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Posted by a-kasahara on 14.05.26 13:33
上演校名:宮城県古川高等学校
人数  :女子3名
上演時間:約60分

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母 四十歳くらい
姉  ヒカル 中学1年
妹  ナツミ 小学4年

  
  埴生の宿も わが宿
  玉のよそおい うらやまじ
  のどかなりや 春の空
  花はあるじ 鳥は友
  おお わが宿よ
  たのしとも たのもしや


   茶の間で妹が宿題をしている。奥から母親の声がする。

母 ナツミ、昨日、自主勉強しかやってなかったでしょ。
妹 え、やったよちゃんと。もんのすごく、完璧に、パーフェクトだよ。
母 今週は自主勉強と日記と両方やるんでしょ。
妹 ノーノーノー、あのね、二つやるんじゃなくてね、日記が自主勉強なんだよ。
母 お便りにはそうは書いてありませんでした。
妹 いいんだよ。それで。そうなんだもん。もう!

   母、出てきて、

母 見せてお便り。
妹 だってそうなんだもん。
母 そういう出し方でいいのかな?
妹 あ、はい。
母 ほら、ちゃんと書いてあるじゃない。自主勉強の他に日記も書きましょうって。
妹 お母さん、先生だって間違えることあるんだからね。
母 でも書いてあるから。
妹 ミスプリントっていうこともあるからね。
母 また都合のいいことばっかり言って。
妹 人はね、間違いを繰り返して成長するんだよお母さん。
母 ばかなこと言ってないで、さっさとやりなさい。
妹 あーあ、こうやって子どもの心は離れていくんだわ。
母 鉛筆!

   鉛筆を正しく持ち替える。

母 何度言っても直らないんだから。大人になっても直らないぞ。
妹 人はね、間違いを繰り返して成長するんだよお母さん。
母 繰り返し過ぎです。
母 今日はね、ご飯の支度がないから、ここで… 
妹 え、なんでご飯ないの?
母 もう、ないわけないでしょ。今日はお父さんいないから、
妹 え、どこ行ったの?
母 もう、だから昨日話したでしょ、ほんとなんにも聞いてないんだから。
妹 なんだっけ?
母 お父さん今日出張でお泊まりだから、たまには外食でもいいかなって。
妹 え、外で食べるの?
母 あれ、嫌なの?
妹 今日は7時からドラえもんだし、
母 録画してあげるわよ。
妹 何食べるの?
母 何でもいいわよ。好きなもの。お姉ちゃん帰ってきたら相談しなさい。
妹 えー、絶対決まらないよ。いつもそうだもん。
母 不思議ねえ。同じ家で育ったのに。
妹 ナツがさ、モスバーガーって言うとさ、えー、かっぱ寿司がいいなあって言うし。
母 我が家の外食もなかなかお手軽だね。
妹 この前テレビでね、
母 テレビ?
妹 髙嶋家の夏休みはホテルオークラって。
母 え?髙嶋家?ああ、髙嶋家ね。
妹 なに?髙嶋家って?お金持ち?
母 まあ、そうねえ、お金持ちだねえうちよりは、ちょっとね。
妹 そうか。うちも頑張って行けるといいねえ。ホテル。
母 そうだねえ。お父さんに頑張ってもらおうね。でも、ホテルオークラは無理かなあ、あ、ちょっと、もっと丁寧に書かないとだ めだってば。
妹 えー。
母 だって、ここは、こう、もっとこうまっすぐでしょ。
妹 あー、書いたー。
母 消せばいいでしょ、書き直せば。
妹 あー、消したー。
母 そんなこと言うならもう全部書き直し。
妹 あーーー、全部消したしー。あーあ、もうやる気なくなった。
母 お姉ちゃん帰ってくるまで終わらせてよ。
妹 こうやって子どもの心は離れていくんだわ。

   ぶつぶつと文句を言いながら書き直す。

妹 代表委員ね、
母 ん、ああ代表委員。
妹 ゆいちゃんがなった。
母 あら、そうなの。
妹 誰も手をあげなくて。
母 やってみたいって言ってたじゃない。
妹 ナツが言ったんじゃないよ。お父さんが、
母 お父さんが?
妹 やってみたらって。
母 お父さんの言うことはよく聞くのにねえ。
妹 そんなことないよ。誰か手を挙げたらナツも挙げようかなって思ったけど。
母 誰も挙げなかったの?
妹 そしたら、誰かがゆいちゃんがいいって言って。
母 そうかそうか。
妹 なっちゃん人気ないね。
母 そういうことじゃないでしょ。
妹 でも誰もナツのこと言ってくれないし。
母 たまたまでしょ、たまたま。
妹 どうやったら人気出るのかなあ。
母 小学生もなかなかたいへんね。
妹 そうだよ、小学生だってね、色々とつきあいがあるんだから。
母 つきあいって。
妹 お母さんも代表委員やったことある?
母 代表委員っていうのはなかったけど、
妹 そうなの。
母 たぶん学級委員って言ったと思うけど。
妹 ふーん、やったことあるの?
母 ないない。そういう人の前に立ったりするの苦手だったから。
妹 ナツも得意じゃないよ。でもお父さんが「何事も経験だ。」って言うから。
母 そうかそうか。
妹 お父さん、がっかりするかな。
母 そんなことないわよ。
妹 でも、…配布係だしなあ。
母 配布係になったの。
妹 うん。なんかね、代表委員のことで頭いっぱいでね、ぼんやりしてたらどんどん決まっちゃって。
母 配布係って3年生の時もやったよね。
妹 うん。
母 まあ、慣れた仕事だからいいじゃん。
妹 そうだけどさあ。めんどうくさいんだよ、結構。
母 そうなの。
妹 お便りとか配るのはいいんだけどね。順番にそろってないとさあ。
母 でも何人かいるんでしょ。
妹 四人。でも男子はね、女子にばっかり仕事させてさあ。ずるいんだよ。
母 ちゃんとやんなさいって言えばいいじゃん。
妹 そういうこと言うとさ、ナツミのナはナマイキのナとか言われちゃうしさ。
母 うん、なかなかうまいこと言うわね。
妹 感心してる場合じゃないでしょ、もう。
母 先生に言えばいいじゃない。
妹 だめだよそんなの。先生が注意したって全然平気なんだから。
母 そうなんだ。お母さん小学校の時は先生怖かったけどなあ。
妹 いいよね、配布係でも。
母 一生懸命やればそれでいいの。
妹 先生もそう言う。
母 それにお父さん、3年生の時も配布係だったなんて忘れてるし、きっと。
妹 それもそうだね。
母 遅いね。お姉ちゃん。

