のお名前なんてーの?むむむむむむむむむむむ、出ました。
1 おお。
3 林屋シャンプー。
2 その心は?
3 昭和の爆笑王、林屋三平にあやかってみました。どーもすいません。うーん。(正気に戻る)なんか言った私?
2 どう?
1 林屋シャンペンでもいいんじゃない?
3 林屋おいでシャンプーときどきリンスは?
2 ちょっと長いかも。
4 気に入りました。謹んでお受けします。
12 え?
2 …どれが?
4 あ、…最初ので。
1 そうか、それでは君を初代林屋シャンプーと命名する。平成の爆笑王を目指し、精進するように。

   紫の手ぬぐいと扇子が手渡される。

4 ありがとうございます。
1 それでは本日はここまで、お後がよろしいようで。
4 先輩、稽古つけてください。
1 まあまあ、焦らない焦らない。
4 せっかくすばらしい名前をつけてもらったんだから名前に恥じないように練習したいんです。
3 名前が恥ずかしい場合はどうしたらいいんだろう。
1 そ、そうだね。まだぜんぜん稽古してなかったもんね。
2 ほらほら、だから、全然こっちのペースじゃないって。乗せられてどうするのよ。稽古って何言ってるの? 
1 だってさ、名前つけて、じゃ、あとはケータイいじっててってわけにもいかないでしょ。
2 何もケータイいじれとは言ってないわよ。
1 ちょこっとさ、まねごとをやってみせればいいのよ。全然詳しくないんだからさ、落語とはこういうもんだみたいなのを見せてあげればさ、あとは自主練ってことにすればいいじゃん。
2 まあ、そうだけどさ。
1 ちょっとつきあいなさいって。
2 まあいいけどね。
1 それではまず長い話は難しいから、小咄なんかやってみる。
4 こばなしですか。
3 先輩私出来ます。
1 大丈夫?神様おりてきてないのに。
3 大丈夫です。私の実力も見て下さい。
1 じゃあやってみて。
3 この帽子ドイツんだ。オランダの首都はアムステルダム。
2 うーん。
3 隣の空き地に囲いが出来たってねえ。ヘイジュードはビートルズ。
2 うーん。うん。
3 台所を片付けなくちゃ。キッチンとしたチキンサンド。
2 はい。もういいです。
4 なんですか今のは?
1 こうひねってひねってもとにもどっちゃったみたいなおかしさだよね。
4 …おかしかったですか?
2 ま、おかしくないところが、かえっておかしいみたいな。
1 あの、逆説的小咄っていうかね。
4 なるほど、逆説的小咄ですか。
2 あ、メモってる。
1 じゃあちょっと練習してみようか。ナッチ面倒みてやってね。
3 はーい。じゃあ私に続いて言ってみて。この帽子。
4 この帽子。
3 ドイツんだ。
4 ドイツんだ。
3 オランダの首都はアムステルダム。
4 オランダの首都はアムステルダム。
3 うん、なかなかいい感じだよ。
2 いいの?あんなんで。
1 一生懸命やってるじゃない。
2 なんかちょっと気がとがめるなあ。
1 だからなんだか途中から私の方が悪い人みたいになってるけどさあ。
2 だからどっちが悪い人とかやめないそういうの。
1 まあこれでしばらくはやめないでしょ。これでオチケンも安泰ってことよ。 
2 まあいいか、もともとそういうことだったんだしね。
1 それにしても熱心だなあ。
2 ナッチまで乗せられちゃってるけど大丈夫?
1 まあ相手させておけば、うちらの手間が省けるってもんよ。
2 そうだね。
12 悪よのう。
3 キッチンとした。
4 キチンとした。
3 キチンじゃなくてチキン。
4 チキンとした、あれ?
3 チッキンとしたキチンサンド、あれ?
4 きりっとしたチキンカツ。
3 あれ、いつからチキンカツになった?
4 チキンフィレサンド。
3 あれフィレなんてどっから来たの?
4 ケンタッキーフライドポテト。
3 なんか違う食べ物になってるよ。

   暗転

4 先輩、落語教えて下さい。
3 あ、私はね、まだまだだから、先輩お願いします。
2 いや、やっぱりねここは部長がね。
1 だからそうやって都合の悪いことはみんな部長に押しつけるのやめなさいってば。
4 ビデオ見たんですけど、やっぱりみんな男の人だし、生で見ないと細かいところとかよく分からないんです。
1 でもねえ、私たちだってまあアマチュアだしねえ、そこはやっぱりプロの技を、
4 お願いします。先輩。
1 なんかこういうの経験ないからさ、きらきら光る瞳でそうやって見つめられるとさ。
2 ちょっと、私より厳しいんじゃなかったの?
1 じゃああんた断れるの?
2 いや、まあそれは。
1 でも急に言われてもさ、いきなり出来る話なんかないよ。ずっとどこでも発表してないんだから。
2 大丈夫、二人羽織よ。
1 二人羽織?
2 まあ私にまかせておいて。