   姉、帰ってくる。

母 ちょっと、ただいまぐらい言いなさい。
姉 …ただいま。
母 はいお帰り、遅かったね。
姉 部室の掃除してきた。
妹 はいお帰り。今日の夕飯モスバーガーだよ。
姉 え、なんで外食なの?でも、だったらかっぱ寿司がいいな。
妹 ね。
母 ほんとだね。
姉 何?何の話?だからなんで外食?
母 もう、昨日言ったでしょ。もう、お母さん同じこと何度も言わなきゃいけないから疲れちゃうな。 
姉 何?何で帰ってきていきなり、怒られる感じになってるの?どういうこと?私何にも言ってないよ。
母 ちょっとちょっと、何大声出してるのよ。
姉 だって、私何もしてないのにどうして怒られるの?
母 別に怒ってる訳じゃないし、あなただけに言ってるわけでもないし。
妹 お姉ちゃん最近、機嫌悪いよね。
姉 そんなことない。
妹 でもなんか言うとすぐどなるし。
姉 どなってない。
母 はいはい。けんかは仲良しの証拠。
姉 けんかなんかしてない。
母 わかったから落ち着きなさい。
姉 ……。(黙って座る。)
母 順番に説明しないとだめでしょ。
妹 わかった。今週はね、自主勉強と日記と両方…
母 そこは飛ばしていいんじゃない?
妹 そっか、じゃ、あのね、今日お父さん出張でいないんだって。
姉 そんなこと知ってるわよ。昨日お母さんそう言ってたじゃない。
母 ごめん、お母さん…、そりゃそうよね、中学生だもんね。
妹 それでね、お母さんがね、夕食作るのめんどくさいから、どっかお外で食べるんだって。
母 めんどくさいとは言ってません。
姉 それならそうと言えばいいでしょ。いきなりモスバーガーって言われたって分からないわよ。でも、私、あんまり出かけたくな いんだけど。
母 あら、そうなの。
妹 あーあ、ご機嫌悪くなっちゃった。
姉 だって、雨降るよ。
母 あら、そう?
妹 どうせ車で行くんだから関係ないでしょ。
姉 家でいいじゃん。なんでもいいからさ。
妹 えー、だめだよ。何にも食べる物ないんだよ。何食べるんだよ。リッツとかしかないんだよ。リッツとかしか。
姉 別にリッツでいいじゃん。おいしいし、リッツ。
妹 だめだよ。リッツじゃお腹いっぱいにならないよ。
姉 お腹いっぱいリッツ食べればいいじゃん。
妹 そんなの飽きるよ。それに栄養のバランスも悪いし。リッツだけじゃ。
姉 こんな時ばっかりバランスとか言って。
妹 だってさ、だってさ。
母 いったい二人で何回リッツって言ってるの。あのね、外食にするつもりだったから、お買い物行ってないのよ。
姉 わ、わかったけど、とにかく帰ってきたばっかりだからさ。
母 ああ、ごめんね。
姉 ちょっと、とりあえず、置いてきていい?
母 ああ、うん。あ、手よく洗ってね。食中毒の季節だからね。
姉 もう小学生じゃないんだからさ、
母 ああ、ごめんごめん、これは?
姉 ああ、うん、それは。
母 そう。

   姉、一旦部屋に戻る。

妹 お姉ちゃん、最近すごく超機嫌悪いんだよ。
母 うん、そうね。でもそういう歳頃なのよ。
妹 そうなの?中学校になるとみんな機嫌悪くなるの?え?ナツもなるの?やだなあ。
母 まあ、みんなってわけじゃないけどさ、「嵐の時代」って言うからね。
妹 (うなづいて)…マツジュンとかね。やっぱりドS番長だからかな?
母 あ、そうじゃなくて、
妹 え、違うの?だって、にのみぃはいい人っぽいじゃん。
母 そうじゃなくて、心の中に嵐が吹き荒れる年代ってこと。
妹 あ、そういうこと。もう、お母さんたら。じゃあお姉ちゃんは台風だね。
母 うん、お母さんもそれは良く分かってるんだけど、つい怒っちゃうんだよなあ。
妹 でも、リッツはやだからね。
母 大丈夫。
妹 かっぱ寿司もやだからね。
母 あんただってお寿司好きじゃない。
妹 でも今日はやなの。ハンバーガーな気分なの。
母 マクドナルドの方が近いけど。
妹 モスバーガーなの。山ぶどうスカッシュも頼むの。あと、オニポテとサラダセットと、黒こしょうチキンとあったかプリンチーズスフレと、
母 そういうのを勉強に生かせないのかしらねえ。じゃあお姉ちゃん着替えたらすぐ出かけるからね。雨降るって言ってたし。(時計を見て)でも、ちょっと早いかな?
妹 もうお腹すいたよ。いつもの二倍勉強したから。
母 たまにはさあ、お母さんが好きな物にしない。いつも外でご飯食べるっていうと、子供の好きな物ってなるでしょう。
妹 え、オニポテは?
母 お母さんだってたまにはさあ、自分の好きな物食べてみたいなあ。
妹 えー、だって、お母さんの好きな物って、おそばでしょ、うどんでしょ、ラーメンでしょ。
母 スパゲティでもいいわよ。
妹 うーん、今日はあんまり麺類はなあ。
母 だめ?麺類。さっぱりと、こう、つるつるって。
妹 なんかお昼ご飯みたいだしなあ。
母 あら、そう?お昼におそばとかって多いかな。そうかな。
妹 一番多いのはパンでしょ。
母 ああ、まあそりゃあねえ。
妹 あと、あれ、焼きそば。
母 た、確かに。簡単なのよね。野菜も一気に食べられるし。
妹 焼きそばちょっとだけ苦手だな。
母 そうだったの?好きなのかと思ってたよ。それならそうと言ってくれればいいのに。
妹 だって、食べ物のことで色々言っちゃいけないって。お父さんいっつも。
母 まあそれも大切なことなんだけどさ。ちょっとお母さんも、反省っていうか、もう一工夫って所あるからさ。

   姉戻ってくる。

母 ずいぶんかかったわね、って、あれ、何してるの?どうして着替えてないの?
姉 このまま行ってもいいかな?
母 っていうか、部屋戻って何してたの?
姉 あ、借りてきた本を、ちょっと。
母 えー、制服で行くの?ご飯食べに行くんだよ。どうかなあ、汚さない?ケチャップとか。
妹 (笑顔で)モスバーガーだね。
姉 なんか着替えるのめんどくさいし。着替えても、どうせ雨降るし。
母 でもさあ制服だとさ、まだ家に帰ってませんみたいな感じに見えるじゃない。どうなのかなあ、それ。
姉 だって家の人と一緒にいるんだから、別に。
母 それはそうなんだけど。制服でご飯ってなんか違和感あるなあ。
姉 じゃ、面倒くさいから行かない。
妹 えー、
母 また、すぐそうやって言う。
妹 行かないの?なんで?どうして?なんでお姉ちゃんのせいでナツも行けなくなるの?ねえ。
姉 二人で行ってくればいいじゃん。
母 そういうわけにはいかないわよ。
姉 大丈夫だって。
妹 これも嵐なの?お母さん。
姉 なんの話し?
妹 もう、二人で行こう。お姉ちゃんがいいって言ってるんだから。
母 あんたも冷たいわね。だって何も食べるものないんだよ。
姉 コンビニで買ってくるからいいよ。
妹 もう、絶対、かならずこうなるんだから。
母 お願いだから今日は妹のお願いを聞いてやってくれない?
姉 もう、じゃあ、このままでいいなら行く。
母 そうやって条件出すのは卑怯なやり方だぞ。
姉 勉強してからゲームっていうのは条件じゃないの?
母 はいはいわかりました。そのかわり制服汚さないでよ。夏のブラウス貴重なんだから。
姉 はいはい。
妹 じゃあ行こう。お姉ちゃんの気が変わらないうちに早く行こう。
 お姉ちゃんの希望は聞いたんだからね。希望は一つにしてね。
姉 そんなのいつ決まったの?
妹 それに今日はナツの希望じゃなくて、お母さんの希望だからね。
母 え?
妹 おそばが好きだけど今日はなんだかモスバーガーが食べたい気分だわねえ。って言ったんだから。
姉 誰が?
妹 お母さんに決まってるでしょ。
姉 絶対言ってないから。
妹 あ、そうやって人の言ったことを疑うのはいけないと思いまーす。
姉 うそつくのはもっといけないと思いまーす。お母さんが「だわねえ」なんて言うわけないでしょ。
母 ぷっ。
妹 ほら、お母さん、もう、笑ったらだめだって、せっかくさあ。
母 ということだからさ、ね。
姉 わかったよ。いいよ、それで。

   急に部屋の灯りが点滅する。

妹 あれ、電気が。
母 なに?なに?
姉 停電?なんで?なんでこのタイミング?あー、

   真っ暗になる。

妹 えーん、何にも見えないよー。
母 危ないから動かないでね。むやみに歩き回らないでよ。今懐中電灯持ってくるからね。頭ぶつけないように、その場に座ってなさいよ。
姉 お母さんわかるの?懐中電灯。
母 大丈夫大丈夫まかせておいて、台所のこっち側の壁にある戸棚の、…痛い。
妹 大丈夫?お母さん。
母 いたたたた、うん、大丈夫だから、ちょとぶつけただけ、足の小指をね、あー痛い。
姉 お母さん、私探してこようか?
母 大丈夫大丈夫。じっとしてて。
姉 お母さんがじっとしてるほうがいいんじゃないの?
母 大丈夫、手探りでもね、ちゃんと、ほら今ね、戸棚の引き出しの取っ手をね、引っ張って、あれ、引っ張ってるんだけど、あれ、動かないな。何か引っかかってるかな?
姉 お母さんが今つかんでるの。もしかすると引き出しの取っ手じゃなくて、タオル掛けかもしれないからね。
母 …あ。
姉 やっぱり間違えたのね。お母さんたら。
妹 お母さん、やっぱりタオル掛けだって。
母 分かったわよ。これがタオル掛けなんだから、ここから横に移動して、
姉 あ、お母さん、上の戸棚が開いてると頭を、
母 い、痛い。
姉 だから気をつけてって言ったのに。
妹 お母さん、またぶつけちゃったの?
母 痛いなあもう、もうちょっと早く言ってよ。
姉 真っ暗なんだからゆっくり歩けばいいでしょ。
妹 ゆっくり歩くといいんだって。
母 あ、あった。

   懐中電灯がつく。母戻って来て、

母 大丈夫?
姉 お母さんがね。
母 …そ、そうね。ちょっとブレーカー見てくるね。
姉 ねえ、外見てくれる?
妹 うん、…なんで私?
姉 いいから。
妹 真っ暗だよ。
姉 うちだけじゃないみたいね。
母 うちだけじゃないみたいね。
妹 えー、ご飯どうするのさ?
母 まあしばらく待ってみよう。すぐつくって。
妹 そうだね。(時計を照らして)まだ早いしね。
姉 家でリッツでいいよ。
妹 絶対やだからね。
母 まあ、とにかく待とう。
姉 私、もうちょっと明かり持ってくる。これじゃあんまりでしょ。…借りてくね。
妹 あ、うん。ナツの部屋のライトも持ってきてね。電池使わないエコな奴ね。
姉 了解。了解。

   姉、灯りを探しに行く。

妹 このままずっと停電だったらどうなるの?
母 まあずっとってこともないでしょうけど。
妹 電気が来ないとモスバーガーはやってないよね。
母 うん、やってないだろうね。
妹 お寿司もだめだよね。
母 だめだろうね。回るお寿司は余計にだめだね。
妹 コンビニもやってないよね。
母 うーん、コンビニはどうかなあ?でもレジとか電気だもんね。
妹 そろばんとかないしね。あ、あと暖めますかっていうの出来ないしね。あ、アイスも溶けちゃうね。
母 もったいないから行って食べてあげたいね、アイス。
妹 でも真っ暗だとなんか味がわかんなくておいしくないかも。
母 そうかもね。
妹 ってことはさ、
母 ってことは?
妹 このままずっと停電だったらなに食べればいいの?
母 だからさっき言ったけどさ、冷蔵庫カラだし。
妹 リッツはいやだー。
母 まだリッツと決まったわけじゃないから。あと、あ、ほら牛乳もあるしね。

   姉、たくさんのライトを持って戻ってくる。

姉 なに騒いでるのよちょっと暗くなっただけでしょ。
妹 だってだってリッツが。
姉 リッツに恨みでもあるの?ほら持ってきてあげたから。
妹 ありがとう。お姉ちゃん、なんか洞窟探検の人みたいだね。かっこいい。
姉 外見たけど、やっぱりどこもついてないね。信号も消えてるし。
母 え、信号も?そういえば夕方からカミナリ鳴ってたね。
姉 どこかに落ちたのかなあ。
妹 ほら、ナツのは電池いらないんだよ。エコでしょ。
母 ずいぶんあるのね。
姉 お父さんがこの前の地震の後にそろえたみたい。役に立ったね。
妹 なに?そのランプみたいなやつ。
姉 ランタンっていうんだって。キャンプの時とかに使うやつ。
妹 それって電池?
母 そんなのまで買ってあったの?
姉 えーっと、あ、これか。