  3を呼んで何か打ち合わせている様子。3の後ろにつく2。

2 えー、おじさん、立派なうちですねぇ
3 えー、おじさん、立派なうちですねぇ
2 うちは総体、檜造りでございます
3 うちは総体、檜造りでございます
2 お、こいつはうまいことを言った。お世辞がうまいぞ。まだあるか?
3 お、こいつはうまいことを言った。お世辞がうまいぞ。まだあるか?
2 天井は薩摩のウズラモクでございます。
3 天井はサツマイモとうずら豆でございます。
2 畳は備後のごぶべりでございます。
3 畳は貧乏でぼろぼろでございます。
2 お庭は総体、御影作りで、
3 お庭は総体、見掛け倒しで、
2 床の間には掛け物がかかっております。
3 床の間には化け物がでかかっております。
3 ご存じ、牛ほめの一席でございます。

   拍手をする4。

4 やっぱりビデオとは違います。
2 そ、そうかなあ、まあ、違うっていえば違うけどねえ。
4 私も与太郎をやってみたいです。
1 ああ、まあねえ、難しいけどねえ。
4 やってみたいんです!
2 与太郎はキャラクター作りが大事だからねえ。
4 キャラクターですか。
2 自分自身が与太郎になりきらないと、彼女のようにね。
3 ほめられてますか?
2 ほめてるほめてる。
3 じゃあよかった。
4 なりきることですね。
2 そうそう、だからこのお姉さんにつきっきりで観察していると、与太郎のなんたるかがわかるってわけよ。
4 与太郎のなんたるか。
1 与太郎の真髄。
2 与太郎の極み。
3 あの、ほめられてますよね。
2 ほめてるに決まってるでしょ。この生粋の与太郎。
1 与太郎中の与太郎。
4 先輩お願いします。
3 うん、わかった。
2 役に立つねえうちの与太郎は
1 またこれでしばらくは大丈夫そうね。
3 じゃあいくわよ。
4 はい。
3 二十ははたちで三十イタチ。
4 二十ははたちで三十イタチ。
3 天井は薩摩のウズラモクでございます。
4 天井はサツマイモとうずら豆でございます。
3 畳は備後のごぶべりでございます。
4 畳は貧乏でぼろぼろでございます。
3 お庭は総体、御影作りで、
4 お庭は総体、見掛け倒しで、
3 床の間には掛け物がかかっております。
4 床の間には化け物がでかかっております。

   暗転

4 先輩これ。
2 何、ああそうか。
4 今日お昼休み会議がありました。
2 もうそんな時期だね。
4 なんか前にも聞いたような気がするんですけど、去年の文化祭って、
2 ああ、去年のね、ええっと、何やったっけ?ねえ。
3 私一年生だったのでいまいち記憶が。
2 ああそうか一年生だもんね。じゃあやっぱりここは部長に。
1 だからいい加減やめなさいって言ってるでしょ。
2 なんか先輩達がさあ、
1 あ、ああ、そうそう、先輩達がね。…なんだっけ?
2 クラスの模擬店の方が忙しいとかなんとかで、
1 あ、そうそう、クラスの模擬店の方が忙しいとかなんとかでね、
3 なんか繰り返してません。
1 だって事実だから。
2 そう事実。で、まさか二年生だけでやるって訳にもいかないでしょう、先輩を差し置いて。で、やむなく去年は不参加ってこと になったのよ。
4 そうだったんですか。先輩達が一年生の時はどうだったんですか?
3 私は中学三年生だったからさあ、まさか高校生を差し置いて、
1 あたり前でしょ。まだ入学してないじゃない。
3 あ、そうか。
2 その時もね、3年生はクラスの模擬店で忙しいって言ってね。
1 そうそう。私たちはやりたかったけど、でもまだ一年生だったからねえ。決めるのは三年生だから。
4 じゃあ今年はどうなんですか。
2 ああ、私のクラスはまあ模擬店はあるけどねえ、まあ全員参加ってわけでもないんだけど、でもやっぱり顔出さないとまずいか なあ。
1 あ、うちもね、なんか人数足りてるみたいだったし、まあ私がいかなくてもなんとかなるとは思うんだけどね、でもクラスのま とまりっていうか、つきあいっていうか。
3 私のクラスは模擬店ありません。だから私は出られます。でも私落語なんか出来ませんよ。
4 え?
3 だって稽古なんてしたことないし。
2 な、なにバカなこと言ってるのよ。たまたま文化祭出られなかっただけでしょ。
3 もう、ごまかすのやめません。あのね、うちの部はね、ここ十年ぐらいは文化祭出てないの。活動休止状態なの。
4 そ、そうだったんですか。
2 あんたさ、なんで急にそんなこと言い出してるのよ。私たちここでまったりしてればそれでいいんでしょ。今更何言ってるのよ。
1 そうだよ。今から話し覚えてさ、人に見せられるレベルに仕上げるなんてさ無理に決まってるでしょ。
4 私どうしても落語覚えたいんです。そしておばあちゃんに聞かせたいんです。
2 おばあちゃん?
4 私、おばあちゃんを笑わせたくって、ここに来たんです。
1 おばあちゃんを笑わせたい?
3 おばあちゃん、笑わなくなっちゃったんだそうです。
2 なんであんた。
3 だってずっと練習付き合ってましたから。
4 おばあちゃん最近はすっかりふさぎ込んで、自分は役に立たないとか言い出して。
3 学校の話とか、いつも笑って聞いてくれたその笑顔が忘れられないって。
4 そんなおばあちゃんを私が元気づけてあげたいんです。私に笑顔をくれたおばあちゃんに今度は私が笑顔をプレゼントしたいん です。もう一度おばあちゃんを笑わせてあげたいんです。…でも
 それは私の個人的な問題ですよね。…ご迷惑かけてすみません。