   ランタンの明かりがつく。

妹 わ、明るい。
母 ほんと明るいわね。
妹 あーあ、モスバーガーだったのにさ。
母 まあ、もうちょっと待ってみようよ。あきらめないでさ。
妹 もうお腹すきすぎだし。
姉 なんかほんとにキャンプみたいだね。
母 キャンプっていえば、今年の4年生はどこ行くの?キャンプ。
姉 私たちの時と同じ所?
妹 なんかね、去年の所は使えなくなったからなんか別の所に行くんだって。

   雷の音。

妹 きゃー。
姉 あ、カミナリ。
母 やっぱりカミナリのせいかな。
妹 落ちる?
姉 大丈夫、まだだいぶ遠いから。
妹 なんで遠いってわかるの?
姉 ピカッと光ってしばらくしてから音が鳴ったでしょ。音が遅れて聞こえるって事は遠くで鳴っているっていう証拠よ。
妹 なんで音だけ遅れて聞こえるの?
姉 光の進むスピードより、音の進むスピードのほうがずっと遅いからよ。
妹 え?光ってそんなに速いの?
姉 だって、たとえばこうやって(懐中電灯を持つ)いい、はいって言ったらつけるからね。
妹 うん。
姉 はい。(懐中電灯をつける)
母 まぶしい。
妹 あはは。
母 もう、なんで人の顔照らすのよ。
姉 ね、光はほとんど一瞬で届くのよ。
妹 でも声も同時に聞こえたよ。
姉 それは近くだからよ。
妹 そうか。
姉 何キロも離れたら、必ずさっきみたいに音の方が遅れるの。
妹 へえ、お姉ちゃん、もの知りだね。
母 中学生だもん。
妹 でも何キロも離れたら、光も声も届かないよね。
姉 だからカミナリは、ものすごい音で鳴ってるってことよ。
妹 もう、びっくりした。
姉 相変わらず怖がりだね。
妹 じゃあ星もさ。
姉 え?なに?
妹 星もすごく遠くにあるんだからさ、すごい明るさで光ってるってこと?
姉 うん、まあね。太陽見たらわかるよね。
妹 ああ。どれぐらい離れてる?
姉 月の400倍。
妹 えー400倍?
姉 月までは光の速さで2秒でいけるけど、太陽までは8分もかかるんだよ。
妹 光って速いね。
姉 でも逆に考えると、太陽の光が地球に届くには、8分もかかるんだから、今見えてる太陽の光は、実は8分前の太陽の光ってい うことになるんだよね。
母 そうか、なるほど。
妹 え、どういうこと。ん?

   雨の音。

姉 雨、降ってきた。
母 結構強いかも。
姉 予報通りだね。
母 あらそうだったの?
姉 台風来るっていってたじゃない、昨日から。
妹 え、台風?…台風も嫌い。
母 あー、ちょっと天気予報見逃してたわねえ。
姉 仮面ライダーは見逃さないのに、天気予報は見逃すのね。
母 まあまあ。
妹 台風の日に、外食って。
母 …まあまあ。
姉 だから行きたくないって言ってたのに。
母 言ってくれればいいのに。
姉 分かってると思うでしょ普通。大人なんだから。

   雨の音強くなる。

妹 強くなってきたよ雨。
母 しょうがない。あきらめるか。
姉 リッツ持ってくる?
妹 あーあ、結局リッツになっちゃった。
母 じゃあ、天気予報見逃したお詫びに、おにぎりでいい?
妹 おにぎりどうするの?買ってくるの?
母 作るのよ。
妹 えー、だって電気つかないんだよ。ご飯炊けないじゃない。
母 大丈夫まかせておいて。電気がなくたっておにぎりぐらいできますからね。
二人 おお。
母 でも少々お時間をいただきます。
妹 え、どうやって作るの?ねえ。
姉 シャケにしてね、シャケ。
母 了解。
妹 ナツはツナマヨねツナマヨ。
母 了解。じゃあちょっと手伝ってもらおうかな。
妹 ねえ、どうやって作るのさ。ねえ、ねえねえ。

   母親は台所へ、後を追う妹。
   暗転
   明かりつくと、食事は終わっている。

姉 食べ過ぎ。
妹 ちょっとご飯柔らかかったけどね。
母 まあまあ。そう贅沢言わないで。
妹 おいしかったよ。良かったねリッツにならなくて。
姉 私、お鍋でご飯炊くの見たの初めて。炊けるんだね。
母 だってほらキャンプでも。
姉 ああ、そうか。はんごうだっけ?
母 そうそう。電気がなくたってご飯ぐらい炊けるんだから。
妹 ガスボンベが切れてなくて良かったね。
姉 やっぱり日本人はお米だわ。
妹 ナツ、パンでもいいけど。っていうかパンのほうがすき。
母 おいしいのりをもらってたのがあって良かったわ。

   しばしの間

妹 暇だなあ。
姉 停電なんだから暇ってことないでしょ。
妹 だって暇なんだもん。テレビもないし。
姉 ゲーム、あ、ダメだ、充電してない。
妹 しりとりしよう。
姉 しなくていいよ。
妹 またそうやってさ。
母 やってあげればいいでしょ。
姉 はいはいどうぞ。
妹 じゃあね、しりとり。
姉 リンカーン。
妹 だめじゃん。
姉 んがついたら終わりでしょ。
妹 だからしりとりなんだからさ、りすとかさ、
姉 りす、すっぽん。
妹 …、スイカ。
姉 カレーパン。
妹 カメラ。
姉 ライオン。
妹 ラッパ。
姉 パソコン。
妹 パンダ。
姉 だいこん。
妹 ダイヤモンド。
姉 どきんちゃん。
妹 (荒い息づかい)おねえちゃんのいじわる。
母 あんたたち、二人とも薬飲みなさいよ。
二人 はーい。
母 なっちゃんもね。優しく言われているうちに動こうね。
妹 はーい。

   二人、台所へ。

姉 う、冷たい。なんか水こぼれてるよ。
妹 お母さん、冷蔵庫のとこ水が垂れているよ。
母 誰かこぼしたんじゃないの?
姉 お母さん、氷じゃない、氷。
母 あ、そうか。

   二人戻ってくる。入れ替わりに母台所へ。

母 氷溶けてないよ。やっぱり誰かこぼしたんだよ水。
姉 でも溶けちゃうでしょ、そのうち。
妹 ねえねえ、このままずっと暗いままだったらどうしよう。
姉 ずっとってことないでしょ。夜が明ければ明るくなるんだから。
妹 そか、あ、なんかちょっと安心。

   母戻ってくる。

母 あれ、お姉ちゃんはなにしてるの?
姉 あ、うん、宿題しようかなって。
妹 えー、だって停電だよ。
姉 だって宿題あるし、今度英語のテストもあるし。
妹 休みだよ明日。それに停電なんだから勉強なんかしなくたって怒られないよ。
母 そうだよ。
姉 怒られるとかじゃなくて。
妹 まじめだなあ、だからまじめちゃんとか言われるんだよ。
姉 そんなこと言われてない。
妹 だってナオキ君のお姉ちゃんが言ってたって。
姉 そんなこと言われてない、言われてない。いいよ、やらないから、やんなきゃいいんでしょ。
母 そんなに怒らなくたっていいでしょ。
姉 だってナツミが変なこと言うから。
妹 変なことじゃないよ。ほんとのこと言っただけだよ。
姉 やめてったら、人の嫌がること言うの。
母 やめなさい、おねえちゃんいやだって言ってるでしょ。
妹 …だって、だって。…ごめん。
母 でも、ほんと無理することないと思うよ。こんな暗がりでやったら、目悪くするよ。
姉 分かった分かった。うん、やらないから大丈夫。ごめん、大きな声出して。
妹 お父さんに電話しなくて大丈夫?
母 そうだね、一応連絡しておくか。その間に歯磨き終わらせておいてね。
二人 はーい。

   父に電話する母。二人は洗面所へ。

妹 さっきはごめん。
姉 いいよ別に。
妹 今日さあ、
姉 なに?
妹 お姉ちゃんの部屋で寝ていい?
姉 なんで?
妹 なんでっていうかさあ、
姉 怖いの?一人で寝るの。
妹 別に怖くないけどさ、停電だしさ、何かあったら困るじゃん。
姉 何かって?
妹 泥棒が入るとかさ。
姉 泥棒は停電でも停電じゃなくても関係ないでしょ。
妹 急に地震がくるとかさ。
姉 まあね。
妹 おばけが、
姉 おばけ?
妹 この間ね、スズカちゃんがね、金縛りにあってね。きゃー。
姉 そういうこと割と信じてる訳ね。
妹 だってスズカちゃんね、目をあけたらさ。きゃー。
姉 わかったわよ。でも、私の部屋っていったって、みんなベッドじゃない。
妹 いいよ床にマット引いて寝れば。
姉 寝る時間違うしなあ。
妹 いいじゃんいいじゃんたまにはさあ。
姉 お母さんと寝ればいいじゃない。
妹 まあそれでもいいけどさあ。ちょっと恥ずかしいじゃん、お母さんに言うのは。
姉 ふーん、あんたもそういうのが少し恥ずかしくなってきたわけね。

   二人戻ってくる。母、電話を切って、

母 ラジオを探せって。
姉 なに?
母 お父さんが、ラジオを探して台風情報聞いておきなさいって。
 近づいてるんだって。
姉 「だって」って。もうほんとにのんびりしてるよね。いっつも。
母 だからうっかり見逃しただけでしょ。
姉 私、誰に似たんだろう?
妹 お父さんじゃない。なんか細かいし、色々。
母 A型同士だしね。
妹 よし、じゃあラジオ探そう。どこ?
母 私に聞く?
姉 ラジオは知らない。
母 えーっとねえ。だいぶ前に一回見掛けたんだよね。おじいちゃんの所からもらったやつが確か、
妹 お母さんの確かはちょっと信用できないよね。
母 失礼な、確かね。お姉ちゃんの部屋の、
姉 なんで私の部屋にあるの?
母 いちばん片付いてて、余裕があるから。
姉 なるほどね。それで私の部屋には見慣れない荷物があるわけね。
母 探してくるね。
姉 あ、私行く。怪我されると困るから。
母 いいよ。
姉 そうじゃなくて、…いろいろといじられるの困るから。
母 ああそう、わかった。あのね、クローゼットの上の棚のダンボールに入ってると思うから。
姉 クローゼットの上の棚ね。
母 うん、確か。
姉 確か、ね。

   姉、ラジオを探しに行く。

妹 ねえ、お母さん。
母 なに?
妹 今日さあ、
母 なに?
妹 えーっと。
母 なに?
妹 えっとね。
母 なに?早く言いなさいよ。あ、またなんか忘れて先生に怒られた?
妹 そうじゃないよ。
母 だったらなに?
妹 今日、停電じゃない。
母 うん。
妹 こんな時にさ。地震が来たら怖いよね。
母 そうだね。
妹 あと、泥棒がさ、
母 泥棒?
妹 こんな時に泥棒が入ったらさ。
母 泥棒はいつ入っても怖いけどね。
妹 それはそうだけどさ。こんな暗いところに入ってきたらさ、余計に怖いでしょ。絶対に。
母 まあそうだけど、ちゃんと戸締まりしてあるから大丈夫だよ。
妹 お父さんいないんだからね!
母 なに怒ってるの?
妹 怒ってるんじゃないけど。
母 だからなにって、さっきから。
妹 おばけが、
母 おばけ?
妹 おばけ怖くないの?
母 ああ、おばけは、まあ怖いけど。
妹 でしょ、そんな時にさ、二人でいればさ、
母 二人でいれば?
妹 お互いに励ましあったりしてさ、
母 励ますの?
妹 うん。
母 おばけの前で?
妹 頑張れーって。
母 えー。
妹 ファイト!でもいいけど。
母 えー。
妹 もう、お母さんたら、そうやって子供の心は離れていくんだからね。
母 (笑いながら)分かった分かった。
妹 いいの?
母 ナツも3年生から一人で部屋で寝てるんだもんね。それまでは一緒に寝てたんだもんね。
妹 さっきおねえちゃんにも頼んだんだけどさ。
母 そうだったの。
妹 お母さんに頼めばって言われたから。
母 そうかそうか。だったらさ、今日はみんなで一緒に寝ようか?
妹 みんなで?
母 なかなかこんな機会もないしさ。
妹 お姉ちゃんいやだって言うよきっと。
母 そうかな。
妹 だって一人がいいって言ってるし、さっきもいいよって言わなかったし。寝る時間も違うし。
母 たまにはいいじゃない。停電だから今日はどうせ何もできないよ。

   姉、ラジオを持って戻ってくる。

姉 遠慮しておくよ。それに狭いし。
母 聞いてたの?いいじゃない別に。
姉 ナツミとお母さんが一緒に寝ればいいじゃない。私はいいよ。
母 なっちゃんの言うとおりでさ、何かあった時、一カ所にいたほうがいいと思うけどなあ。
姉 はい、ラジオ。
母 ほら、風の音も大きくなってきたような気もするし。
姉 電池切れてるみたいだよ。
母 えーっと、電池は確か、大丈夫、電池は私が持ってくるから。
姉 うん、じゃあ、持ってきて。