   手ぬぐいと扇子を置き、去ろうとする。

2 私だって、私だって。心から笑いたい。心から笑わせたい。と思うよ。でもね、恐いんだよ。何か言ったらね、つまらないって 言われるんじゃないかと思って。だったら最初から何も言わない ほうがいいって。
3 先輩。
1 …このまま終わっていいの?あなたたちにはプライドってものがないの?

   なんとなくみんなの気持ちが一つになったような間。

1 基本からたたき直すわよ。
全員 はい。
1 まずは発声からよ。
全員 はい。アエイウエオアオ。
1 甘いわ。オチケンの発声はそれじゃだめ。いくわよ。あえいうえおアホ。
全員 あえいうえおアホ。
1 かけきくけこカッコウ♪カッコウ♪。
全員 かけきくけこカッコウ♪カッコウ♪。
1 させしすせそサード長嶋。
全員 させしすせそサード長嶋。
1 その調子よ。
1 かきくけ
全員 ご隠居。
1 かきくけ。
全員 熊さん。
1 はひふへ。
全員 八つぁん。
1 やいゆえ。
全員 与太郎。
1 もう一度!
全員 はい!
1 かきくけ
全員 ご隠居。
1 かきくけ。
全員 熊さん。
1 はひふへ。
全員 八つぁん。
1 やいゆえ。
全員 与太郎。

   ロッキーのテーマ的音楽流れる。

1 さあ次はサゲの練習よ。
全員 はい。
1 湯呑みの中に、さかばしらが立ってます。
2 おひな様の首が抜けます。
3 ああそれはいかん、さんまは目黒に限る。
4 あんまり名前が長いから、もうこぶがひっこんじまった。
1 なんどきだい?よつで、いつむうななやあ。

   暗転

   明かりつくと、全員うなだれている。

1 何がよくなかったんだろうね。
2 老人ホームで「死神」って、やっぱりまずかったんじゃないの?
3 自信なくなりました。
1 やっぱりちょっとハードル高かったかなあ。
4 無理なんでしょうか。
3 あんなに練習したのに。
2 今回は誰も降りてこなかったね。
3 はい。
1 やっぱりコーチとかいないと無理なのかなあ。
4 でもお互いに見せ合って、悪いところも言い合って、あんなにあんなに練習したのに。
3 練習通り出来てましたよ。みんな。でもぜんぜん笑ってくれない。
1 ということで今日は昨日の分の休みにします。
2 疲れたね。精神的に。
1 じゃ。
2 帰らないの?
4 あ、ちょっと宿題やっていこうかなと。
2 そう。
3 あ、私もやっていこう。分からないところ教えてもらえるし。
2 あんた先輩でしょ。
3 あはは、それとこれとは。
1 じゃあね。戸締まりだけ忘れないでね。
34 はーい。