   母、電池を探しに行く。

姉 なんで三人一緒?
妹 ナツが言ったんじゃないよ。お母さんが急に三人一緒に寝ようかって?
姉 小学生じゃないんだからさ。
妹 でもお姉ちゃんも小さい頃は一緒に寝てたんでしょ。
姉 そりゃ小さい頃はね。あ、でも4年生の頃もまだ同じ部屋で寝てたかも。
妹 あ、ナツより遅い。ナツなんか3年生から一人だよ、3年生から。
姉 だってあの頃はまだ自分の部屋なかったし。
妹 そうか。2年生の時か、リフォーム。
姉 うんうん。
妹 もしかしたら、お母さんがさみしいのかな?
姉 お母さんが?
妹 うん。

   母戻ってくる。

母 これって単いくつ?単3?
姉 たぶん単3。
母 じゃあこれ、電池ね。
姉 お母さん、これ単4。
母 あら、そう?
姉 リモコンとかに入ってるやつ。やっぱり私持ってくるから。
母 昔は単4なんてなかったのよ。細い電池は単3って。

   姉、電池を取りにいく。

母 そういえばちょっと細いかなあ。
妹 おねえちゃん小学生じゃないからいいって。
母 なに?
妹 三人で寝るっていったでしょ。
母 そうだよね、中学生だもんね。
妹 お母さん。
母 ん?
妹 …なんでもない。
母 なによ。
妹 うん、何でもない。
母 変な子。

   姉、戻ってくる。

姉 はい、これが単3電池。しかもエネループ。
母 何本入れればいいの。
姉 えーっと3本かな。これで、よしと。ん?…ん?あ、聞こえた。

   ラジオから音楽が流れ出す。

妹 天気予報やらないね。
母 今何時?
姉 8時半。
妹 えー、もう8時半?
母 あれからご飯炊いて、おにぎり握ってだからね。
妹 いつもだと何してる時間かな?
姉 えーっとお風呂入って、歯磨きして、
妹 お母さんが「早くしなさーい」って怒鳴ってると、お父さんが帰ってくる。
姉 今日はもう歯磨き終わっちゃったね。
妹 お風呂ないし。
母 二人が部屋に行く時間だよね。8時半。
妹 ナツはその後、時間割をそろえるでしょ。
母 言われてからね。
妹 鉛筆削るでしょ。
母 言われてからね。
姉 やってないのにやったって言って怒られてる時あるよね。
妹 たまにでしょ、たまに。
姉 私は勉強。
母 お姉ちゃんは取りかかりが早くて楽だわ。
妹 はいはいどうせナツは遅いです。
母 あえて否定はしません。
妹 それから本を読む。
姉 中学校になったら、宿題多すぎて、本読む時間がとれなくて。
母 夜は本を読む時間だったのにね。
姉 今なに読んでる?
妹 ドリトル先生
姉 ドリトル先生のなに?
妹 アフリカゆき。
姉 なんだまだ一番最初じゃない。月のシリーズがおもしろいよ。
妹 月の?
姉 月からの使い、月へ行く、月から帰る
母 なんか共通の話題があってうらやましいなあ。
妹 だってナツの本棚にある本は全部お姉ちゃんが読んだ本だもん。
母 私も何か借りて読んでみようかな、なにがいい?
姉 ロアルドダールがおもしろいよ。
妹 おもしろいよね。
母 初めて聞いた。
姉 あの、映画であったじゃない、チョコレート工場の秘密って、
母 ああ、うんうん。
姉 あれの原作。
母 そうなんだ。
姉 寝るにはちょっと早いよねいくら何でも。
妹 結局寝るまでつかなかったね、電気。
母 どうなってるんだろうね。台風も心配だし。
姉 9時前に天気予報やるかも。
母 ねえ。
姉 なに?
母 二人とも枕持っておいでよ。
姉 え?
母 いいから持っておいでよ。たまにはお母さんの頼みも聞いて。
姉 …。うん、分かった。
母 あと、今まで読んで一番面白かった本。
妹 何、それ?
母 この明かりだったら頑張れば読めそうじゃない。せっかく時間あるんだしさ。
妹 今読んでる本じゃなくて?前に読んだ本を持ってくるの?
母 うん、今までで自分が一番面白いと思った本。お母さん二人からそれを借りて読むから。
妹 うん、わかった。
母 お姉ちゃんも、いい?
姉 一番かあ、難しいなあ。
母 ほらナツも。
妹 一番でしょ、うーん迷うかも。
母 じゃあ3分後に集合。
二人 はーい。

   暗転
   明かりつくと、すでに布団が敷いてある。

母 持ってきた?
妹 せーので出そう。
姉 えー、そういうのやめない。後にしようよ後に。
母 お母さんも持ってきたよ。
妹 え、お母さんも持ってきたの?何?何?
母 あ、天気予報やるみたい。

   天気予報流れる。

母 それたみたいだね。
姉 でもまだ雨降ってるけど。
母 でも風はなんとなく弱まったような、あ、そうでもないか。
妹 なーんだ、明日休みになるかもって思ってたのに。
姉 明日休みじゃん。
妹 あ、ドラえもん見逃したから気づかなかった。
姉 なんかこういうのって修学旅行みたいだね。
妹 修学旅行ってこんなの?
姉 うん。でね、消灯時間過ぎてもさ。
妹 消灯時間ってなに?
姉 9時になると先生が回ってきて、点呼を取って電気を消す。
妹 お母さんの時もあった?修学旅行。
母 あったあった。
姉 どこ行ったの?
母 小学校の時はね。えーっとどこだっけな、あ、山形だったかな?あれ?東京?
姉 東京は中学校じゃない。
母 そうか、東京は中学校か。
妹 山形って、山形のおばあちゃんの山形だよね。
姉 まあ山形って言っても広いけどね。
母 あ、思い出してきた。湯野浜温泉っていう所に泊まった。
妹 温泉に泊まるの?すごいね。
母 日本海って夕日が沈むじゃない。
姉 ああ。
妹 そりゃあ夕日は沈むでしょ。朝日は昇る。当たり前。
姉 そうじゃなくてね。
母 海に夕日が沈むのが見えるのよ。初めて見たんだけど、
妹 きれいだった?
母 きれいって言えばきれいなんだけど。あんなにあんなに赤く燃えるような夕日をみたことがなかったから、なんだか少し気味が悪くなって。
妹 夕暮れってなんで寂しくなるんだろうね。
姉 そう?寂しくなる?
妹 なるよ。なんか胸の奥が、ちょっと息が苦しいみたいになって。
母 うんうん。
妹 息を吸い込むんだけど、うまく吸い込めなくて。
母 そうかナツミもそんな気持ちで夕日を眺めることあるんだ。
妹 お姉ちゃんはないの?
姉 別に、だいたい帰りの時間はもうすっかり暗くなってるし。
母 そうだね。中学生になったら急に帰りも遅くなったし。
姉 部活動あるしね。
母 そういえば、どうなったの?
姉 何の話し?
母 ほら、楽器変わるっていう、
姉 ああ。うん。いいんだ。
母 でも最初はお手伝いって。
姉 うん、そうだったんだけどさ。パーカッションも人数欲しいみたいでさ。
母 でもせっかくクラリネットに決まったのに。
姉 うん、でもたくさんいるし、私そんなにうまくないし。
母 でもさあ。
妹 お姉ちゃん、やりたかったんじゃないの?
姉 うん、もともとこれがやりたいっていうのもなかったし。パーカッションも面白いしね。
母 あなたがそれでいいならお母さんは何も言わないけど。
姉 いいって言ってるじゃない。私がいいんだからいいでしょ。…………ごめん、また大きな声だしちゃった。ごめん。
母 いいよ、あやまらなくて。
姉 私、一等星じゃないから。
母 何?一等星って。