   宿題を始める二人。

3 まあ気にすることないよ。なにしろ初めてお客さんの前でやったんだし。
4 はい。
3 間違わなかっただけ立派だよ。
4 はい、まあ、そうなんですけど。
3 先輩達だってうまくいかなかったんだからさ。
4 ありがとうございます、先輩。なぐさめてくれて。
3 別になぐさめてないよ。次があるってことよ、次が。
4 そうですよね。次がありますよね。だいじょうぶだいじょうぶ。
3 なにそれ?おまじない?
4 あばあちゃんいつもわたしにそう言うんです。だいじょうぶだいじょうぶって。
3 へえ。私おじいちゃんもおばあちゃんもいないから、ちょっとそういうの良く分からないけど。そうか、だいじょうぶだいじょ うぶか。
4 私人一倍怖がりだったし、小さい頃よくからかわれて泣いてたんです。でもそのたびにおばあちゃんがそう言ってくれて私を助けてくれたんです。
3 文化祭楽しみだね。
4 楽しみだったんですけど、ちょっと今は自信が、
3 だいじょうぶだいじょうぶ。
4 そうですよね。
3 私が代わりに言ってあげるよ。
4 先輩、ありがとうございます。
3 何やるかなあ。同じ奴でいいかなあ。
4 もう一回新鮮な気持ちで新しい話やろうかと思って。
3 そうだねえ。それがいいかもねえ。うん、私もそうしよう。
4 でもやっぱり与太郎なんですよね。
3 うん、やっぱり体質っていうのかなあ。
4 た、体質ですか。
3 なんか教科書開いてると眠くなるなあ。うーん。
4 先輩、ちょっと、このタイミングで寝ないでくださいよ。(周りを気にして)何か物音がしたような。…もしかして神様?
3 (誰かが降りてきている)落語とはなんだ、とこう尋ねるね。
 で、この立川談志は言うね。何でも言うね、こいつは…。ま、俺のことだからかまやしないけどね。
4 落語とは何なんですか?
3 お、この野郎。ナマイキにそんなこと聞きやがって。まあいいや。教えてやろう。落語とは人間の業の肯定である。
4 午後の校庭?
3 与太郎かおめえは。午後の校庭じゃねえよ。ごうのこうてい。
4 すみません「ごう」って何ですか?
3 業ってえのはおめえ言ってみりゃあ「非常識」ってことだよ。
4 非常識ですか。落語は非常識なものですか。
3 人間には良心も、正義も、愛もあったもんじゃねえ。ほっときゃその時々にいろんな気持ち、考えが出てくる。で、迷う。
4 はい、迷います。人一倍迷います。
3 あたりめえだ、それが人間だ。
4 人間だもの。
3 セコいんだよ、人間なんざ。
4 セコいんだもの。
3 弱いんだよ、人間なんざ。
4 弱いんだもの。
3 出たとこ勝負のいい加減、これが人間の本性だぜ。
4 私、うまくやろうとしてたかもしれません。
3 うまくなろうなんて思っちゃだめだな。
4 私、なんかちょっと、気が楽になってきました。
3 へへん、そううまくいかねえのも人間さ。
4 ありがとうございます。師匠。
3 おめえに師匠呼ばわりされる覚えはねえよ。でもまあ、がんばんな。うーん。(正気に戻る)あれ、寝てた私。
4 先輩、ありがとうございます。
3 何、私何かした。
4 先輩っていうか先輩じゃないっていうか、とにかくありがとうございました。
3 なんだかわからないけど、人にお礼を言われるってうれしいね。
 お礼を言ってくれてありがとう。

   暗転

1 それでは文化祭の演目を発表します。まず、トップバッターはエースしらけ鳥。
3 かぼちゃ屋をやります。
2 さすが与太郎。やっぱり与太郎でいくのね。
3 五代目小さん師匠に負けないように頑張ります。
1 さて次が私だから、
2 ちょっと部長はトリでしょ。
1 いや今回はねシャンプーがトリ。
4 え、そんなトリだなんて。
1 あのね、最初の客って硬いのよ。なんとしてもおばあちゃんを笑わせるんでしょ。だったらさ、私たちが最初にお客をほぐしておいたほうがいいと思って。
4 ありがとうございます。先輩。
2 ずいぶんと自信あるのね。この間の老人ホームで痛い目にあったくせに。
1 あんただって同じでしょ。でもほんと勉強になったよね。笑わせるってほんと難しい。
3 笑わせようっていう意識が強すぎてもだめなんですよね。その力の抜け加減が。
2 そこいくとあんたはそのへんが絶妙だよねえ。
3 えへへ。ほめてますよね。
2 ほめてるほめてる。やっぱ天然にはかなわないなあ。
3 なーんかほめられてる気がしないなあ。

   3・4退場。

2 ちょっと、なんか急に部長らしくなったよね。
1 そう?ところでさ、あんたはじめからあの子の面倒みようと思ってたでしょ。
2 そんなことないよ。
1 だって途中からなんか私の方が厳しいこと言うようになってさ。
2 そんなことないって。おばあちゃんのこと聞いてからだって。
1 そうかなあ。もっと前からなんか協力的だったけどなあ。
2 私こう見えて、結構優しいのよ。
1 なんか性格変わってない?
12 ま関係ないけどね。
2 変わっていくから面白いのよ。
1 さて十年ぶりの文化祭。始めますか。

   出囃子が鳴る。3が高座に上る。

3 お前、いったい歳はいくつだ? え?歳?歳は六十。六十?よせやい、どう見たってはたちそこそこだぜ。そうそう、元ははたち。四十は掛け値。おいおい、歳に掛け値をする奴があるかい。だって、掛け値をしなきゃ女房子が養えねえ。
2 …と、小さん師匠は降りてこなかったけど、見事トップバッターの役目を果たしたのでした。
1 その後も私たちは、この間とはうってかわって。
3 自然体で臨んだのでした。
2 途中で校内放送が流れるハプニングはあったものの。
1 またそれが逆に笑いを誘い、会場はいい雰囲気に包まれていました。
3 そしていよいよトリ。
1 林屋シャンプーが高座に上がります。
2 この調子で頼むわよ。
1 ねえおばあちゃん来てる?
3 来てる来てる、ほら一番後ろ。
1 ああ、もうちょっと前に座ったら良かったのに。
2 でも車いすだから。
3 予約席作っておけばよかったですね。
1 緊張してるだろうな。
2 しっ、出囃子が鳴るわ。

   出囃子が鳴る。4が高座に上る。しばらく聞いているが、

3 違う。
1 え?
3 ネタが違う。「長屋の花見」じゃない。
2 そう言えば。でもあんなに練習してたのに。
1 何しゃべってるのあの子、この大事な時に。
3 新作?
2 え?
3 新作かもしれない。
1 まさか。
4 私が今よりずっとずっと小さい頃、おばあちゃんも今よりはずっと元気で、私とおばあちゃんは毎 日のようにお散歩を楽しんでいました。
 向かいのけんちゃんはいっつもわたしのことぶつんだよ。
 だいじょうぶだいじょうぶ。
 くみちゃんは私に会うたびに顔をしかめるんだよ。
 だいじょうぶだいじょうぶ。
 おばあちゃんはいつもおまじないのようにつぶやくのでした。
 おばあちゃんはだいじょうぶばっかりだね。
 だいじょうぶだいじょうぶ。
 ほらまた。
 だいじょうぶだいじょうぶ。
 それは無理してみんなと仲良くしなくてもいいんだってことでした。
 だいじょうぶだいじょうぶ。
 それはたいていの病気やケガはいつか治るもんだってことでした。
 私とおばあちゃんは何度その言葉を繰り返したでしょう。
 私はなんども転んでケガをしました。でもそのたびにすっかり良くなりました。車にひかれることもなかったし、くみちゃんとも いつのまにか仲良くなりました。
 私はずいぶん大きくなりました。おばあちゃんはずいぶん歳をとりました。
 だからこんどは私の番です。
 おばあちゃんの手を握り、何度でも何度でも繰り返します。
 だいじょうぶだいじょうぶ。
 だいじょうぶだよおばあちゃん。

   客にお辞儀をしたまま、頭を上げられない4.

4 わたし、恐くて見られません。どうですか?おばあちゃん、笑ってますか?
1 …おばあちゃん、…笑ってない。
4 そうですよね。やっぱり無理ですよね、そう簡単に、
3 ううん、おばあちゃん、笑ってないけど、泣いてる。
4 え?
2 うん、おばあちゃん泣いてる。ハンカチで一生懸命涙をふいて。
3 あ、おばあちゃん、…笑った。
4 え?(顔をあげる)…おばあちゃん。

   追い出しの太鼓が鳴り響く中、幕が下りる。

参考文献

談志最後の落語論(梧桐書院)
一話三分落語ネタ入門(朝日書院)
現代落語の基礎知識(集英社)
柳家小三治の落語一~三(小学館文庫)
落語百選春~冬(ちくま文庫)
全身落語家読本(立川志らく)

次の作品の一部を引用しています。
「牛ほめ」(落語百選春~冬「ちくま文庫」)
「かぼちゃ屋」 〃
「だいじょうぶだいじょうぶ」(いとうひろし「講談社」)
Tags: 落語
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