   しばしの間。
妹 ねえねえ、本、何持ってきたの?ねえ。
姉 だからあとにしようってば。
妹 だってもうちょっと眠くなってきたし。
姉 ナツはお子ちゃまだな、まだ。
妹 おこちゃまじゃない。(思わずあくびをする)
母 ほらほら。
姉 先に寝ていいよ。
妹 だから本だってば。
母 しょうがないなあ、じゃあ最初はお母さんから。はい。
二人 ん?
妹 何よ、本じゃないじゃない。アルバム?
母 まあいいじゃない。
妹 これだれ?ナツ?
母 それはお姉ちゃん。
姉 あれ?そうかな。
母 お母さんが見間違えるわけないでしょ。
妹 でも似てるね。
母 二人とも、残念ながらお父さんにそっくり。
妹 残念なの?
母 うーん、そうねえ、部分的にちょっと残念なところもあるかな。
妹 えー。
姉 でも、髪の毛はお母さんそっくりだよ。
母 そうだねえ、お母さんの髪の毛そっくりだねえ二人とも。
妹 そんなのあたりまえじゃん。お父さんそっくりだったらどうするのよ。
全員 あははは。
姉 よかったねえ、お父さんに頭は似なくて。
妹 似てたらこうだよ、こう。
母 それ絶対お父さんの前で言っちゃだめだよ。
妹 あ、何?この写真。お母さんの車が今と違う。
母 ああ、前の車ね。ずいぶん前だねえ。
妹 黄色くてかわいいねえ。この車もうないの?
母 お母さんも好きだったんだけど、だんだん古くなって調子が悪くなって。
妹 動かなくなる?
母 うん、動かなくなる。
妹 動かなくなったら、棄てちゃう?
母 棄てる訳じゃないけど、まあ新しいのに取り替えるかな。
妹 山形のおばあちゃんも調子悪いって。
姉 ちょっと、おばあちゃんと車を一緒にしちゃだめでしょ。
母 あなた何か変なこと心配してない?
妹 変じゃないよ。人間だっていつかは動かなくなるんでしょ。
母 それは、
妹 でも人は取り替えられないでしょ。
母 そうだね。
妹 あの日、
姉 ん?
妹 ……あの日、みんなも、こんな話してたのかな?
母 どうだろうね。
妹 しりとりしたかな。
母 うん、してたかもね。
妹 怖かったろうね。
母 そうだね、怖かっただろうね。

   しばしの間

姉 ねえ、お父さんとお母さんが子どもの頃の写真見せてよ。
母 見たことなかったっけ?
妹 ないない。お父さんなんか絶対見せないって言ってたし。
姉 どこにあるかはわかるんでしょ、確か。
母 うん、確かねえ、よーし、女同士の秘密だぞ。
妹 わーい、なんかわくわくするねえ。
母 じゃあ取ってくるね。

   母、アルバムを取りに行く。

妹 楽しみだね。
姉 お父さんには絶対秘密だからね。
妹 女同士の秘密だからね。あ、ガールズトークだからね。
姉 あんた意味分かって言ってる?

   母、戻ってくる。

母 あったよあったよ。
妹 見よう見よう。
母 じゃあ、まずお母さんの写真から。
妹 早く早く。

   アルバムを開く。

母 くれぐれもこのことは秘密だからね。
二人 しーっ。
母 えーっとお母さんは4組だから、さあ、どこにいるかわかるかな?
妹 えー、ぜんぜん分かんないし。
姉 私見つけた。
妹 えー、いないよ。
母 一番後ろの列かなあ。
妹 えー、いないってば。
姉 (指さして)これよ。
妹 (見比べて)えー、えーー、えーー?
母 あんまり驚かれるとなんかちょっと複雑な気持ちね。
妹 だって、わかんないよ。全然。
姉 これって高校生の時の写真?
母 そうそう、卒業アルバム。
妹 お母さん、若いね。
姉 当たり前でしょ。高校生だもん。
妹 お母さんも高校生だったんだ。
母 そんな大昔のことみたいに言わないでね。
妹 早く早く、お父さんのも見ようよ。
母 お母さんも見るの初めてよ。どきどきするね。
妹 女同士の秘密だからね。
母 お父さん何組だったのかなあ。
姉 あれ、なんか今名前が、
母 あった?
姉 前のページ。
母 どれどれ。
妹 あ!
姉 あ!
母 あ!誰これ?
妹 髪が、
全員 ある!
全員 あはははははは。
全員(顔を見合わせて)あははは、ある、髪がある。ばんざーい、ばんざーい。あはははは。

   アルバムを閉じて、

妹 良かったねえ髪あって。
母 そりゃそうでしょ高校生だもん。
姉 一瞬違う人に見えるんだけど、よく見るとどうみてもお父さんなところが面白い。
母 まずいなあ、お父さん帰ってきた時思い出して笑っちゃうよ。
姉 絶対吹き出す。
妹 だめだよ笑っちゃ。
母 もう一回だけ、見る?
妹 見よう見よう。
姉 女同士の誓いね。
母 秘密じゃなかったっけ?

   もう一度アルバムを開く。

全員 くくくく、あははは。
母 ちょっと、停電なのにこんなに笑ってるのおかしいからね。
妹 だってだって。
姉 もうしまおう。
母 うんうん。あーおかしかった。ちゃんと元の所にしまっておかなきゃね。
妹 あのね、お母さん。
母 なに?
妹 お父さんと初めてあった時、まだ髪あった?
姉 だから、その話題から離れよう。
母 うん、今よりはだいぶあったかな。
妹 最初見た時、どう思った?
母 なんか不機嫌そうな人だなあって思った。笑った顔なんか見たことなかったし。
姉 今と同じだね。
母 そういうとこは変わらないね。
妹 じゃあなんでお父さんのこと好きになったの?
母 うーん、なんでだろうねえ。
妹 はじめて会った時、この人と結婚するって思った?
母 思わないわよ。全然。
妹 でも結婚したんだよね。
母 不思議だね。
妹 でも結婚して良かったね。
母 良かったよ。だから二人に会えたしね。
姉 私たちが生まれた時のこと覚えてる。
妹 生まれて初めて顔見た時、どう思った?
母 おさるの子かと思った。
妹 えー。
姉 ひど。
妹 うれしかった?
母 そりゃあもちろんうれしかったわよ。でもね、少し寂しい気もしたの。
姉 どうして?なんで寂しいと思ったの?
母 だってずっとお腹の中にいたじゃない。お母さんの体の中にいたんだもん。
妹 そうだね。
母 ああ、もうお腹の中にはいないんだなと思ったらなんか少し寂しい気がしたのよ。
妹 そうかあ。
姉 お父さんはそういうの分かんないよね。
母 それはしょうがないよ。でも、そうだね、お母さんしか分からないんだね。
妹 お父さんと会えてよかったね。
母 そうだね。
妹 私たちにも会えてよかったね。
母 そうだね。

   しばしの間。

母 そろそろ寝ないと。
妹 私たちの本がまだじゃない。
母 明日にしない?
姉 もう。自分が持っておいでって言ったくせに。
母 わかったわかった。
妹 じゃあさ、いっせーのせで出そう。
姉 あのさ、別にそういう出し方しなくてもいいでしょ。普通に出せば。
母 まあまあ、やってあげればいいじゃん。それでは発表します。二〇一一年、家族が選ぶ感動の本ベスト1は?はい、どうぞ。
妹 あ。
姉 あ。
母 あ。
妹 何で二冊あるの?
姉 (妹に)覚えてないの?
母 (姉に)覚えてるの?
姉 一冊あるからいいでしょっていったのに、それはお姉ちゃんのだから、私のが欲しいって。
妹 だってナツは何でも何でもお姉ちゃんのお下がりだからさ。
姉 でも、二人ともこの本を選ぶなんてね。お母さんこそ、この本覚えてる。
母 忘れるわけないでしょ。いったい何百回読まされたか。二人とも。
妹 だっておかしいんだもん。
姉 おかしいよね。他の絵本とぜんぜん違うんだもん。絵もおかしいしさ。
母 たまには他の本も読んであげようかって言うんだけど、二人とも頑として。
二人 キャベツくん。
姉 もう題名から笑っちゃうよね。
妹 こんな変な本どこで見つけたの?
母 お父さんが買ってきたのよ。
姉 そうなの?
母 後にも先にも、お父さんが買ってきたのはこの一冊だけ。
姉 そうかあ、お父さんが買ってきたのか。
妹 ねえ、お母さん。
母 何?
妹 読んで。
母 え、今?
妹 読んでよ。
母 ちょっと恥ずかしいなあ、いや、相当恥ずかしいなあ。
姉 読んであげてよ、っていうか私も聞きたい。

   しばしの間。

母 一回だけだぞ。
二人 わーい。
   母、絵本をめくり読み始める。

母 キャベツくんがあるいてくると、ブタヤマさんにあいました。「こんにちは」と、キャベツくんがあいさつをしました。ブタヤ マさんは「フー」といいました。かぜも「フー」とふいています。

   あの頃のように笑う二人。

母 …あれ?
姉 しーっ。寝ちゃった。
母 子どもの頃は、三回は読まないと寝てくれなかったのに。
姉 私は?
母 あなたは一回読んであげればすぐ寝てくれたかな。おりこうだから。
姉 おりこうか。
母 しっかりものだしね。
姉 しっかりものか。
母 でも、無理しないでね。
姉 え?
母 お姉ちゃんお姉ちゃんって言われてきたからね。わがままは全部妹に取られてきたんだもんね。
姉 …まじめちゃんだからねって、
母 まじめちゃん?
姉 友達が、
母 あ、さっきの話し?
姉 好きでおりこうにしてるわけじゃないよ。さぼりたい時だってあるんだよ。泣きたい時だって…。
母 よくやってるよヒカルは。
姉 えっ?…うん。
母 でも頑張りすぎないでね。
姉 …うん。

   しばしの間。

姉 お母さん、シリウスっていう星、知ってる?
母 あ、どこかで聞いたことあるなあ、なんだっけ?
姉 ナウシカ?
母、そうそう、「シリウスに向かって飛べ。」
姉 シリウスはね、おおいぬ座の一等星。地球から見える、一番明るい星でね、「光輝くもの」っていう意味なんだよ。
母 そうなんだ。
姉 …私のあこがれ。
母 今見える?その星?
姉 おおいぬ座は冬の星座だからね。
母 そうか。
姉 あ、でも夏でも見えるんだよ。明け方にね、太陽が昇る前に東の空に青く光ってるのがシリウスだよ。
母 ふーん、青いんだ。
姉 地球からとっても近いんだよ、シリウスは。
母 そうなの。
姉 8・6光年
母 ん?な、なんだっけ?
姉 光の速さで8年かかるっていうこと。
母 遠いじゃない。
姉 星の中では近い方だよ。
母 じゃあ、今見てるのは8年前の光っていうことね。
姉 そうそう。8年前。…8年前の私覚えてる?
母 8年前ってことは、幼稚園か。年中さん。ずいぶん大きくなったね。
姉 どんなだった?
母 ブランコが好きでね。
姉 ブランコ?
母 幼稚園でも公園でも、とにかくブランコを見たら乗りまくってた。
姉 小さい時のこと、いつまでもずっと覚えていられたらいいのにね。

   しばしの間。

母 こっちに来る?
姉 え、いいよ。
母 恥ずかしがらなくたっていいじゃない。もう寝てるし。
姉 …。
母 ほら。
姉 うん。…お父さん、もう寝たかな?
母 どうだろう?
姉 お父さんと会えてよかったね。
母 えっ…うん…そうだね。
姉 私たちにも会えてよかったね。
母 …そうだね。

   立ち上がり、窓の外を見ると、

姉 あれ?隣の家の電気。
母 何?
姉 ついてるよ電気。
母 あ、ああ、ブレーカー下げてあったから分からなかった。つけてくるよ。
姉 いいよ。
母 え?
姉 いいよ、今日はこのままで。
母 …そうだね。
姉 うん。

   姉は母の隣へ。

母 もう一回読む?
姉 うん。
母 8年前。
姉 うん、8年前。
母 じゃあ読むよ。キャベツくんがあるいてくると、ブタヤマさんにあいました。「こんにちは」と、キャベツくんがあいさつをしました。ブタヤマさんは「フー」といいました。かぜも「フー」 とふいています。……

   母の絵本を読む声が続く。姉の小さな笑い声。
   みんなの気持ちが少しだけ優しくなった夜。
   いつの間にか雨はあがり、星が瞬き始める。静かに幕。        
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